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ライフゲーム  作者: DR
8/14

第7話 記憶喪失の少女

記憶喪失。恐らく記憶喪失と考えていいだろう。

漫画やアニメなんかではよく目にするが、現実で目の当りにすることはなかった。でもアニメとかだと大抵記憶喪失って言っても自分自身や周りの人についての記憶はなくなるけど、言語や一般常識なんかの記憶は残ってたりするよな。ええと昔なんかで読んだな。確か、『エピソード記憶』と『意味記憶』・・・っていうんだっけ?すると、どちらも持たない彼女の記憶喪失というのは症状の重いものなのだろうか。

「ただいまー」

お、恵が帰って来た。とりあえず相談してみよう。

「見て見てーこのスカート。この子に似合うかなぁーって思って持って来ちゃった」

といって恵はフリフリのスカートをひらひらと見せびらかしてきた。

「ああ、かわいいと思うよ」

「でしょー!早速着替えてもらおっと」

それは俺としても期待したいところだ。だが今はそれどころではない。

「恵、ちょっといいか」

「え?なあに?」

「あの子について、大事な話なんだ」

俺は恵を部屋の外へ招き、今の時点で分かっていることを伝えた。

「記憶・・・喪失?」

「ああ、もちろん確定した訳じゃあないけど、俺はそう思っている」

「そっかぁ・・・それって、どうすれば治るのかな?」

記憶喪失を治す方法・・・有名なのは頭にショックを与えたりとか・・・記憶をなくす前の写真を見るとか・・・

「うーん、どっちも難しいんじゃないかなぁ」

「そうだよなぁ・・・頭なんて打ったらもっと酷いことになるかもしれないし」

俺にあんな年下の女の子の頭を殴るなんて絶対出来ないしな。

「写真だって何にもないもんねぇ」

そうそう、写真なんて・・・あれ、そういえば・・・・・・

「そういえば、あの子の持ち物とか調べてなかったよな」

「持ち物?手ぶらじゃなかったの?」

いや、そうじゃない。

「ポケットの中とか、なにか入ってるかもしれないなって」

もしかしたら携帯とか財布とか・・・そしたら身元が分かるんじゃないか?

「あ、そうかも。私も昨日は調べなかったし・・・」

「よし、早速調べてみよう」



(はぁ・・・二人揃って今日は休みか)

こちらはコウのクラスメイトで友人の遊馬健二。今は英語の授業中だが、真面目に聞いていてもどうせ理解できないと自覚している彼は、開き直って最初から授業を聞くことを放棄している。

(授業終わったらコウの奴を誘ってどっか行こうかと思ってたのにつまんねえな)

「というわけでこの動詞は―――」

(二人揃ってサボり・・・何やってんだか。まぁ、やましいことはあってもヤラシイことではないのは間違いないな)

「じゃあ・・・遊馬!この英文を訳してみろ」

(あの二人もさっさと付き合っちまえばいいのにな。コウがあの調子じゃあ難しいだろうけどさ、恵ちゃんもかわいそうに)

と、考えていたところで健二は先程から起きている揺れに気が付いた。

(ん、地震か?)

しかし、周囲を見回してもその揺れに騒ぐものは誰もいない。それどころか何人かの生徒はこちらをみてクスクスと笑っている。

「遊馬君!遊馬君!」

「ん?」

後ろから小声で自分の名前を呼ぶ声がする。そこでようやく気が付いた。揺れを起こしていたのは自分の後ろの席に座る生徒だ。

「どうした?球田」

「『どうした?』じゃないよ。今、遊馬君が当てられてるよ」

「へ・・・」

視線を後ろから前へと戻す。すると英語の担任、瀬戸が鬼の形相で立っていた。

「・・・ハーイ、ミスタ―ケンジ」

「ハ、ハーイ。ミスタ―セト」

「・・・これを訳してみろ」

「は、はい」

(うわ・・・なんだアレ。haveとtakeで動詞が2つあるぞ)

中学生でも分かるような英語ができない健二は素直に分からないと答えようとしたが、そのとき背後から微かに声が聞こえた。

「haveは~しているって意味だよ」

(おおっ、ナイスだ球田!なるほどなるほど)

「どうした?答えられないのか?」

「い、いや大丈夫ッス。えーと・・・」


「私は丁度ブスに乗っているところです!!」


「えっ・・・」

「あ、遊馬君・・・!」

(ん?俺なんか間違った?)

「ミスタ―ケンジ・・・もういい・・・座れ・・・!」

「え、ああ。センキュー。ミスタ―セト」

外国語って難しい。そう思う健二だった。

「あ、何か入ってるよ」

俺と恵は彼女が昨日来ていた衣服のポケットの中を探っていた。(ズボンって言ったらなんか笑われた。解せぬ。)すると、恵がなにか見つけたみたいだ。

「これは・・・ハンカチだね」

「ハンカチか・・・なんの手掛かりにもならなそうだな」

残念無念。さて、これからどうしたものか・・・

「待って、刺繍が入ってる」

刺繍?あ、ほんとだ。

「これ、あの子の名前じゃないかな」

「確かにそれっぽいな。ええと・・・」

Yura AMATSUKI・・・あまつきゆら、か・・・

「あまつきゆら・・・なんかかわいい名前だね」

「そうだな。結構しっくり来る」

あまつきゆら・・・漢字ではどう書くんだろう。天月由良・・・これでいいのか?

「じゃあ、名前も分かったことだし、由良ちゃんの所へ戻ろっか」

「ああ。由良の所へ」

これからどんどん名前を呼んでやろう。もしかしたら、それで記憶が戻るかもしれない。




続く

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