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ライフゲーム  作者: DR
9/14

第8話 卓球部の球田卓

「ふひ~終わった終わった」

コウや恵、健二の通う学校、天上高校は急遽午前授業となったため、ホームルームを終えた健二は早速教室を出ようとしていた。

すると、クラスメイトで後ろの席に座る球田が午前授業の日にしては何やら大きな荷物を持っているのに気が付いた。

「なんだ球田。随分と荷物が一杯だな」

「う、うん。まあね」

「まさか午後も授業があると勘違いして教科書を持ってきたのか?」

「そんなんじゃないよ。遊馬君じゃあるまいし」

なにか失礼なことを言われたような気がしたが、健二は聞き流すことにした。

「じゃあ何の荷物だ?いや、別に言いたくなければ別にいいんだけどさ」

「うーん・・・まぁ、遊馬君なら別にいいか」

球田は、誰にも言わない、と健二に約束させ、事情を話した。

「実は・・・もうすぐ部活の大事な大会があってさ、ほら、今日って1時完全下校で部活動も禁止じゃないか」

「ふんふん」

「大会前の大事な時期に練習が出来ないとなるとすごく困るんだ。1日サボっただけで感覚が抜けてしまう」

「なるほど」

「だからコッソリ学校に残って練習しようかと思ってさ・・・悪いんだけど、秘密にしてくれるかな?」

「あ、そういうことね。完全に理解した。大丈夫、絶対に誰にも言わないよ」

健二の言葉に球田は胸を撫で下ろした。

「ありがとう。助かるよ」

「いいって。さっきは俺も助けてもらったしな」

球田は先程の出来事を思い出し、健二の言葉に苦笑いで返した。

「ところで球田って卓球部だったよな?」

「あ、うん。そうだよ」

「毎日欠かさずすげぇ練習してたらしいじゃん。お前、結構すごいんだな」

「いや、それほどでもないよ」

照れながら否定する球田に健二は続けて言う。

「いやいや・・・俺には真似できないことだ。やっぱりお前はすげぇよ。尊敬する」

「そうかな・・・」

「そうだって!あー・・・でも1つ疑問なんだけどさ」

「え?何?」

「いや、卓球の練習ってそこら辺の公園とか、自分ちのテーブルとかじゃ駄目なのかなって」

ははは。と笑いながら健二は言った。しかし・・・

「は?」

空気が変わった。健二もそれをはっきりと感じ取った。

「お前、卓球ナメてんのか?」

球田が健二に向けている感情・・・それは殺意だった。

誰が見ても分かるほどに明確な、はっきりとした殺意だった。

(や・・・やべぇ・・・とにかく否定しないと・・・)

「お前はコンクリートの上で柔道や剣道すんのか?あ?」

球田のわけの分からない例えに健二は慌てて否定する。

「ち、違うって!悪かったよ!馬鹿にするとかじゃなくて、ほんとに軽い気持ちで聞いただけなんだ!」

「その言葉・・・偽りはないだろうな」

「あ、ああ!勿論だ!」

「卓球の神に誓えるか?」

「ああ!誓う誓う!」

「そっか・・・よかった」

いつの間にか球田の殺意は消えていて、普段通りの人の良い球田に戻っていた。

(こ、こいつ・・・こえぇぇぇぇ・・・)

球田の前で絶対に卓球を馬鹿にするまい。そう誓う健二だった。

球田は健二と別れた後、体育館に忍び込んだ。施錠がされていたが卓球部に代々伝わる、顧問にすら秘密で作られた合鍵があったため、無事侵入に成功した。

そして黙々と練習を続けていたのだが、小一時間ほど経った頃に予期せぬ事態に陥った。

「あれぇ?体育館開いてんじゃーん!」

「入ったれ入ったれぇ!」

(しまった!鍵を閉め忘れていた!)

球田は鍵を内側から閉め忘れるというミスを犯していた。その結果、二人の不良、細谷伸矢と太田大の体育館への侵入を許してしまった。

(ま、マズい!早く隠れなきゃ!)

球田は慌てて隅に隠れたが、練習道具を置き忘れてしまっていた。そして・・・

「おおん?誰もおらんのう」

カーン!カン!カン!

「!!誰じゃ!」

なんと、放りっぱなしにしていたピンポン玉が、卓球台から転げ落ちてしまった。

「マー君。ありゃあピンポン玉の音っすよ」

「ピンポン玉ァ?全く・・・大事な道具を放って帰りよって・・・卓球部ってのはろくでもない奴らじゃのう」

(何だと・・・!)

球田は今にも飛び掛かりそうになったが、不良二人には敵わないと、必死に怒りをを鎮めることに努めた。

「マー君!せっかくだから遊んで行こうぜ!」

「・・・まあええじゃろ。ついでにワシらで片づけて帰るぞ」

「ええー?メンドクせえよ~」

「ああ!?」

「へ~い・・・」


それからしばらくの間、細谷とマー君は卓球で遊び続けた。

(畜生あいつら・・・人の神聖なる卓球台で・・・!卓球は遊びじゃないんだぞ・・・!)

球田の我慢は限界に近付いていた。が、それに更に追い打ちをかける出来事が起きてしまった。


「おいシン坊!ピンポン玉ァ凹ませて遊ぶのはやめぃ!」

「良いじゃんか楽しいんだからよー!それにマー君だってピンポン玉に1~7個の星を描いて遊んでるじゃんか!」

「むう・・・」


「あ・・・あいつら・・・・・・!」

球田の最大の友人であるピンポン玉に対する非人道的行為に、ついに球田の怒りは爆発した。


「あああああああああああああああああああ!!」

「む・・・」

「あぁ!?」

「お前ら、卓球を何だと思ってんだ!」

「なんじゃ?お前・・・」

「その卓球台は僕が出したんだ!ラケットも球も僕のだ!神聖な卓球を汚しやがって・・・許さないぞ!!」

「ああん!?なに偉そうな口利いちゃってくれちゃってんのよお前」

「まあ待てシン坊」

シン坊と比べるとマー君は冷静だった。

「それはすまんことをした。球の弁償はさせて貰う。それでどうか許してはくれんか」

「マ、マー君・・・何も頭を下げることは・・・」

「お前は黙っとれい!」

平和的解決を望むマー君は素直に謝罪をし、償いをするとまで言った。

しかし、球田は冷静ではなかった。

頭を下げているため無防備となったマー君を・・・

思い切り蹴り飛ばしたのである。

「ぐぅ・・・!」

「マー君!てめぇ!なにすんだ!」

「謝れ・・・あやまれ・・・アヤマレ・・・」

球田はすでに正気ではなかった。

「こ、こいつ・・・イカレてる・・・!」

シン坊は球田を恐れた。しかし、後ろには倒れたマー君がいた。

自分が逃げ出せばマー君はやられる。マー君を守らなければ。という思いがシン坊に勇気を与えた。

「て、てめぇ・・・マー君はやらせねえぞ・・・」

「アヤマレ・・・卓球神二アヤマレ・・・」

「何がテーブルテニスだ!スケール小せえんだよ!うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」


「こらぁ!なにをやっている!」

怒鳴り声を上げたのは英語の教師、瀬戸だった。

その大迫力の怒鳴り声に、球田も正気を取り戻した。

「や、やべぇ!英語の瀬戸だ!ズㇻかるぜ!マー君!」

「お、おう・・・!」

不良二人は何処かへと逃げて行き、後には球田だけが残された。

「お前は球田卓だな!なぜここにいる!」

「そ、その・・・大会に備えて練習を・・・」

「今日は部活は禁止だ!今日はさっさと帰れ!後日反省文を書いてもらうぞ!」

「・・・はい」



「あー食った食った。やっぱあそこのラーメンは最高だなー」

健二は学校帰りに行きつけのラーメン屋へ寄っていた。

(ん?あれは・・・)

そして帰り道にて、よく見知った顔を見つけた。

「おーい!球田ー!」

それは球田だった。しかし、健二は球田の異変に気が付いた。

「あいつら・・・ユルサナイ・・・コロス・・・コロシテヤル・・・すべては卓球神の名のもとに・・・!」

「お、おい・・・どうしたんだ?なに言ってんだよ球田!」

「ブツ・・・ブツ・・・」

健二が何を言っても、その言葉が球田の耳に届くことはなかった。


―――その夜、奇妙な事件が起きた。

夜中にたむろっていた不良少年の集まりが何者かに襲われるという事件が起きた。

それは決して不良同士の抗争なんかではない。

襲われたグループで唯一逃げ切った少年は語った。

『夜中、いつもの溜まり場の橋の下で集まってたら、どこかからか、カーン、カーン、と妙な音がした。何だろうと思って辺りを見回すと、高校生位の一人の男が突っ立っていて、何見てんだよって怒鳴りつけてやったら、すげえスピードで何かが飛んできた。何かは分からないけど、それがメンバーの一人に当たった。すると、そいつが急に倒れて、どうしたんだと近寄ってみたら・・・ああ、駄目だ。もう考えたくねぇ。とにかくそっから俺らは必死に逃げた。それでも次から次へと仲間の悲鳴が上がって・・・俺だけが助かったっていう訳さ・・・』


卓球って、意外と難しいですよね

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