5話
5話
「おい、有村、悪かったってば。
まさかガチでドーリオンのコだとはおもわなくてさあ〜」
もぐもぐ、もぐもぐと頭の中で繰り返し反復しながら、無心でサンドイッチを頬張る。
BGMってのは案外重要だ。
人様の机に身を乗り出してくる無礼者を横目で睨めつけてから再びサンドイッチへと視線をもどし、間に挟まった照り焼きのソースをしげしげと観察する。うむ、やっぱり照り焼きはうまい。
「裏切り者に聞いてやる口はない。前でも向いていろ」
「くそっ冷たい」
すぐ帰っちまうお前もお前じゃないかとぼやいていたが、
無言で食事を続行していると今度は謝り倒す作戦に出てきた。
「ああもう、ごめんって。お前に嫌われたら俺誰にテストの答え教えてもらえばいいんだよ〜」
両手をこすり合わせてチラチラ顔色をうかがってくる。
「お前、そこいらじゅうにお友達がいるじゃないか……わざわざ僕に聞こうってのがさ……ほんとお前ってやつは……まあいい」
相田の方へと向き直すと、あからさまにホッとした顔をされた。
やっぱりもう少し黙っていれば良かったが、僕もそもそも怒っているわけでもないのでどうしようもないし、鬱憤を晴らす方法くらいある。それよりも聞きたいことがあった。
「まあお前には関係ないことくらいはわかってる、が、そのドーリオンとやらの学生は一体なんなんだ?」
相田に事情と昨日の出来事を手短に伝え、問いかける。
「お前本当そういう話聞いてないのな……」
一転して呆れ顔になった相田から聞いた話によると、『空中都市』ドーリオンの魔術学院とやらの生徒が、どうやらウチの……私立東泉魔術学園に交換学生としてやってきているらしい。期間は一年ほどで、結構な人数がいるそうだ。といっても、魔術科に限った話であり普通科にとってはほとんど縁がないとのことで、じゃあなんで僕なんかのところに来たのかというと、それは全く理解不能な出来事だった。
惚れられたんじゃねぇのという相田の弁はこの際放っておく。
「くそ、だから魔術師なんて嫌いなんだ」
「……いやお前それ全人類に喧嘩売ってるぞ」
「なんだと、僕が人間じゃないっていいたいのか。どいつもこいつも……」
そのとき、背後から涼やかな声が聞こえてきた。
「なに?ユージン。おまえ人間ではなかったというのか?」
僕は教室の外を見て、ハァァ、とため息をついた。
窓には金の髪をもつ青年が写り込んでいる。ああ、空が青い。
「……お前か、ファルス」
「ゲェーッ、いつのまに!?」
苦々しい顔の僕とは対照的に、相田が大袈裟に声をあげてのけぞった。
「なに、無礼な。いま話題の友人に会いに来ただけであろうが」
「おい、触るな」
ファルス・シャーレスト。
この明らかに偽名を使っている男は、この学園で一番の実力を持ちながらも普通科に在籍しているというふざけ切ったやつでもある。
つまり、変人。
おおかた、名前も英語辞典か何かから語感で選んだのだろう。
僕は密かにそう考えていた。
そしてこいつはーー
「それで、次は誰を襲撃するつもりだ?」
そしてこいつは、僕の『性癖』に最初に気付いた人間でもある。