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『縮小』のショコレーチ(参)

 -前回のあらすじ-

 ピンチをものにし、苦難を乗り越えスキンシンに到着した一同は、昼食を取ることにした。しかし、店を見歩いていると、忽然とフーゴンが姿を消したのだ。フーゴンは、ショコレーチのレガリアにより、小さくなっている。どうするフーゴン!どうする悠谷たち!どうなる!?ショコレーチ!!


 13時27分48秒。

「スキンシン前でヤツに襲われた時···ヤツが逃げた後に能力は解除された。意図的にか?···いいや、違う。ヤツの『レガリア』は私のと同じように、『一定の範囲内でしか』発動しないんだ!」

 つまり、ヤツは必ず、その『一定の範囲内』にいる。その範囲内は分からないが、必ず、そう、『必ず』なのだ。

「じゃあ···『どうするべき』だ?······『ヤツから離れるべき』なのか?確実に安全なのはそうかもしれない、だが···ヤツに近付かないいじょう、このレガリア地獄からは逃れられない」

 突然ですが、ここで問題。

 次にフーゴンの取る行動は?

 1.レガリアを使い通行人の肩に乗る。

 2.苺をつまみ食いする。(苺の代金は払わない)

 3.ヤツを追いかける。

「答えは――『全て』だッ!私には、やるべきことがある。それは、グランベル・ミサの悪事を止めることだッ!お前なんぞに、構っておる時間はァないッ!」

 フーゴンは上昇気流の風を起こす。半径50メートルというのは、小さくなった体からの『体感半径50メートル』らしく、フーゴンから見て大規模でも、他のものからすると小規模だ。

「···これでヤツを追いかけてやる!ヤツの逃げた方向は脚の向きを見たからある程度推測できる···が、その前に『腹ごしらえ』だ」

 腹が減っては戦ができぬ。フーゴンは地面に降りて、近くにある市販の『苺』を食べ始める。

「苺には···ビタミンCが多く···含まれている···旨い、旨い···1日···に5粒食べるだけで、1日の必要量を···満たせるんだとか」

 小さい体からすると、半分だけで十分に満たせる気がする。

 ギャリィ。――鉱物と鉱物を擦りあわせた音がした。

「···こ、れは!『苺の種』ッ!」

 どれ程小さくなったのだ。小さくなって···『力』さえ失っているじゃないか。

「苺の種さえ噛み砕けないだなんて!い、いったい···わたしは!どれ程ッ!小さくなっているんだァ!?」

 フーゴンの考えなら、この道から出るのはじゃん拳で勝つより簡単だ。だが、それは···『力有ってこそ成り立つ勝算』なのだ。

「···い、いや···わたしには目標が···あるんだッ!苦難の1つや2つでへこたれていてはいけない!」

 フーゴンは覚悟を決め、もう一度風を起こす。この風に乗れば、もう後戻りはできないだろう。もし『後戻り』をすると、自分自身に許してはもらえないと、分かっているからだ。

「···1人で戦うのは怖くない。だが、1人で死ぬのだけは···勘弁だッ!だから生きる。勝つ!必ずグランベル・ミサの元へ辿り着くゥッ!」

 グォゥウ。ビュルウウ。

 上昇気流の風がフーゴンを『体感』高く持ち上げる。そして、近くの通行人を見つけ、その通行人の肩に乗る。

「車を置いた『駐車場の方へと』···ヤツは向かった。だから···こいつの『肩で』いいだろう」

 通行人の歩幅は至って正常。フーゴンの足では駐車場まで何時間かかるか分からないが、この方法ならば『1分』で行ける。

「よくよく思ってみれば···とんでもなく腹が立ってきたぞ!今ごろヤツは「フーゴンを倒しましてよ!」って考えてるんじゃないだろうなァ!?わたしはまだ生きておるというのに!」

 フーゴンが『視る』はただ一点。ショコレーチの『心』だッ!何をしているのか、何を思っているのか、全て見え透いている気分だ。


 13時34分05秒

 人混みを掻き分けて走るのが、これほど難しいことだとは考えもしなかった。人はいきなり横にずらされた場合、強引にでも元に戻ろうとするのだ。

「いいか、ゆうや!この道から出たらすぐに『スカートを履いている女性』を探すんだ···もしかしたらもう着替えているかもしれない···だが、『パンツまでは履き替えんだろう』···分かるな?」

「···パンツを見るのは私がやるわ」

 たった数十メートル走るだけなのに、人混みが邪魔で進みにくいだけで7分ほどかかってしまった。ようやく道から出ることができたのだ。

「どこに···ヤツはいるんだ?わたしに考えが正しければだが、ヤツは『そう遠くまでいけない』ハズだ。『レガリアの力を使っているいじょうはな』」

 悠谷が辺りを見回しても、スカートを履いている人物はいない。いるのは――

 スーツを着込んだツルッ禿パゲのサラリーマンらしき人物。

 ジーンズを履いて膨らんだ紙袋を持ったガリ勉系眼鏡の女性。

 短パンを履いてアイスキャンディを舐めているガキんちょ。

 今いくよ・くるよのくるよが着ていそうなモコモコとした服を平然と着ている高校生。

 概ねこの4人だ。

「ッ···『それらしき人物は···いないのだが?』」

 フーゴンは何かの予測が外れたのか、軽く舌打ちをする。ジェリー・ミサは···何を考えているのか分からない。店の並ぶ道を見つめているのだ。

「トルクさん···いえ、皆さん···僕はただの使用人です······『が』···僕は本能を持って行動する人間です···。僕にできることがあれば、どうか···頼ってください」

 なぜ頭を下げるのかが理解できない。なぜ立ち向かおうとしているのか理解できない。

「僕は···グランベル・ミサの実験に反対している···『皆さんの仲間です』」

 『理解できない』のは···私がバカだからか。

 ジェリー・ミサは溜め息をつく。それで何かが変わるわけではないが、自分の煩悩を取り払うには十分だ。

 

(あれは···トルクたち···。あそこの女の子が『ジェリー・ミサ』で、その隣にいる男が『後藤悠谷』ね?あのスーツを着た男は···誰?)

 ショコレーチは悠谷たちを観ている。なぜ、悠谷たちに気付かれないのか···?『悠谷たちが見えるということは、悠谷たちもショコレーチが見れる』ということ。なのに、なぜだ?

(あなたたちは私には気付かないでしょうね。『私はあなたたちの前にいる』けれど···『私は本当の私の姿をしていない』もの···ふふ···)

 にやける口を隠すショコレーチだが、1つ――『フーゴンがまだ死なないのが気がかり』なのだ。

(フーゴンが死ぬと私の『縮小(プテイト)』は解除されるハズ···でもなんでよ?『解除されない』じゃない···おかしいわ。あんな人混み···20秒もあればブチュッよ···?)


 13時32分52秒。

「そ···そんなぁ!」

 フーゴンは『体感』大声を上げる。その声を耳元で聞いているのに、通行人は見向きもしない。

「こっ、こいつ···駐車場のほうに歩いて行くと思えばァ···『食事を始めたではないか』ァッ!!?」

 フーゴンは渋々、この通行人を諦める。他を探さなくてはいけない。フーゴンは風に乗り、飛ばされるように店のドアへと向かう。

「ズルズルズルズル音を立てながら麺をすすりやがって、くゥー···わたしはこれぞといった食べ物を食べていないというのにッ!ラーメン食べたくなるじゃないか!なァにが「美味しいよ、店長」だ!美味しくない味噌ラーメンがどこにある!」

 フーゴンは空腹のせいか苛立ちのせいか、『紳士』という言葉を忘れている。

 ドアに辿り着くことができた。あとは、このドアを――開け――···なんだって···?

「な···なんだと···『ドアが···開かない』···ッ」

 この店のドア、それは『自動ドア』なのだが、ここは···『ボタンを押す自動ドア』だ。

「小さくなったわたしに、ボタンを押す力なんてない!」

 唯一出る手段は、誰かが出入りすることだ。それまで待てと?見渡す限り、この店は人気がないみたいだ。人が少なすぎる。

「だ、ダメだ。急ごうが、何をしようが、わたしは···『間に合わない』······終わ···終···わ」

 ··················『らない』

「――あまりやりたくなかったことだが···。『レガリアを悪用する』···これじゃあヤツらと変わらない。···だがこれは!『悪を断つための悪』ッ!やるしかないんだァッ!」

 ギュゥゥゥウゥゥゥゥゥウゥゥ。

 ガァァァッァアアァァァァァ。

 フーゴンは体感半径50メートル以内全体に風を起こした。風は一方向に吹かせるが、辺りのものに風が動かされ、『同心円状の台風』になるッ!

「『操れるのが半径50メートル以内の風』なのであって、半径51メートル以降の風は···一定時間内は『中で起こした風の流れになる』ッ!暴れろぉ、台風(ティフォン)ンッ!」

 いくら力が弱くなっているといっても、小さな物ならば動かすことができる。台風の範囲は段々と広がっていき、遂には壁にかかった木版が落ちる。

「なっ、なんだあッ!?て、店長お!いきなりこれが落ちたんだけどお!?」

「え?まっさかぁ、お客さんが当たっただけでしょ?」

「なんで椅子に座ってる俺がよお、6メートルは先の物に当たるんだあ?この店よお···なんかあ、霊でもいんじゃあねぇのお?」

「ちょっ、お客さん!他のお客もいるのに···ッ物騒なこと大声で言わないでくださいよ!」

 ザワザワァ。ゾワァザワァ。

 客は一斉にざわつき始める。――代金をレジに置いて立ち去る輩もいる。店長の顔は見えないが、フーゴンは元の大きさに戻っても、この店長とは顔を合わせることができないだろう。

「すまん···だがこれは『世界の為』なんだ···世界の危機に面していることを、どうか『察してほしい』」

 ――フーゴンは頭を下げることなく、ドアが開いたのを確認すると店から出ていく。

「···腹が立って仕方がないぞ···自分が空腹だということも忘れるくらいに···ちょうどいいダイエットになるくらいに······名前は知らんが女ッ!お前はわたし···『スウェル・フーゴンの恨み』をかった!」

 ビュウルゥウウウ。

 なんだかレガリアの威力が増した気がする。

 そうだろう、レガリアは『精神力』と同じ。ショコレーチを倒そうとするその精神が、フーゴンのレガリアを強くするッ!

 

 13時42分37秒

(ッ···やっぱりだわ···フーゴンは死んでいない···。感じる、フーゴンは···『こっちに来てる』···!『付与能力』はただ相手に付けるだけじゃなく、『相手の位置』も感じ取れるのよ···だから断言できちゃう···)

 ショコレーチは身構える。悠谷たちにバレてはいけないのは前提なのだが、フーゴンを警戒すると、ついつい不審な動きになってしまう。

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