ちょっと一息姉妹編 百合(ゆり)+桜(さくら)+恵美(えみ)2
「 むむーなかなか手ごわいのー」
それはそうである、女子高生の大会とはいえ県代表になっている百合が簡単には負けない。
ここまで2-1で百合が勝ち越している。
悩んで慎重に一手一手進める恵美に対し、居玉でしかもほぼ即指しで返す百合。
「 居玉ってなんか苦手なんだよねー、一方的に攻められちゃって」
「 定跡形の方が良かった?あんま囲うの好きじゃないんだけど、次は囲うよ」
決着が付き恵美が投了した。新たな一局が始まる。これで百合からみて3-1となった。
「 ほほー四間飛車かーそれならこうだー」
恵美は左銀急戦の構えを見せる。
「 こうだったかなぁ?」
恵美は斜め棒銀で後手の百合の四間飛車に仕掛ける。
「 おじゃまします。クッキーお持ちしました」
部屋の外から桜の声が聞こえる。
「 置いといて良いよー取りに行くからー」
「 え、なんで?桜さんも将棋指すんでしょ?部屋に入れば良いじゃない」
「 良いのでしょうか?」
「 百合ちゃん良いでしょ?なんか駄目な理由あるの?」
「 いや、別に、無い、けど」
百合はくぐもった声で答えた。
「 ではお邪魔しますね」
遠慮がちに桜が部屋に入って来ると盤面をしげしげと見つめる。
「 凄いです、プロの将棋みたいですね、恵美さんもお強いのですね」
「 桜さんは定跡とかあんまり知らない感じ?」
「 はい、自分で考えて指すのを面白いと思ってしまうものですから」
恵美は少しほっとした。二人の棋力はそこまで高くなさそうだ。盤面は四間飛車6四歩型となっている。5四歩型と比べ囲いが堅いが斜め棒銀の仕掛けを受けにくい。
恵美の▲4六銀に百合は△3二金と受ける、見たことのない形だ、現在の定跡はこうなのだろか?それとも定跡通りだと知識勝負になるから外してきたのだろうか。
「 むー・・・とつげきだー」
▲3五歩の仕掛けに当然の△4五歩、四間飛車狙いのカウンターだ。▲3三角成△同金▲5五銀△3五歩▲6四銀△5二銀▲8八角△1二香と進む。
「 さっき一回▲3四歩と取っておくのかな?」
これが定跡の変化なのか力将棋なのか判断出来ない恵美は百合に尋ねてみる。
「 それもあったねー」
盤面から目を離さず、それでも即指しのままの百合。
「 二人とも凄い、指すのも早いですし、よくそんなに読めるものですね、プロみたいです」
「 桜さんプロとか大げさすぎるよーまあ一本道だから」
「 お姉さま、最後の△1二香ってどういう意味なのでしょう?」
「 ああ、手筋だねー」
「 手筋、ですか、難しいですね」
うんうん唸りながら桜が読みを入れている。知識の無い状態で△1二香なんて指せる人間はまず居ない。
「 分かった将来の角成を避けてるんですね、お姉さま」
「 そそ」
百合はそっけなく答えると盤面とにらめっこしている。△1二香の意味を説明されずに理解出来る桜も大したものである、定跡も殆ど知らないようだし。
「 むー・・・仕方ない、突撃だー」