2話
2話
僕こと、有村祐仁は魔術を使うことが出来ない。
なぜなら、魔力が無いからだ。
科学と魔術が融合した現代社会において、魔力のない者は存在しない。それは人間に限ったことではなく、この世界に生きる全ての生き物に対して言えることだ。
鳥にも、ウサギにも、象にも、蟻にも、足もとにはえる草にも魔力は宿っている。
そのなかで、唯一魔力を持たない僕はかなりの希少価値を持っていると言って良い。
古代の遺物なんていっちゃあダメだ。
「刹那に生きたいな……」
ぼつりとそう呟くと、すれ違った人に怪訝な顔をされてしまった。
ちくしょう、何だっていいじゃないか。
何はともあれ、長ったらしい話は面倒だが、早く帰れるのは素晴らしい。
まだ一時前だ。帰ったらさっさと昼寝をしよう。
下駄箱を出て、校門に差し掛かったところに一人の少女が立っていた。
赤いリボンをつけているところを見ると、今年入った魔術科の一年生なのだろう。気の強そうな目が、何やら落ち着かない様子で辺りを見回している。
ふと、バッチリと目線があってしまった。が、動じない。
軽く会釈して通り過ぎようとすると、突如その一年は僕のデリケートな腕をつかんで来た。
「痛ぁっ!」
「やっと見つけた!魔王様っ‼」
凄い剣幕の少女に気圧されて、抗議し損ねてしまった。
「王よ、やはりここは危険です!
遂に『ヤツ』が覚醒してしまったようなのです。
もっと安全な場所へ避難してください! ささ、こちらへ……」
「知るかよ、なんだ、お前!」
やたら強い腕力は、魔術で底上げしているのだろうが、僕には同じように魔術で対抗出来るわけでは無い。ぐいぐいと腕を引っ張られ、連れていかれそうになる。
どうしたものかと考えあぐねていると、また一人の少女の声が割り込んで来た。
「あなたたち、なにをしているの」
「会長!助けて!」
驚きで硬直したその隙に、腕を捻って電波さんから逃れ、生徒会長の後ろに逃げ込む。
危ないところだった。
ほっと胸をなでおろすと、再びその電波が喚き始めた。
「……⁉ その魔力は!
危ない魔王様!そいつから離れて!『ヤツ』だ!」
「お前がやめろよ!僕を攫うなんてそこらの赤子の手を捻るよりよっぽど簡単なんだぞっ」
「……なんのこと?有村」
「いや、このひとが急に襲いかかって来たんですよ」
会長はコトリと首を傾げて僕とその騒ぐ電波少女を見比べると、口を開いた。緊迫の時間が流れる。
「……よくわからないけど」
会長が電波少女へと手をかざす。
「私に任せて、あなたは帰りなさい」
「ありがとう会長!イケメン!」
長生きの秘訣は、人に頼ることである。ここは会長に任せて逃げるのが吉だ。
「ま、待てっ!リュデイン!またお前は逃げるのか!」
素早く去る僕の背後でそんな叫びを最後に聞いて、それっきりなにも聞こえてこなかった。
ありがとう、生徒会長……