聊斎志異について語る。その2。 聊斎志異。研究試論
聊斎志異とはおそらくは当時巷間に伝来していた、噂話。ゴシップ。三面記事。民話。怪異譚。
などをホショウレイが取捨選択して、結構を整えて、400篇の短編小説集にまとめ上げたものである。
そのほとんどが怪異譚である。
妖術。呪い、奇譚、異世界。狐狸。幽鬼、などの怪異譚がほとんどである。
ただそれらは、「閲微草堂筆記」などのような散文的な記録文章の怪異集と違って、
まことに纏綿たる情趣に満ちていて、人物も美人はまことに妖美に描かれて。
武人は武技たくましく描かれてている。
それらを取り巻くファンタジーも現界がそのまま異界へと浸潤されて
ファンタジーワールドを造ること、違和感がない。
ただし、、この手の物語文文学の特徴として、
聞いたままの採録?というげんてんなので、
現代文学のように
意味深のオチを無理にこじつけてつけたりという
あざとさがないのがまた、、良いですね。
たとえばそれはこんな感じで始まるのである、、、。
書生が古寺を借りて明かりをともし夜更けまで、科挙の試験の勉強をしていると、
何やら外を通り過ぎる影がある。
よく見ると薄絹をまとった美少女である。
書生はどうせ幽霊のたぐいか狐だろうと内心思ったが
あまりの美しさに思わず呼び止めると娘はすーっと入ってくる。
呼びよせて語り合うと旧知のようにしっくりする。
やがて二人はねんごろの仲になる。
しばらくして書生が身分を問うと、
「私は実はこの荒れ寺に住む狐なのです。
あなた様が才気ある書生と見込んで身を任せに来たのでございます」という。
さて、、、これから、この話、どう続くのか、、、、
それは実際にお読みください。
聊斎志異のお話のムードが、雰囲気がわかっただろうか?
聊斎志異ではいかに空想や異界を語っても、
いささかも現実感を失わないし、現実政治の腐敗を追及したり、
封建制に反抗して恋愛を貫く男女を描いたり(結構民主主義ですね?)
進歩的なのである。
だからある批評家は
ホショウレイが現実での自分の不遇や貧困を
こうした空想物語に託して
政治批判したり、不運な自分を慰めたりしたものだと言ってさえいるほどだ。
単純にそれだけとは私は思わないが、
そうした要素もあっただろう。
しかしこの物語集は
ホショウレイの、心境の深いところから発した
芸術欲求に基づくものであるだろう。
単なる政治批判したいから書いたというようなものではない。
芸術表現欲求というか
書きたいという芸術家魂のなせる業である。
さていろいろ言ってきたが読んでもらった方が早いのでここらでもうやめますが、
登場人物(人間以外もたくさんん)はこんなに多彩ですよというのを最後に書いておきましょうか。
コオロギ、耳の中に住む小人。幽鬼、狐はいっぱい登場しますね。蛇の化身。
死美人、神人、虎の化身。ネズミ、大魚。龍。豚、烏。
チョウチョ。花の精。夜叉。武人。書生。坊主。王侯、蛙の精。
奇妙な虫。物の怪。オカマ。木彫美人、絵から抜け出た美人。
カゲロウ。牛。竜宮の美人。
では実際に読んでみてくださいね。
翻訳本で容易に手に入るのは
岩波文庫の抄訳版ですが
これは翻訳がこなれすぎていて?
まずい?dすね。
やはりここは名訳の誉れ高い
柴田天馬訳の
角川文庫版でしょうね。
昭和三八年版の八冊本もありますが
これは読みずらいし、
私のお勧めは
昭和四七年版の四冊本です。
これは編集者が、文章をより平明に改定していますので
柴田天馬の原文の古雅な味わいは多少はそがれますが、、
それよりこの挿絵が抜群です。
作者は井上洋介です。
この画風は私、大好きです。
もっと古い
三秀社版とか
修道社版もありますが
これはあまりにも古すぎて、、
読解にも不便?ですし
第一、、絶版本ですから手に入りませんよね。
聊斎志異の後世への影響は
太宰治の翻案もの「竹青」とか、、
芥川龍之介のいわゆるシナ舞台の短編
など
たくさんありますね。
さらに忘れてならないのが、、
映画です。
これに基づいて映画化された
「チャイニーズゴーストストーリー」は(1987年、製作)
傑作ですね。
あの悲しげな小清を演じた
ジョイウオンは、けだし、最高でした。
付記、2011年リメイクされましたが、、これは駄作です。