8話
……こう、たまには2話分投稿したりしてですね、
8話
東泉学園の生徒会長、東泉 伊月は、
顧問の先生の頼みで資料の束を抱え廊下を歩いていた。
学園はかなり広大な造りとなっている為、移動がなかなかに面倒な節がある。
新入生の何割かは、入学時に道に迷い大変なことになるのだという。
生徒の捜索に駆り出されたことのある身としては、いつか改善策を考えたいと思う案件だった。
それに、他にも彼女には悩みがあった。最近夢見が悪いのだ。
忙しいからだろうか。
翼のはえた人間の夢。
我ながらメルヘンチックだし、人に言おうものなら笑われてしまうかもしれない。
これもいつかはどうにかしたいのだが……
……と、曲がり角に差し掛かったところで、男女の言い争う声が聞こえてきた。
最近、密かに学園内でも有名になっている騒ぎだ。
「……っていってるだろ」
「……だから……なんですよ!」
「また、あの二人……」
よく会話は聞こえなかったが、また魔王がどうたらとかの話だろう。かくいう、彼女も何回か彼らの仲裁……と言うより制裁か……に入ったことがあるため、
二人のうちの片割れからはすっかり敵認定されてしまっていた。
……助けにいくべきだろうか。
見ているのも面白い気がする。
堅物として通っている彼女は、本人は気づいていないが、案外人に対してひどいところがある。
立ち止まったまま観察する。
するとーー
「またユージンのやつが絡まれているようだなぁ」
「……シャーレスト」
柱の影から、金髪の青年がにやにやと笑いながら出てきた。
「案外つめたいんだな?」
軽い態度で顎をかきながら言う。
変な奴だと、彼女は首をかしげて問いかけ返した。
「貴方だって、さっきからずっと見ていたじゃないの」
「ばれていたか……油断ならんやつ」
面白いではないかと首をすくめて弁明される。
「そんなことより、貴方はいつになったら魔術科に移るの」
「教師のようなことを言わんでくれ」
この普通科の変人には、理事長や先生方がしょっちゅう手を焼かされていた。
魔術科に移ろうとしないからだ。
生徒会長である彼女としてはなんの気もない問いだったのだが、しかし、これは悪手だったようだ。
不意にファルスが身体をくるりと回転させ、両手を振り始めた。
「おおーい、ユージーン!
ここに生徒会長が来ておるぞぉ!」
「……! ほら!あそこに生徒会長さん居るぞ!」
「嘘をつか……わああっ本当だあああっ!怖い!」
「ははは、お前嫌われておるなー」
「……」
彼女は思わず、小さなため息をついてしまった。
「私、最近、しょっちゅう何かに絡まれているような気がするわ」
なんとなく呟く。
それと同時に一陣の風が吹き抜けた。
思わず、青空に有翼の人間を思い描きーー
「ーー案外、気のせいではないのかもしれないな」
「……⁉」
バッと振り返ると、既に金髪の青年は消えていなくなってた。
誰もいなくなった空間を睨みつける。
警戒する彼女の後方からは未だに二人の長々とした喧嘩のような話し声が聞こえてきていた。
「くうっ認めたくは無いですが今の私が『ヤツ』に敵わないのは事実……どうすればっ」
こちらを見ながら頭を抱える少女ーーここ何回かの制裁ですっかり戦闘意欲を失っているらしいーーと、それを理解しているのかさっさと撤退していく男子生徒。
助けは必要ない、とでもいうつもりなのだろうか。
「全く….…」
私を盾がわりにするなんて。
気が抜ける。
彼女は再びため息をついてから、警戒を解いた。そして、当初の目的の達成のために歩き出すのだった。