12 自慢の先生
町中を歩く甲斐谷は、とてもすごかった。その優麗さは道行く人々の視線を老若男女問わずに集めている。聖は誇らしくも思うも、恥ずかしくも思った。こんなにすごい人の隣を歩くのが平々凡々な自分でいいのかと。
「あの、甲斐谷先生」
「はい」
「甲斐谷先生は、その、なんで先生に?」
「なんでとは?」
「えっと、甲斐谷先生なら、モデルさんとかにもなれるんじゃないかと思って。すごく綺麗だから」
「そうでしょうか」
「そうですよ」
そこは強く肯定できる。だが、当の甲斐谷があまり自覚がないらしく、首を傾げるばかりだ。
「それは、私が欧米系の外国人みたいな外見だから、特別に見えるだけでは?」
「いえ、それを差し引いても、綺麗です」
「例えばどの辺がですか?」
「俺は、甲斐谷先生の青い瞳が好きです。海みたいで、宝石に例えるならサファイアみたいで」
『綺麗じゃん、その瞳。おいら、その瞳に見つめられるだけで幸せだよ』
と、甲斐谷の知り合いにもそんなことを言った人がいた。美しい碧眼は誰が見ても美しいのだ。
「そうですか」
聖にそう言ってもらえるのは、嬉しい。嫌がおうにも視線を集めてしまう自分の外見にはよく嫌気が差すのだが、聖が好きだと言うのなら、この外見に生まれてよかったと思うことができる。
「他にも、甲斐谷先生には綺麗なところがたくさんありますよ。例えば……」
そんな会話をしながら歩いていき、学生寮が見えてくる。
が、そのとき……。
「……っ!」
ぞくりと聖の背筋に悪寒が走った。咄嗟に振り向くも、やはり誰もいない。
「どうしたんですか?」
「甲斐谷先生、今、誰かいませんでした?」
「いいえ。誰もいませんが?」
まただ。
正体不明の視線。さっき学校で二回も感じたばかりなのに、また、感じた。もしや、ずっと自分をつけているのではないだろうか。
「すみません、甲斐谷先生。ちょっと急いでくれませんか?」
「……?」
聖は甲斐谷の背広の袖をつまんで走るように促す。
外を歩くのがこんなにも怖いと思うのは初めてだった。額に嫌な汗がにじみ、とにかく早く部屋に戻りたくて、聖は駆け出し、甲斐谷もそれに続く。動揺と慌てるあまり電柱に頭をぶつけたが、それでも構わず走った。




