表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/22

グランベル・ミサと『敗者』の男(弐)/『縮小』のショコレーチ(壱)

 -前回のあらすじ-

 この物語のラスボスであるグランベル・ミサと『敗者(ペルダン)』の男。『悪』対『悪』の戦いもまた、面白いだろうと思っているが、どう考えても勝敗が見えている!

 どうする!?『敗者ペルダン』の男ッ!


 男から垂れ続ける液体は、汗や血液などでは断じてない。これは『泥』そのものだ。

「···ここには濡れちゃいけないものがあるんだ。『はやく行け』」

「おいおい···それが最期の言葉でいいのかァ?『悪なら悪らしく』···「世界の半分をお前にやろう」とか、あんじゃァねぇの?」

 『泥』は男の辺り一面に広がっている。――そして、その『泥は動き出した』。

「『モルモット』にくれてやる世界はない。はやく行――」

「てめェはそれしか言えんのかァーーーーッッッ!!!飛びかかれェ、『お前たち』ィッ!」

 『泥』は不自然なまでに形を変え――『人の形』になった。『人』そのものだ。指も鼻も目も、全てが揃っている。

「『敗者』の『レガリア』···怨念の塊だな。憎らしいって感情がその『レガリア』から伝わるぞ」

()れ言を抜かす暇があんなら、自分自身の身を、守りなァーッ!」

 ガシッ。

 グランベル・ミサの脚を『泥人形』が掴まえた。

「――だから、『もう守っているではないか』」

「······えっ!?」

 さっきまで男の前にいたグランベル・ミサは、そこにはいなかった。『男の後ろ』に立っている。

「な、何が···どうなっていやがる?グランベル・ミサはッ!···俺の後ろにいたっけかァー!?」

「お前の『敗者(ペルダン)』···その固い意志からなる悪は確かに強い。『だが』、敗者は何をやっても、敗者から変わることはできない」

 根本から、この戦い、グランベル・ミサが勝つことは確定していた。グランベル・ミサには世界を征する能力があるのだから。

「かぁ···は······み、ミサさんよォ。殺すなら殺せよ···あんたの『レガリア』···で」

 辺り一面に広がっていた『泥』は、男に吸収されていく。

「···モルモットは『実験道具』だ。実験をする『前に殺すものか?』」

「その口振り···実験をした『後に死ぬ』って感じだな。説明しろよ、オイ」

 グランベル・ミサは何も答えない。ただ男の横を通りすぎ、机の前の椅子に腰をかける。

「···これで分かったか?···スウェル・フーゴン一行を殺しに行け」

 やはりそれか。男は呆れた。

「あァーッ!『行くよ』、行きゃアいいんだろ?――だが1つ、質問がある」

 男はそう言い、カップを指差す。

「あんたはその『カップの中にお茶を注いだんだ』。だが、どうだ?いま、そのカップの中には···『何も入っちゃいない』じゃないか。一瞬にして飲んだか?」

「···その質問に答えることで、お前はスウェル・フーゴン一行を確実に殺せるのか?」

「うっせぇ!単に俺がいま気になってるから訊いてんだッ!」

 男がそう叫ぶと、グランベル・ミサは何一つ動じず、カップに紅茶を注ぎ始めた。

「その、カップに仕掛けがあるのか?···いや、実は入れていなかったり···」

 ゴチャゴチャと呟く男に、グランベル・ミサは紅茶入りのカップを投げて渡した。

「その『カップ』に仕掛けなんてない。1895年、日清戦争で戦死したビンギック・カーベケが残した遺品だ。取っ手部分に『1895』の数字と『B・K』の文字···ビンギックは自分の物には『B・K』のイニシャルを彫る。椅子にも、家にも···『妻にも』な」

「···触っていて分かるぜ。この『茶』も普通そのものだ。――これを、どうするんだ?」

 男はグランベル・ミサを睨み付ける。

 飲めって意味じゃねぇだろうなァ?そうだったら、ここの機械や資料にぶっかけてやるぜ。そう顔で訴えていると、グランベル・ミサは言った。――「『飲んでみろ』」

「ザァッッケンじゃアないぜ!グランベル・ミサァ!」

 男は大振りでカップを投げた。カップから紅茶が流れ出た――瞬···間······ガッシャァーン。カップは地面に当たり割れた。

「あ···あぁ、なんて···こった···確実に入っていた『お茶が···ない』じゃないかァ···」

 粉々に割れたカップからは、お茶も、液体自体、垂れていなかった。

「···どっ···どうしてなんだァッ!どうして!どうして!どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてェ!『お茶はどこに消えた』ァーーッ!?」

 男は自暴自棄になり、割れたカップを踏みつけた。男の足裏に痛みが走り、破片が靴を貫通して刺さったのだと、男は後悔した。

「···これが、俺の『レガリア』だ。分かったなら行け」

 男は口を開けたまま、建物の外へと歩いて行った。

「···このカップは、世界に1つしかないものだ。それが割れるということは、1つの歴史の終わりを意味する。だが、いまここに『新たな歴史』······『割れた』ということが誕生した」


「ゆうや!起きなさい!」

 誰かがそう言いながら悠谷の体を揺らす。

「見えてきたぞ。スキンシンが、もうすぐそこだ」

 寝ぼけ面をした悠谷は、車窓から外を見る。ゲネとは一層違い、日本の『明治時代』を思わせるような風景があった。これが、これこそが、ここスキンシンでは当たり前なのだ。

「煉瓦造りの家···馬車がパッカパッカ走り···あれは、鉄道か?」

「イーズランドは非常に日本とゆかりのある国だ。スキンシンは中でも『日本の昔』を取り入れるため、2年前までは『ちょんまげ』が流行っていたのだ」

 文明開化遅くないか?そう言いたかったが、悠谷は、これも広い世界の1つなのだと考え直し···何も言わなかった。

 キュィィイイ。

 突然のブレーキに、一同の体は崩れた。

「ど、どうした···」

「い、いえ···夢でも、見ているんでしょうか?何でしょうゥ?···この、こ、こ···の······『スイカは』ァーッ!」

 車の前にあったのは、通常とは思えないほど大きな『スイカ』だった。

「オッ、大きいッ!」

「···いや、違うッ!――気付かなかった···『スイカが大きいんじゃない』、『わたしたちが小さいんだ』ァ!」

 見よッ!周りの木々が、石ころでさえ、悠谷たちより何メートルも高いではないか!こんな現象が起きたいま、一同は必ずしも思う。『またレガリアだッ!』

「こ、これは危険だッ!近くにレガリア使いがいるのは確かだ···そして、そいつからして、我々は『(あり)と同じ』大きさだッ!『踏み潰されてしまう』ッ!」

 車はスイカを避けるように走り、猛スピードで加速した。

「電柱と電柱の距離はおよそ30メートル!だが、いま通った電柱から向こうの電柱まで···5000メートルは余裕であるぞ!」

 悠谷の歩幅は45センチメートル。5000÷0.45=11111.111···。遠すぎる。

「···『詰んだ』かも、知れない···ッ。小さくなる前なら、まだ防げたかもしれないのにッ!」

「違うんですッ!フーゴンさん!運転していたから分かるんです!運転手は『よそ見をしません』から!――我々は『だんだんと縮んだ』のではありません、『一瞬』ッ!そう、『シュッって感じに縮んだ』んですッ!」

 防ぎようがなかった、ということか。車窓から見える景色では、どの『脚が』レガリア使いの脚か断定できない。

「こちらから行動を起こすのは無理だ――」

 悠谷は一同全員が聞いていることを確認し、話を続ける。

「こいつの『レガリア』は『サイズを変える』のが能力なのは分かる。そしてグランベル・ミサの命令は『俺たちを殺す』こと。つまり、こいつ直々に俺たちを殺しにくるんだ。攻めてきたとき···『その時』こそ絶好の『反撃時』だ」

 待っていれば···いい!全ては待つことから学ぶのだ。悠谷はいまさっき、そんな言葉を考えたが、戦いの舞台で変なことを言うのはすことにした。

「···『反撃』ほど、いま信じられものはない···」

 悠谷が聞いたのは、ジェリー・ミサの唾を呑む音だ。ジェリー・ミサの顔は、焦燥感が漂った野球選手の顔であった。

「······」

「······」

「···ッ!何かが降ってきますッ!」

 ブヂュッ。

「この赤い色、黄色のスジ···これは···『リンゴ』なのか?」

 ヂュッ。クチュ。

「緑色と白色の線···こっちは『メロン』か!」

 ボヂュ。

「うわぁッ!?『パイナップル』だわ!こいつ、狙って落としてるッ!」

 この『3つの果物』で何かできないものか?悠谷は考える。だが、フルーツに関しての知識はあまりないため、悠谷ではお手上げだ。

「···『遠くから』だ」

 トルクがそう呟いた。

「え?」

「このフルーツの潰れ方は、『遠くから投げた』からなんだ!計算は時間がかかるからやらないが、あそこの『植木鉢うえきばち』の隣の『脚が』ッ!レガリア使いだと予想するッ!」


 ···。

「おっ、きたきた。やっぱり···分かっちゃうのねぇ」

 女はニタリと笑う。紙袋を漁り、中から『バナナ』を取り出すと――車に目掛けて投げる。

「『運転してる人』、ドラテクヤバすぎない?はは···」

 女の名前は『ショコレーチ』。レガリアの名前は『縮小(プテイト)』。『ものを小さくする』能力だ。


 バナナを避けた車は、植木鉢えの長い道のりを突っ走る。

「···あれ?ふと思ったが、『わたしたちは小さくなっている』んだよな?」

「ん?トルク君、それがどうかしたのかね?」

「『どうしてわたしたちの位置が分かるんだ?』···フルーツは明らかに狙って投げている!」

 そうも言っていると、次は『ブドウ』がおちてきた。

「どうにかして早くあいつのところまで行けないか!?フーゴンさんの『風』はどうだ!」

「『無理』なんだッ!どうやら『体が小さくなるに伴ってレガリアの力が減った』ようだァ!」

 レガリアは『生命力の象徴』。小さくなるということは、『生命力の減少』と同じ!フーゴンだけではなく、ジェリー・ミサもトルクも、まったく同じだ。

「······方法ならあるかもしれない」

 そう言ったのは、トルクだった。

「『植物』は生命力の強い生物だ。そこに微量でも『生命エネルギー』を与えれば···――ただ、これは危険を冒すことになる。死ぬのもおかしくない···」

 最後の一言で、一同は困惑する。悠谷とフーゴンは渋々頷く。使用人は、フーゴンが頷くなら、という感じに賛成する。

 だが、ジェリー・ミサの手は微かに震えている。ジェリー・ミサの顔を伺うと、怯えてただ一点を見つめているように見える。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ