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『後悔』――したか。してないか。(弐)

 ホテルで夕食を終えると、個室への移動だ。

 部屋の都合上、悠谷とジェリー・ミサ、フーゴンとトルクで別けられた。――悠谷はジェリー・ミサと話しづらい。

 ジェリー・ミサが、指が動くようになったのか手を広げては閉じてを繰り返している。

「···お風呂は···えっと···どっちが先に入る?」

 何か、会話が続くものを考えないといけない。そう考えると考えるだけ、理性を失い思い付かなくなる。

「いいわよ。お風呂なんて···私は寝るわ」

「えっ、ええ、いや!お風呂には入らないとダメだろ!ジェリーは『女の子』なんだから···髪だってサラサラで、美しさを保った方がいいだろ?」

 悠谷がそう言うと、ジェリー・ミサは布団の中に潜った。意味が分からない。

「···私は『女の子』じゃない···私は『レガリア』を持っている。普通とは『違う』···この『(ルージュ)』がッ!『呪われている』のと同じよ!」

 どうやらジェリー・ミサは『レガリア』を嫌っているようだ。それもそうかも知れない。ミラやクルペッキンは、悠谷たちを『レガリアで殺そうと』していた。ただの殺人能力だ。

「···『もし』だ。もし『レガリア』で『人殺しが可能』とする···いや、可能だ。それは分かっている。でも、ジェリーは悪いヤツじゃない。ジェリーの『レガリア』は『人助け』に活かすことができる」

「人助けに?···この『爆発』が?」

「あっ···」

 爆発で人が助けられるわけがない。フーゴンの起こす『風』や、トルクの『治す能力』の方が人助けに向いている。

「下手なお世辞はよしてよ···余計傷付くから」

「――···『最後』···だ。ジェリーはなぜ、グランベル・ミサの元へ行こうとする?」

 納得がいかない答えが返ってくるのは、もう分かりきっている。

「···『全て』言うと、徹夜になるわ。36つほどあるのもの」

「あー、え?じゃあ···優先する物を『5つ』にして、絞ってくれ」

 悠谷がそう言うと、ジェリー・ミサは15秒ほど沈黙した。

「···1つ目は『グランベル・ミサが私の弟であること』。親族がこんなことしてるの、止めないわけないでしょ?」

 ···理解可能。

「2つ目は『自分自身のレガリアをもっと知りたいこと』。この力を知るには、多くの『レガリアを持つ人』に会った方がいい···と思う」

 ···理解可能。

「3つ目は···『私に居場所がないこと』。自分の家がどこだったか?自分の記憶には『謎』があるのよ」

 ···んー?···理解···可能。

「4つ目は『自分を知ること』。記憶がおかしい、でも『記憶喪失』とは言えないの。『記憶喪失』にしては忘れたものに『偏り』があるのよ」

 ···理解できなくもない。

「······5つ目は『ユーヤと一緒にいたいこと』――」

 理解できない。『理解不能』。

「えっ···『俺と』?」

「···『ユーヤと』···」

「······『後藤悠谷と』?」

「『私の目の前にいるゴトウユーヤと』」

 ――俺、疲れて寝ちゃったのか?俺の目の前にいるジェリーは偽物か?これは夢だろ?夢であってくれェ!

「···私はユーヤと一緒にいたい。だからユーヤが無茶をしようとすると止めるし、来るなと言われても『行く』わ」

「···それ、俺が『来るな』って言っても『付いてきたら』それはストーカーだぞ?」

 布団に潜るジェリー・ミサを見つめながら、悠谷は呟いた。

「···ユーヤのバカ。私はもう寝る。お風呂に入るなら静かにしてよね」

 布団越しでもジェリー・ミサが寝ようとしているのが分かる。

「おやすみ、ジェリー。···俺はジェリーが『来る』というなら、もうジェリーを『止めない』。『一緒に』行こう」

「···」

 もうジェリー・ミサは眠ったのか?疲れているのか、元々ジェリー・ミサは寝るのが早いのか。

(···お風呂入ろ)

 ジェリーには明日の朝、お風呂を勧める。そうとだけ悠谷は意気込んだ。

「――ユーヤ!」

 ふと、後ろからジェリー・ミサの声がした。悠谷が振り向くと、相変わらずジェリー・ミサは布団にくるまっている。

「なんだ?」

 悠谷が尋ねると、ジェリー・ミサの潜っている布団が左右に動き出した。

「···好きだから!『私は』!」

 ――その言葉以降、もう今日は話さなかった。話すことを諦めたわけではない、悠谷たちは『明日がある』と確信したからだ。今日できることは『明日』やる。そんな思いだ。

 部屋の扉から近いベッドに悠谷が、その奥にジェリー・ミサが寝た。


 翌朝、悠谷が目を覚ますと、そこには思いもよらなかった光景があった。

 ――悠谷と同じベッドでジェリー・ミサが寝ていたのだ。

「あえ···?ジェリー···が、俺を襲ってる···?」

 悠谷的に、自分自身は頭が冴えている方だと思っている。だが、寝起きのせいか、その意味不明な光景のせいか、何の『せい』かは分からないのだが、理解できなかった。

「んぁ···『スケプルスさん』が···『心臓発作』で······アレ?ユー···ヤ?」

 ジェリー・ミサは、ポツポツと言葉を発しながら、その小さい目を開けた。

「あ、へ···あのぉ···おはよーございまぁす···。えっと···ジェリーさんは、なぜ、『ここ』にィ?」

 ジェリー・ミサは、寝癖のある髪をくしゃくしゃにしながら、自分のいるベッドを見る。このベッドは悠谷が寝ていたベッドだ。――ジェリー・ミサが勝手に入ってきたのか。

「······今までありがとう」

 ジェリー・ミサは舌を出した。

「おい待て待てェ!えっ?ちょっ、えッ?――何!?死ぬの!?舌噛みきる気なのッ!?」

 自分の舌を歯で挟んだジェリー・ミサを、悠谷は手を取って止めようとした。舌を噛みきるのだから、手を動かなくしたところで意味はない。

「だッ、だって私『初めて』なんだよ?そんな、こんな···ぁ···」

 顔を赤くするのか、涙を流すのか、不安定なジェリー・ミサを前にして悠谷は困惑する。

「やっ、やや、やめろ!何もしてねぇ俺が悪くなるじゃなねぇか!」

 ――ホットのお茶を飲んで落ち着きました。

「···で、なぜジェリーが俺の寝ていたベッドで、変な『寝言』を言うほど寝ていたのか···だ」

 お茶から沸き上がる湯気を見つめながら、ジェリー・ミサは言い訳を考えている。

「――先に言っておくが、俺がお風呂に入って、上がったあと、布団に入った時···お前はこっちのベッドでは寝ていなかったからな?」

「ぅ···覚えてる、ような···気もしなくは···いや、気がしないのかな···でも···1時くらいに、私は目が覚めて···歯を磨くのを忘れてるのに気付いたから、洗面所で歯を磨いてた···」

「そこだ。根拠はないがそこな気がする」

 まず、歯を磨くだけでなく、お風呂にも入っておけよ。そう言いたかったのだが、必死に思い出そうとするジェリー・ミサを見ると、邪魔をしてしまうと悟った。

「···で、その時ユーヤが『ポンキロ』とか『下だ』って···意味不明な『寝言』を言っているのを聞いて···30分くらい笑いを堪えようと必死になってた···かも」

 正直色々と言いたい。だが話題から遠く離れた話をしているのも腑に落ちない。

「じゃあ、お前は···『どっち』のベッドに入った?」

「···んぅーっ!疲れてたの!そう、眠たくって!そのまま寝ぼけたまま···わ、私は···近かった『ユーヤの』ベッドに···」

 ジェリー・ミサは最後に、小さく聞き取りにくい声量で「ごめん」と言った。

「――まぁ、今後からもうしないなら···許すけどさ···」

「···え?」

 ピクン。と、ジェリー・ミサの肩が上がった。

「···お?」

 ジェリー・ミサの反応に、悠谷は返事にすら困る。

「えーっと···ん?」

「···何?」

 少しずつだが、ジェリー・ミサは悠谷に顔を近付けてきている。そんなジェリー・ミサの顔を、悠谷は両手で止めた。

「···『今度から』ってことはさ、私、『付いていっていい』んだよね?」

「······アぁっ!ちがッ、これはっ、あれだ、寝ぼけてたんだ!一晩寝ても疲れが取れねぇから···さ···あの、ジェリー···?」

 悠谷が弁解に必死になっていると、ジェリー・ミサは自分のベッドに飛び込んだ。

「やった!やったよ!私、ユーヤと離れ離れにならなくていいんだよ!」

「やめろ!騒ぐな!なんか恥ずかしくなる!」

 悠谷が言うと――ジェリー・ミサは、更に声を張り上げた。

「あぁーっ!それ以上騒ぐと問答無用で置いてくからな」

 ――ジェリー・ミサは騒がなくなった。···単純だな。

 悠谷が溜め息を付き、ジェリー・ミサと向き合った時、いきなり部屋の扉が開いた。

「ゆうや君とジェリー・ミサ、そろそろ出発の時間だが···『答え』は出たかね?」

 フーゴンが鞄を持って入ってきたのだ。鍵を掛けたハズなのだが···フーゴンは手に鍵を持っていた。マスターキーとでも言うのか?

「···ジェリー、お前は昨日の戦いの後···『後悔』はしたか?」

 悠谷はそっと、ジェリー・ミサの頭に手を乗せた。柔らかい髪の中に、いくつか傷んだ髪の毛がある。戦いの代償だろうか?

「···『した』。痛い思いをして、ユーヤに怒られて···やっと事の重大さが分かったわ。――でもね、『後悔をした』からこそ···だよ。私は、大丈夫だって自覚が湧いてきた」

 悠谷の手に、ジェリー・ミサは手を添えた。悠谷にジェリー・ミサの温もりが、ジェリー・ミサに悠谷の愛が、しっかりと伝わった。

「ふふっ、決まったね。···その選択は君たちにとって『正解』だ。なぜならその問題に『答え』がなかったからだ。だから、君たちが『どれ』を選んでも『正解』だった。――そろそろ行こう。準備して、ホテル前で待っていてくれ」

 悠谷はただ、はいと答えた。するとすぐにフーゴンは部屋を出た。

「···へへっ」

「えっ、なんだその笑い声···ジェリー、ちょっとキモいぞ···」

 頭を隠しながら、ジェリー・ミサは不可解な笑みを浮かべたのだ。

「んふーぅ。これは『喜びの声』だよぉー」

 ジェリー・ミサは悠谷を向いた。ジェリー・ミサの『笑顔』を目の当たりにした悠谷は、ただ顔を赤らめるしかできなかった。

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