第2話 雨
夕方、健二と別れた俺と恵は、まっすぐ家へと向かっていた。
今日は夕方から雨が降るというので人の通りもまばらだ。
「ふーんふーんふふーん♪」
鼻歌を歌いながら歩く恵。
そしてその隣を歩く俺は先程の出来事について考えていた。
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『今度・・・私の買い物に付き合ってください!!』
『え?』
正直、そんなことでいいのか?と思った。
しかし、恵の顔は真っ赤で・・・
さて、こんなとき、どんな反応をすればいいんだろうか。
そう考えていると・・・
『だ、駄目・・・?』
さっきの真っ赤な顔とは反対に、今度は真っ青になって、恐る恐る聞いてきた。
あ、ヤバい。今にも泣きだしそうだ。
『いや、別にいいけど・・・』
と答えたところで気が付いた。
わざわざ聞かなくとも、俺に拒否権はないだろ。
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あんなに喜んで、どうしたんだろうな。
俺は、恵の買い物に付き合った時のことを想像してみた。
さんざん勿体ぶってたんだ、何か理由があるんだろう。
考えられるのは買い物の内容だよな。
そうだな・・・女の子一人で運ぶのが難しい重いものとか・・・今度の休日は覚悟をしていた方がよさそうだ。
「ん、どーしたの?」
今朝みたいに恵が俺の顔を覗き込んでくる。
「嬉しそうな顔をするんだなって思ってな」
「・・・?誰が?」
本気で自覚のなさそうな顔だ・・・まぁいいか。
「いや、なんでもない」
俺の返しが気に入らなかったのか恵はムッとしていたが、気にせず愛しの我が家へと急いだ。
あれ、そういえばこの辺って・・・
「うそ・・・」
確か今朝の・・・と、口を開く前に恵がそう呟いた。
「どうかしたのか?」
「あの子、まだ居る・・・」
恵の見ている方へ目を向けると、少女は今朝に見た、そのままの姿でそのままの場所に佇んでいた。
「ねぇ、朝からずっとあそこにいるのかな」
いや、ないだろ。そんなのまともじゃない
「まさか。そんな訳ないよ」
「だ、だよねぇ」
きっと誰かと待ち合わせでもしているんだろう。朝とはまた別で。
あ、そうだ。もうすぐ雨が降るんだったな。もしかしたらあの子はそれを知らないかもしれないぞ。
そう思い、なんなら声を掛けてみようかと提案したが、やめておいた方がいい、と却下された。
そんなこんなで家に着いたが、既に空は雲に覆われて今にも雨が降りそうだ。あの子ももう帰っているだろう。さーテレビテレビ。
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ふー、腹一杯だ。
しかし、野菜もしっかり食べないとな。一人暮らしだとついつい好きなものばかり食べてしまう。
たまに恵が夕食を作りに来てくれるとガッツリ野菜も出てくるんだけどな。
さて、そろそろ風呂に入るか。
夜八時、夕食を終え、風呂に入る準備でもしようと席を立つと、何気なしに窓の外を覗いてみた。
さーて雨はどんなもんかな。うわ、すごい雨だ。
これじゃ傘なんて何の意味もないぞ。こんな天気で外に出る奴は相当な馬鹿だな。
さ、風呂だ風呂。
・・・
・・・
もしかして・・・
いや、まさかな。
いるはずがないんだよ。この雨で。
・・・
・・・
あークソッ!!
俺は家を飛び出し、あの子を見た道へ走り出した。
馬鹿だ。俺は馬鹿だ。
いるはずがないと思っているはずなのに、なんでこんなに必死で走る必要がある。
しかし、足は止まってはくれない。
雨で視界も悪くなっている。
しかし、足は速度を落としてはくれない。
「はぁ・・・はぁ・・・この辺だな」
周囲を探してみるが、周りに人影はない。
やっぱりあの子は帰ったんだな。そう思うと安心したのか、急に全身の力が抜けてきた。
さあ、俺も帰ろう。
さっさとシャワーを浴びないと風邪をひきそうだ。
コツン。
ん、足に何か当たったぞ。なにか落ちているのか?
・・・!
「お、おい!!しっかりしろ!!」
あの子だ。あの子がいた。雨が降ってもずっとここにいて、倒れていたんだ。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「大丈夫か!?」
「はぁ・・・はぁ・・・」
息はあるが意識がないようだ。
とにかくどこかに運び出さないと・・・
この子の家は分からないし、こんな時間だ、とりあえず俺の家に連れていくしかない。
俺は名前も知らない女の子を背負い、来た道を再び走って帰った。
続く