プロローグ
はて。
不思議である。
まず感じたのは藁の匂い。それに続いて厠の強烈な臭いがやって来た。
前後不覚になりながらもなんとか立ち上がり、周りを見渡すと…
どうやら馬小屋の床に寝転がっていたらしい。
全く見覚えのない場所であり、少なくとも馬小屋になど何の縁も無かった。
精々死んだ親父が馬好きであった事ぐらいであろうか。もっとも親父は馬をただの金の生る木としか見ていなかったが。
とうとう馬で一度も金を茂らせることなく、人生を終わらせた親父ではあったが、いつもは真面目に働く彼の数少ない趣味であったし、のめり込むことも無かったからあまり馬に対して悪い感情は抱いていない。
そうして、隣でヒヒンといななく馬を見ている内に、段々と周りの状況が掴めて来た。
「俺は…」
死んだのか?
はい死にました。間違い無く。
この目で見た、というべきか身を以て無理やり理解させられたのだが。
しかし、音に聞く異世界転生という割には、場所があんまりじゃないか。
隣の馬の尻をぎこちなく撫でてみながら、呟いた。
そう思った矢先、茶色いねっとりとしたものが顔目掛けて飛んで来た。
馬糞だ。
それをもろに食らった俺は、声にならない声を上げてその場にへたり込んでしまった。
ひとまず顔を洗わなければ、洗い場はないか洗い場はないかとまた立ち上がり、あちらこちらをよたよたとうろつき回り、何かに躓き、もんどり打って倒れ込む。
暫くそんな事が続き、ふと茶色に染まった視界の端に、井戸の様な物を見つけると、渡りに船とばかりに千鳥足で鼻腔を焦がす糞の臭いを振り払うべく、近づいた。
既に先客がいるとも知らずに。




