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現代戦国  作者: 百合華
第二章
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6 人気モデルの来訪

 あっという間に放課後になって、帰る準備をしていた聖の元にミズナとゴウがやって来た。

 ミズナは教室に入ってくるなり、駆け足で聖に迫る。その顔は歓喜に満ちあふれていたので、聖も釣られて嬉しくなった。

「ねぇねぇ聞いてよ、聖君!」

「うん、何?」

 声色から吉報であるのは明白なので、喜んで耳を貸す。どんな知らせか心が弾んだ。

「あの、現在人気沸騰中のSASUKE君が、ここ近辺で撮影するために来てるんだって! これはもう見に行くしかないでしょ!」

「SASUKE……?」

 聞き慣れない名詞に聖が首を傾げると、ミズナは大袈裟に仰天した。

「え! 知らないの?」

「うん」

「ええええ! 嘘おおおおぉぉぉぉ!」

 ミズナは信じられないと言わんばかりに落胆した。知っていて当然だと思っていたのだろう、衝撃はかなり大きいようだ。ゴウも「聖、無知……」と引いている。

「なんて世間知らずなの……。あり得ない、あり得ないわ」

「そんなに有名な人なの?」

 撮影という単語から芸能人だと推定した聖は詳しい情報を求める。ミズナは自分のことのようにむきになって説明し始めた。

「いい? SASUKE君っていうのは、『日本美見にほんびみ』の専属モデルよ!」

「『日本美見』って?」

「そこから説明しないといけないの……?」

 聖のクエスチョンが、ミズナの何かを刺激する。かっとなって半ば暴走気味に鞄から雑誌らしき本を取り出して、聖に突きつけた。

 表紙にはタイトルに『日本美見』とあり、サブタイトルには『ここが隠れた日本の絶景スポット』と表記されていて、どこかの森林の、まさに絶景写真が飾られている。

 それらをヒントにして聖は、

「これ、風景雑誌?」

 という答えを導き出した。それで少しはミズナの機嫌が直る。

「そうそう。日本中にある様々な隠れ絶景スポットを紹介する雑誌なの」

 そう熱く語るミズナに、聖は存外そうに渋った。

「ミズナちゃん、風景雑誌に興味あるの? ファッション雑誌とかならわかるけど」

 風景雑誌と聞くと、なんとなく中高年代の人が買いそうで、若い女性などもっとも需要が低い印象が聖の中ではあった。

「それはね、SASUKE君目当てだからに決まってるでしょ」

「どういう意味?」

 余計に意味がわからず聖が更に渋面を作ると、ミズナは「それはね……」と小悪魔みたいな笑みを浮かべ、雑誌をめくって聖に見せた。

 そこには、ベストショットと言える美しい大自然の写真が載っていたのだが、なぜか風景と一緒に一人のイケメンが映っている。

「……?」

 思わず、といった感じでイケメンに対して首を傾げる聖。が、すぐさま「あっ」と思い立った。

「この人が、SASUKE君?」

「そうなのよ! 超カッコいいでしょ!」

 確かに。

 腰くらいまで伸びた藤色の髪をうなじで一つに束ね、切れ長で濃厚なアメジストの瞳は、同性でもときめいてしまう魅力がある。綺麗な柳眉に真っ直ぐな鼻梁。ほど良い色と形をした唇。肌は少し焼けており、健康的な肌色がより麗しく、他のどの部分もすべてが完璧すぎるほど美しい。

 甲斐谷が優麗だと言うのなら、SASUKEは妖麗と言えるだろう。そんなミステリー的な妖しい美しさがある。

「この人、モデルさん、なんだよね? なんでモデルさんが風景雑誌に?」

 聖の問いに、ミズナは興奮して話し始めた。

「いい質問ね、聖君。ほら、風景雑誌ってお堅い感じがして、特に若い女性は手を伸ばしにくいでしょ? それで、イケメンモデルが一緒に映って風景を紹介することで、その問題を解消したってわけ」

「へぇ……」と聖はミズナの興奮に圧倒される。

「今となっては、SASUKE君のファンなら誰だってこの雑誌を持ってるのよ。だってSASUKE君、この雑誌にしか載らないから、色々なポーズや服装のSASUKE君を拝むには『日本美見』を買うしかないのよ」

「なるほど……」

 聖は心の底から感心する。

 おそらくは、若い女性の需要の低さを憂いた『日本美見』の編集者たちが試行錯誤を繰り返して生んだ成功なのだろう。

 イケメンが紹介することで、若い女性のハートを掴んで風景に対する興味をあおり、しかも、イケメンモデルがその雑誌にしか出てこないとなればファンは必然的に『日本美見』を買うしかない。まさしく雑誌を多く売ろうとする供給者魂が絞り出した良案だ。

「うわぁ、ホントにカッコいいなあ」

 パラパラとページをめくり、聖はSASUKEと風景に魅入る。

 美形さでは甲斐谷といい勝負なのだが、お洒落な服装やメイクにカメラのアングルなどがSASUKEの美を一層際立たせていた。なので、甲斐谷もそう言ったものの助けを借りれば充分モデルの仕事ができるのではないかと思ったりもする。

「……ん?」

 ページをめくっていく内に、ふとある点に気づく。よく見れば、どの写真も……。

「あの、SASUKEさんってなんでどの写真でも右手に黒い革手袋をしてるの?」

「あ、よく気づいたわね、聖君」

 ミズナは聖の観察力に感心しつつ、説明する。

「実はね、ファンの間でも不思議になってるの。理由を尋ねても、SASUKE君は頑なに答えないみたいで……」

「多分、なんか男のこだわりみたいなものがあるんじゃない? いいじゃん別に、そんなに気にしなくても」

 とゴウが言い、ミズナも聖も頷いて、その話はそれで終結した。

「あ、早くしないと撮影が始まっちゃうわね。とまあ、そういうわけだから、一緒に撮影現場まで行きましょう!」

 ミズナはすでにノリノリなので、おそらく、聖とゴウに選択権などないに等しいだろう。仮に選択権があったとしても、ここは付き合うのが学生寮仲間のよしみなので、聖とゴウは反発することなくミズナについていった。


 廊下を駆けていく三人を、甲斐谷が曲がり角の陰から密かに見つめる。そして、スマホを取り出すと、どこかへメッセージを送信した。

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