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波のように流れる話/グランベル・ミサと『敗者』の男(壱)

 ルッテ・クレンゼンに勝利した頃には、辺りは既に静まり返っていた。

「――では、さっそく話してもらおうか。お前が従い、欺くことのできない···『グランベル・ミサのことを』ッ!」

 わざわざ縄で縛る必要もないだろう、悠谷はそう思いながらも、フーゴンの横でただ見ている。

「······エっ?きミたち、『グランベル・ミサヲ知ッていルのかイ?』」

「ッ!?『知っているのか』···だって?まるで···いや、それは!まさか!」

 ――「お前はッ!『ルッテ・クレンゼンは』ッ!」

 ――「『グランベル・ミサの手下ではない』のかッ!?」

「て、手シタだナんテシつ礼だッ!誰ガ、あんナヤツト!――人のイのチハ『碁石』ッ!チ球といウ『碁バン』ッ!ソう!ヤツは、この『世界』ヲ『イゴ』としカ見てイナいよウナヤツだッ!」

 ルッテは束縛されながらも大きく暴れる。その熱狂的なルッテを見るなり、ジェリー・ミサは今までの戦いは何だったのかと疑問に思ってしまう。

「···じゃあ、あなたが言っていた『主様』って?誰なの?」

「『主様』ハ···ボクに『レガリア』を与エた人サ。ソシて、ボクを心シんトもに育テてくれタんだ」

 何を思い浮かべたのか、ルッテは静まり返った。ルッテの表情(かお)を見ていると、なぜだか『哀しい』という感情が伝わる。

「ん···その『主様』の名前は?」

「『ショーレフ』···と、主サま自身がナノっテいたヨ。『実めイかはワカラないケど』ね」

 聞き覚えがない名前。それはフーゴンもトルクも、そしてジェリー・ミサも知らない名前だ。

「じゃあ、なぜ私たちに攻撃を?」

「『攻撃シた』のはホん当に悪カッたとオモっていル。いまハモう、きミたチはボクノ、そう、いノちのオん人サ」

 ルッテは地面に頭が当たるスレスレの所まで、誠心誠意感謝している。

「答えになっていないじゃないか」

「『え?』あ、あァーっ!ご、ごメン!えっと···ボクはネ、『主様ヲたスケるたメに』····『無リやり』やらサれテイルんだ」

「助けるためってことは···『人質』にでも?」

「ッ、『イかニモ』ッ!」

 またもやルッテは暴れだした。熱くなりやすいタイプなのか?

「···本当に、もう我々を攻撃しないか?」

 いい加減縛っているのが窮屈だと察したのか、フーゴンはルッテに甘い言葉をかける。

「チカう!もシ『裏切ッたラ』君タちの『レガリア』でボクヲかワにでモホうり投ゲテいい!ソのママ溺シすルマで!」

 フーゴンは悩んでいるのか。顎に手を当てながら黙り込んでいる。

「······トルク君!」

「!?は、はい!」

「『信じることはッ!紳士の在り方か!?』」

「『在り方』···少なくとも、わたしは『そう』だと思います」

 その瞬間、フーゴンは『疾風』の速さで縄をほどいた。瞬時のことだったので誰もが『ちんぷんかんぷん』だが、フーゴンはドヤ顔を見せていた。

「···三日マえ、ボクあテに手がミガ届イたんダ。「主は消えた。居どころを知りたければ、数日後ゲネに到着するスウェル・フーゴン一行を殺せ」ってネ」

「···ますますグランベル・ミサのことが分からなくなった!わたしの元に届いた『手紙』は『来い』と書かれていたんだ。だが、どうだ?立ちはだかるは我々に攻撃を仕掛ける『グランベル・ミサの信者たち』だ!グランベル・ミサは···本当に『来させようと』しているのか!?」

 悠谷は自分の顔が、無意識の内に強ばっていることに気が付いた。

 なぜか?それは、グランベル・ミサへの怒りか?状況を理解できない自分にか?――答えは『全て』ッ!『何もかも』が悠谷を戸惑わせ、狂わせているのだ!

「···私の中の『仮定』は···『レガリアの実験』が関係している。よ。今まで襲ってきた敵は全員『レガリアを持っている』わ」

 『レガリアの実験』――フーゴンがグランベル・ミサはレガリアの研究を進めていると言っていた。もしそうならば、ルッテの言ったように悠谷たちは『碁石(モルモット)』と同じ価値観だ。

「どうやら···わたしたちには(くつろ)いでいる暇がないようだ」

 フーゴンはそう言い残すと、ずっと待機していた車に乗り込む。

「ルッテ···だったか?『お前はどうしたい?』」

「···ドういうコトかナ?」

「主様を助けるのか?···ということだ。わたしたちを殺すことは、諦めるべきだ。だったらどうするか?『お前が』『お前自身の意思で』···『グランベル・ミサに抗うこと』だッ!」

 悠谷は次に、自分が呼吸をしていないことに気が付いた。緊張感が悠谷の喉を締め付ける。

「············『アらガワないヨ』。当タりまエジゃなイか」

「なッ!?」

 いま、確かにルッテは『抗わない』と言った。つまり、『それ』は···ッ!

「ボクは『グランベル・ミサのこトを忘れル』ってコトサ」

「えっ?『忘れる』って、じゃあ主様はどうするんだッ!?」

 悠谷がそう尋ねると、ルッテは呆れたように溜め息をついた。――何を言ってんだが。分かんねぇのか。お前はバカなんか。そう人を煽るような溜め息だ。

「主サまハボクを育テたジン物だよ?『レガリア』をモッていルんダヨ?···『ボクの中デは』、最きョウなンだヨ?『そんナ人がマけルワけなイジゃんカ』」

 そう言ったルッテは自信に満ちていて、その目の中にある『悲しみ』さえも、その自信で隠している。

「···じゃあ、お前は···『どこに』行くんだ?」

「ボクのイえは付近ノ『グツデンマ神社』サ。良かッたらオちャでも···トは、言イタたいケど、『時カンがナい』んダッけ?」

「ああ、そうだ。1日はたったの24時間だ。1ヶ月は720時間。1年は8760時間。何事にも『期限が存在する』」

 フーゴンがそう言うと、トルクは使用人と目を合わせる。アイコンタクトをしているのだろう。

「グランベル・ミサはいつ研究を遂げるか分からない。だったらどうするか?『予想』より167時間(1週間)早くにグランベル・ミサの元へ辿り着けばいい。それがわたしのやり方だ」

「···そウダね。じャあ、ボクはそろそロ帰ルコとにスるよ。モウ、主サまがカエっテきていルかもしレないシね」

 そう言うなり、ルッテはどこかへ歩いていく。その背中を見ると、いきなり襲ってきたことへの『怒り』は自然と消えるのだ。

 ルッテ・クレンゼンのことで知っているのはここまでだ。この先の旅で出てくることはないだろう。だが、悠谷たちの胸には、『ルッテ・クレンゼンのいた証』が刻まれている。

 ルッテ・クレンゼンの胸にも『悠谷たちのいた証』が刻まれ――新たな『讃歌』が生まれる。


 次に一同が向かうのは『スキンシン』という町だ。

「スキンシンでしばらく車とはお別れだ。馬車もない。···歩いていくしかないな」

 悠谷はどれほど歩くのか知らないが、相当長い距離歩くのではないか、と不安がある。

「スキンシンにはホテルがない。つまり、スキンシンで野宿か···夜も『ぶっ通し』で行くか···どっちがいい?」

「······『時間がない』、じゃなかったんですか?」

 そう答えた悠谷の目は『正の塊』がある。まるで遠い未来を見透かすような、その目を、フーゴンは『勇気』なのだと確信する。

「――分かった。『ぶっ通しで行こう』。みんなも、それでいいか?」 

 トルクとジェリー・ミサは頷いた。その『頷き』で、フーゴンは微かに笑う。

「···まぁ、スキンシンまではまだまだ先だ。それまでは休んでおいて構わないよ」

 ジェリー・ミサは言われた通りに、下を向いて目を瞑る。それに釣られて、悠谷も下を向いた。

「···ジェリー、今回は···『後悔』しなかったか?」

 ふと、悠谷はジェリー・ミサに尋ねた。数秒後、その問いかけへの返事が返ってくる。

「今回、痛い思いをしたのはユーヤの方でしょ。ナイフで刺されて、全身に毒が回って――『だから』なのよ」

「『だから』?」

「···『ユーヤを守ろう』って思ったから、私は戦えたの。怖くて逃げようかとも思ったわ。でも、ユーヤを助けたいから、私は逃げずに戦えた――ユーヤのおかげよ」

 なぜだが悠谷の鼻先に痛みが走った。涙が溢れようとする。堪えろよ、ジェリーの前では泣かないんだってとこ、見せなくちゃいけねぇだろ···。

「···はは、·それ、俺が痛い思いしないといけないってことか?」

 そう言うと、少し涙が引いたきがする。これで顔が上げられる。

 ――顔を上げた悠谷は、最初にジェリー・ミサの濡れた袖を見た。微かに聞こえる『泣いている声』···。

「···『どうしてお前が泣くんだよ』···変なやつだな」

「『仕方ないでしょ』···。感謝しているんだから」

 ユーヤはそっと、ジェリー・ミサの頭を撫でた。ジェリー・ミサの髪の毛はサラサラしていて、まだ子供なのだと解るのだ。

「······ありがと」

 ――そうだよな。ジェリーはまだ『子供』なんだよな。だから···『(おとな)が』守らないといけないんだ。悲しませちゃ、怪我を負わせちゃ、『ダメなんだよな』。

 悠谷はそれから眠りについた。動く車の中で寝ることができたのは、人生初かもしれない。


 ――ワンギル。

 すぐ隣に深淵があるため、ワンギルでは常に強風が吹いている。どれくらい強いのか?4歳の子供は簡単にビューっと飛ばされるくらいだ。

「···」

「···」

 『とある建物の中』で、男とグランベル・ミサ見つめ合う。

「どうした?はやく···スウェル・フーゴン一行を殺しに行け」

 グランベル・ミサが出した『命令』に、男は一切動じない。まったく動かない。

「···ミサさんよォ。『俺ら』はな?あんたの駒じゃないんだぜ?嫌なら「嫌だ」って言うし、OK(いい)なら盛大に「オッッケェー」って言ってやるさ」

 男は挑発する素振りを見せる。だが、動じないのはグランベル・ミサも同じ。平然と男を見ているだけだ。

「······はやく、行け」

「――聞こえなかったのかァッ!それとも!理解できなかったのかァ!?俺は『拒否』したんだよッ!バカタレが!」

 建物は狭く、大声を出すと声が響く。

 グランベル・ミサは平然と、表情1つ変えることなく――『カップに紅茶を注いだ』

「なッ···ミサァさァんよォ···『俺ら』の根性見せてやんぜェーーっ!度肝抜かれんなよなァ!『敗者(ペルダン)』ッ!」

 男がそう叫ぶと。男の体から体液が垂れ始めた。

「···『敗者』の怨念により、お前は···死ぬッ!」

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