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ライフゲーム  作者: DR
7/14

第6話 言葉

朝食に恵の用意してくれたコーンポタージュとライ麦パンを食べ、彼女について考えることにした。(雨が上がったので恵は俺の上着を羽織って着替えに帰った。)

テレビを点けると彼女は興味深そうにそれを眺めていた。いや、それ通販番組なんだけど・・・見ていて面白いか?

そして俺はそんな彼女を観察する。・・・正直言って可愛いんだよな。ミディアムっていうんだっけ?依然妹から聞いたような気がする。まあ、そんな感じの短めな黒髪。身長は150cmくらいで身体は細めと小柄な体型。幼げな顔つき。そして澄んだ瞳。最初に見たときはもっと虚ろなまなざしをしていたような気がしたが、この綺麗な目を見るに、やはりあれは見間違いだったのだろう。

服装は・・・ファッションなんかは俺には全然分からないが、普通の女の子らしい格好だったように思える。それにしても改めてみると良いな、裸ワイシャツ。

そうそう、恵が帰ってきたらコインランドリーにいかないと。よーしコウ、乾燥機も使っちゃうぞーー。

外見について一通り終えたところで、次は動作だ。試しにテレビのリモコンを手に取り、チャンネルを教育番組を放送している局に切り替えてみた。怪訝な顔を一瞬見せたが、その後はやはりテレビに夢中になっていた。テレビに映っていたのは美人なお姉さんに元気なちびっ子数人。お姉さんが見せた大きなカードに書いてある文字を、ちびっ子たちが読み上げる、という内容の番組だった。

『無知なちびっ子のみんな~これはなんて読むか分かるかな~?』

『んーとね、んーとね、《め》!』

あちゃー惜しいな、まさし君。それは《ぬ》だ。

するとパカッと床が開き、まさし君は奈落の底へと吸い込まれていった。

『んーまさし君惜しかったね!じゃあ、詩天使ちゃん!分かるかなー?』

『え、ええと・・・』

なかなか答えられないしえるちゃん。かわいい。

『詩天使ー!間違えたら夕飯抜きだからね!』

おい、外野からとんでもない声が聞こえたぞ。誰かしえるちゃん保護してやれよ。

『ひっ・・・え、えっと・・・《ぬ》・・・!』

『せいかーい!じゃあ連続正解ボーナスにチャレンジする?』

え?なにそれ。

『連続で正解するごとに賞金2倍!10問全問正解でなんと賞金512万円です!』

え!?これそういう番組だったの!?たかがひらがなで500万!?スタート1万円!?こんな番組よく成り立つなTHK!

おっといかんいかん。俺までテレビに夢中になっていた。

その後、しえるちゃんは無事全問正解を果たし、賞金の512万円をゲットした。お姉さんが賞金の使い道を聞くと、しえるちゃんは『ママがきれいになるのにつかいます』と、そう答えた。

結局彼女は終始動じることはなかった。さっき見せた笑顔のことを考えると、決して感情に乏しいという訳じゃあないと思うが。

そしてエンディング。『じゃあ、最後にみんなで一緒にひらがなの練習をしようか!』とお姉さん。するとちびっ子たちは「はーい!」と、元気よく返事をした。

まさし君の席は空いたままだった。

『まずはア行!《あ》!』

『《あ》!』

「・・・あ」

良かった。最後はまともみたいだ。

『《い》!』

『《い》!』

「・・・い」

あれ?なんか今お姉さんともちびっ子達ともまさし君とも違った声が・・・

『《う》!』

『《う》!』

「・・・う」

うおっ!?しゃ、喋った・・・

それは間違いなく彼女の声だった。ここに来て初めて聞く彼女の声だった。

「喋れるのか・・・?」

思わず聞いた。しかし彼女は何も喋らない。

しかし何も喋れないわけじゃないはずだ。

俺はテレビを一度消して彼女に聞いてみた。

「俺の名前、言えるか?さっき話したよな」

彼女はやはり黙っている。

「名前、分からないか?」

自分自身を指さして再び尋ねる。

すると・・・

「・・・コ・・・ウ・・・」

喋った!よし!!

「そう。コウだ。俺の名前はコウ。じゃあ、君の名前は?」

「・・・・・・」

駄目か・・・喋れる言葉と喋れない言葉の違いはなんだ?

俺はいくつかのひらがなを紙に書いてみた。そしてこれを彼女に読ませる。

「これは?」「・・・あ」

「うん。これは?」「・・・ぬ」

「そうそう、じゃあこれは?」「・・・?」

「これは《す》って読むんだ。《す》。」「・・・す」

番組内には出なかった《す》は駄目だった。しかし、俺が教えてやるとちゃんと言えた。



・・・それからいくつか試してみて分かった。

喋らないんでも喋れないのでもなく、ただ、知らなかったんだ。

彼女は言葉を知らない。いや、覚えていない、か?

彼女はまるで大学へ入学し第三ヵ国語を履修した大学生のように、まだ何も知らない状態なんだ。

自分の名前だってそうなんだ。彼女は自分を知らないから、いくら聞かれても答えることが出来ない。なんなら答え方ですらも知らない。




そうだ・・・彼女には・・・記憶がない。




続く

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