表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/22

不思議なルッテ・クレンゼン(弐)

 -前回のあらすじ-

 フーゴンは凄いッ!メルタケスがヤバいらしいッ!

 そんな中、悠谷とジェリー・ミサは不可解なレガリア使いの男に攻撃される。それは『夢』で見たことが本当になるという、よく分からない能力だ。

 男の名は――ルッテ・なんとかッッ!


「そう···ボクの名まエは『ルッテ・クレンゼン』···セ界でゴバんメくライに『毒』ヲ愛しテいるモノサ」

 毒の影響か、長時間水の中にいたからだろうか、脚に痺れがある。立つことはできるが、走れないかもしれない。

「ユーヤ···大丈夫?シャキッと立てる?視界は?モヤはある?呼吸は安定してる?両手をグー、パー、グー、パーできる?腹痛とか、体のどこかが痛むとかは?」

「大丈夫、平気だ···。ははっ、ジェリーが過保護すぎて『喉がいてぇよ』······ッ!?グブッ、ガハッ。カッハッ」

 ビィチュア。

 悠谷の右手とジェリー・ミサの着ている服を赤く染めたのは、悠谷の口から吐き出された『血液』だった。

「とッ!『吐血』ッ!?」

「『ヤバい』···ミタいダね。あとすウ分もタてバ、悠谷ハ『死ンだほウがマシ』ッておモウようのニナるヨ」

 ――完ッ全にバカにしてやがる···『あと数分』だぁ?もう···『それ』なんだよッ!

「···ぁ···ユーヤ···どうだろ、『危険を冒していいかな?』」

 瀕死状態の悠谷から見えるジェリー・ミサは『いますぐここから逃げたい』と訴える目をしている。だが、悠谷は『可能性』を見いだした。

 ――ジェリー・ミサには『やらなくてはいけない』と『やりたくない』の2つの感情がある。悩むということは『示せば』いいのではないか?

「ッ、ジェリーッ!触れていたから分かる···そいつの着ている服の『胸ポケットの中に』···あるかもしれないィ···ぁ」

「ッ!?···『胸ポケットの中』······でも待って!『解毒剤があいつに触れている』なら···『爆発は使えない』わ!解毒剤ごとボンよ!」

 考えていなかったわけではない。ルッテは『戦いを観てきた』と言っていたのだ。ジェリー・ミサの『シャボン玉』への対処法はバッチリだろう。

「そモソも···こコにあるノガ『解ドく剤』か···タシかじャないヨね」

 ルッテがそう言うということは、その『胸ポケットの中』には何かがあるということか。それがもし『解毒剤』ではないとしても、悠谷たちは数少ない『可能性に命を賭ける』。

「ジェリー、取り方を···説明するぞ」

 * 

「ふぅ···近くでの大声は精神的にもキツいなぁ」

「ゆうやとジェリー・ミサもどこかへ行ってしまいましたからね」

 まだ辺りが騒がしい。難を逃れるため車の中に入ったが、2人がいない限り車を出せない。

「···探しましょうか?」

「んー。いやぁ、ゆうや君はまだしも、ジェリー・ミサは『音』に反応して『シャボン玉』を出すのだろう?無関係の人間が怪我を負うハメになるのは避けなければいけない」

「そ、そうですね···」

 外の様子だと、あと20分はこのままだろう。···退屈だ。

「···あぁーそうだ、聞いてくれ!今日見た『夢』でな、『ゆうや君が煉瓦で(つまず)いて川に落ちた』んだ!」

 フーゴンは言い終わると、大きな声で笑った。

「は、はぁ···『夢』···ですか。そういや僕も見ましたね。『変な夢』を···。『フーゴンさんが車を用意していた』という『夢』です」

 ――3人は顔を見合わせた。用意していた車とは、紛れもなく『この車』だろう。

「···くふっ···わァハッハッハ!トルク君、面白い『夢』を見たんだなぁ!」

 フーゴンの爆笑に、トルクと使用人は苦笑する。この『偶然』がまた面白いのだ。

「最初にこの車を見たとき、変だと思っていたんですよ!まさかこの歳にまでなって『正夢』だなんて!これは面白い体験をしましたよォ!」

 フーゴンとトルクが大笑いする。だが、使用人だけは、何か悩んでいた。

 *

「――···だ。この『作戦』は···グッ···どう足掻いても『2回』が限界だ。いい···な?俺は、『ジェリーを信頼しているからな』···」

 頭痛、目眩、痺れ。常人ならこのまま暴れた末、死に陥るだろう。だが悠谷は違う。悠谷にはジェリー・ミサがいる!悠谷には『生きる価値』があるッ!

「ねェ、本トウに···『こコに』あルとおモウ?」

 ルッテは胸ポケットを叩く。あまり音がしないことから、やはり何かを入れていると分かる。

「は?···そんなの、『見ないと』分からないじゃない」

「ふゥーン······じャあさ、こコニあルモノを『見セてあゲル』よ」

 ――は?

「そンな顔シなイデヨ。ボクはイまから···君たチを······『ぜツ望のドンゾこにたタキ落トす』んダカらさぁ」

 ギッ、ズビィ。

 ルッテは胸ポケットに手を当て、胸ポケットを引きちぎった。そして転げ落ちたのは――「みズサ」

 液体の入った小瓶だ。

「···『水』?」

 ルッテは引きちぎった胸ポケットを、ズボンの右ポケットに閉まった。

「ボクが使ッタ毒ハ『ミずと化ガク反のウを起こシ有毒にナる』。そノ為の『水』ナノさ」

 水――みず――すい――ウォーター――『解毒剤じゃない』···。

「それが···『液体の解毒剤』って可能性は?」

「『なイ』よ。解ドくザイはね、胃でしョうカサレるノを待ツヨり、チョく接···『ちゅウ射キ』で注入すル方がイいンダ···だから、こレは解毒ザいじゃナい。水だヨ」

 ギャシャァン。

 ルッテは水の入った小瓶を石造りの地面に叩き付けた。破片が悠谷の顔へと飛び向かう。それを、ジェリー・ミサは足で弾いた。

「···『絶望のドン底に叩き落とす』だって?······『湧いた』わ。『勇気が』ッ!」

「ジェリー、『最後の作戦』だ!」

 作戦は『2回まで』だ。胸ポケットは違った。残る『1回』は、悠谷の予想が外れたとき用の作戦であり――『最後』だ。

「···あなたの言ってることから、あなたは『解毒剤の他に』『注射器』も持っているのよね?いや、疑問文にするまでもないわ···――持っているのよ!」

「···ん···グ···カッ······そ、ソんなワケ···――」

 図星か。それしかないのだが。

「じゃあ、『どこに』あるんだろ?ユーヤは『胸ポケット』と言っていたわね、うん···そうかも。だって···『実際に胸ポケットの中』にあるんだもん」

「んッ!?···デも、ボクは『引きチぎっテマでミせタ』ヨネ?『かくジつにナカニはナいってショうめいシた』よネ?――だカラ、イマ、ボクノふクハダサくなッてるんダヨね!?」

 ルッテの目線がジェリー・ミサから離れる。それが合図だ。

「今だッ!ジェリーッ!」

 タッタタッ。ジェリー・ミサは体を丸め、左右にステップしながらルッテへと近付く。

 スプァッ。ジェリー・ミサの伸ばした手は、確かにッ!ルッテの着ている『ズボンの右ポケット』を掴んだ。

「ッ!ジェリー・ミサもこコで終わリダァ!よッ!」

 ギュシュッ。

 ルッテは隠し持っていたのか、悠谷を刺したナイフをジェリー・ミサの腕に刺す。

「がァ···ッ――まッ、だァまだ···ふンッ!」

 ――だが、ジェリー・ミサは『逆に』ッ!『抜かずにもっと深く刺した』のだッ!

「ッ!?ナイフが···ッ」

 深く刺すことにより、ナイフが抜けにくくなる。ジェリー・ミサはそれを図ったのだ。

 ビュシュア。

 ジェリー・ミサによって破かれたズボンの右ポケットの中から、ルッテの引きちぎった胸ポケットが落ちた。

「ッ!取ルなッ!――ビギッ!?」

 問答無用ッ!ジェリー・ミサは肘でルッテの顎を強打した後、地面に落ちた『胸ポケット』を拾う。後ろへ下がるジェリー・ミサを、ルッテは捕まえることができなかった。

「な、ナな、なァ···『キょ可もエてイナいのにひトノものヲ取ルヤツがあルか』ァーーーッッ!」

「『許可』?ないわ。そんなもの···『悪には』必要ないもの」

 ジェリー・ミサは、手に入れた『胸ポケット』を割いた。すると、中から『注射器』が出てきたのだ。

「やっぱり···『注射器』は『胸ポケットの布と布の間』にあったのね」

 なぜルッテは胸ポケットを引きちぎったのか?それは2人に怪しまれなくするため。だが、悠谷の目を欺くことはできなかった。

「ユーヤ、注射器ってどう使うの?」

 ジェリー・ミサは投げるように、注射器を悠谷に渡した。

「えっ?あっ···そこまで考えてなかった······まッ!まぁ、『静脈』に射てばいいんじゃねぇか?」

 悠谷は医療に詳しくない。だが、病院で注射器をする時、右腕に射っているのを見ると、大体静脈にやるものかと思う。

 プスッ。

「た、躊躇わずに刺すのッ!?」

「いや、躊躇ってる時間がなかったんだ。――これで何とかできなかったら···終わりかな?」

「ふんぁッ!つか、カかカッカカかかカ···使ワレたァーッ!」

 ルッテは無我夢中に、ジェリー・ミサに向かって走り出したッ!

 *

「そういや···君はどんな『夢』を見たんだ?」

「えっ、僕ですか?」

 フーゴンの問いかけに、使用人の肩は跳ねた。

「えっと···――」

 ――「『見ず知らずの男が煉瓦で躓いて川に落ちる夢』を見ました」

 *

「···あなたの負けよ。ナイフに付いている『毒』も···水に浸かった時、落ちているだろうしね」

 一心不乱、猪突猛進――。

「よォクゥぅッ、モォォぉ――ウギャッ!?」

 ルッテが足を引っ掻けたもの、それは『煉瓦』だ。ルッテは体勢を崩し、そのまま近くの川へとダイブした。

「ガァッ!ボクはッ、泳ゲナいんだァ!モうきミタチとッ、君たチの仲マニッ、こウ撃はシナい!誓うヨ!だカら、助ケテくれぇッ!」

 もがくルッテを上から眺めながら、ジェリー・ミサは唖然とした。

「ジェリー···『助けてるんだ』。グランベル・ミサのことを聞き出す為に。だから···そいつが溺れる前に――」

「あーあー、分かったわよ。『助けりゃ』いいんでしょ」

 ジャボン。

 水しぶきから数秒後、ジェリー・ミサはルッテの『右手の人差し指だけ』を掴んだまま川から上がってきた。

「クッ、ゥ、タスケてくレたこトハ···『感謝』スるヨ」

 

 名前-ルッテ・クレンゼン

 レガリア-『(レーブ)

 生存しているので、特に語ることなし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ