第4話 着替え
「――というわけだ」
なんだかよく分からない誤解をされ、思い切り頬を引っ叩かれた俺だったが、どうにか恵を落ち着かせ、ようやく事情を説明することが出来た。
「ご、ごめんなさい・・・勘違いして、つい・・・」
どうやら分かってもらえたようだ。良かった良かった。
「いや、良いんだ。俺もちゃんと説明してなかったし。それよりその子のことなんだけど」
誤解を解くためにさっきからそっちのけで話をしていたわけだが、流石にそろそろマズいような気がする。一応暖房は効いているし、軽く身体も拭きはしたが、ずっと濡れたままの服を着ているしな・・・
「あ、そうだね。とにかく身体を温めないと」
「風呂沸かしてあるから入れてやってくれ」
まだ意識はないようだけど、体を壊すよりは良いだろう。
「うん。ああでもこの子、小柄な方だとは思うけど私じゃ運べないかな」
ん、確かに恵みたいな女の子にはちょっと大変そうだな。
「手伝ってくれる?」
「ああ。いいよ」
さっきも背負ってたしな。
「じゃあお願いね。脱がしたりお風呂に入れるのは私がやるから」
「了解。よっと」
グッショリ。うへぇ冷たい。せっかく着替えたのに・・・
「あ、そうそう」
「ん?」
「変なところ触っちゃダメだよ♪」
はい素敵な笑顔いただきましたー!・・・あれ?背筋が寒いぞ?水が滲みてきたのかな。
「・・・はい」
はいここでクイズ!
上は大火事、下は洪水これなーんだ!
答えは俺の身体でした!顔はヒリヒリして身体はヒンヤリです♪
・・・なんて馬鹿なことを考えながら女の子を運び出し、俺は退散した。
しかし運んでる最中思ったんだが、あの子、すげぇ身体冷たかったな・・・
まるで死んでるみたいに・・・なんて洒落にならないか。恵に聞かれたらまた引っ叩かれそうだ。
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「・・・で、なんでこんな服しかないの?」
恵が不機嫌そうに言った。
こんな服というのは俺が二人の着替えのために用意した服のことだ。恵はすぐ近くに住んでいるため、短距離なら・・・と傘で来たのだが、やはりいくらか濡れてしまったようだった。
恵に用意したのは俺が普段使っている部屋着で、下着は無事だったようなのでそのまま着て貰った。だが、問題は未だ目を覚まさない謎の少女の分だ。
一人暮らしの男には珍しい話ではないと思うが、俺の家には洗濯機がない。
なので、いつも纏めてコインランドリーで洗っているのだが、タイミングの悪いことに丁度今日辺りにでも行こうと思っていたところだったのだ。まぁ、雨のせいでそれも先送りになったが。
つまり、もともと服をあまり持っていない俺には着替えがもうほとんどない!ものぐさな性格でごめんなさい!
まぁないものは仕方ないよね。うん。
「仕方なくない!」
「ええっ!?」
予想外の返答!
「だからってこの格好はないでしょ!?こんな裸にワイシャツなんて!」
「だって他にないし・・・恵に貸したのだとサイズ的にもマズいし・・・」
その点ワイシャツは優秀だ。サイズが大きいことに違いはないがボタンが付いているからな。
「だ、だからって・・・」
まあ、恵の言うことも一理ある。俺もさっきから目のやり場に困っている。下着もなしに裸ワイシャツだもんなあ。
「じゃあ、俺のパンツでも穿かせるか?」
「それは駄目!」
あ、やっぱり?俺自身そんなの目の当りにしたらドン引きする自信がある。
「じゃあどうすればいいんだ?」
「え?う~ん・・・」
考えていなかったんか~い。
「わ、分かった!」
「おお、どうするんだ?」
「私のパンツはこの子に穿かせてコウのパンツは私が穿く!!」
「は?」
え?マジで何言ってんの?怖・・・
「コウ!」
「は、はい!!」
「パンツ貸して!ほら早く脱いで!!」
「ええ!?ちょっと待て!落ち着け!」
ここに穿いてないのがあるのになぜ俺を脱がす必要がある!
は、早くなんとかしないと・・・!
その後、しばらく俺と恵のパンツを賭けた必死の攻防が続いた。
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再びなんとか恵を落ち着かせ、結局俺が手足を縛られ、目隠しをし、別室で寝ることで決着を着けた。
それならどんな格好でも関係ないもんね。
ちなみに、え、恵も泊まっていくの?と疑問に思ったのだが、「女の子をこんな時間に外に放り出す気か」とか「コウとこの子を二人きりにはしておけない」とか言われるのは目に見えているので聞かないでおくことにした。
さて、今夜はもう休もう。恵を呼んで手足を縛って貰わないとな。
―――あの子、朝には目を覚ますかな。
続く
次回、《目覚めの刻》・・・!