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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第4話

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魔法の発展

 翌日以降、達樹は全てを忘れたように日々を過ごす。菜々子は用事があるらしく干渉することはなくなってしまったし、祖々江と基本的に訓練するようになってしまった。また舞桜もまた姿を見せず――だが試験が目前に迫る金曜日。大きな変化があった。


 突如警察から連絡が来る。呼び出しというのは非常に珍しく、達樹は何事かという思いで警察署を訪れると、


「あれ、達樹じゃないか」


 祖々江。訓練帰りで一度は別れたはずの彼がいた。


「どうしたんだ? 警察に用か?」

「こっちのセリフだよ」

「俺と達樹が呼ばれたってことは……何か進展があったのかもしれないぞ」

「進展? 何の話だ?」

「定岡って人に頼んだ話だよ」


 達樹は肩を僅かに震わせる。なるほど、それなら――


「待たせて申し訳ない」


 噂をすれば。祖々江の予言通り定岡が姿を現した。


「唐突に呼び出してすまない。それと西白君。試験前日にすまないな」

「いえ……それで、一体何が?」

「ああ、まず試験について話をしておかなければならない。実は延期になってね」

「延期……?」


 唐突にどうしたのかと達樹は思っていると、定岡から説明が入った。


「警察署内で少しゴタゴタがあってね。一週間伸びたのを報告しておこうと思って」

「そう、ですか」

「悪いな、準備をしていたのに」


 達樹は首を振る。すると定岡はここからが本題だと言わんばかりに、続ける。


「それで、君たちが遭遇した人物についてだが……何やら変わった事実があった」

「変わった……事実?」

「ああ。その人物は、とある研究施設をねぐらとしているらしい」


 その言葉で、達樹は嫌な予感がした。それはもしや――


「田上研究所、という所ですか?」


 達樹は半ば反射的にその言葉が漏れ出ていた。結果、定岡の目が僅かに細まる。


「……どうしてその名を?」

「ちょっと、その施設を調べる機会がありまして……なんだか怪しい場所だという情報は持っていたので、なんとなく名を出してみたんですけど」

「それは正解だ。田上研究所……どうやらそこに、彼が潜伏しているらしい」

「試験もなくなったことだ。ちょっと調べてもいいか」


 祖々江が言う。その声音には、微かに懸念が混じっていた。


「実は、そのことについて少々相談しようと考えていた」


 そして定岡は語る。つまりそれは――


「どうもこの件は、多少なりとも警察と関わりのある案件らしい。表立って動くとなると、まずいことになる」

「警察に協力者がいるということですか?」

「平たく言うと、な」


 重い言葉で定岡が答える。


「信じたくはないが、そういう話だ。立栄君の窓口になっている早河君については信用してもらってもいいと思うが、あいにく彼は別件で走り回っている」

「だとすれば……」

「一度、私としても調べるべきじゃないだろうかと思っていた」


 定岡は言うと、小さく笑みを浮かべた。


「無論、先の事件の主犯者が潜伏しているとなると、色々危ないかもしれない。こちらも相応の準備を持って対応しなければならない」

「警察の魔法使いが動くってことですか?」


 祖々江が質問。それに定岡は「そうだ」と応じる。


「といっても表立って動いてしまってはまずい。そこで、一つ提案があるんだが」

「俺達に協力依頼を?」


 祖々江がさらに質問。定岡は大きく頷いた。


「無理を承知で頼んでいる。内容としては、君を利用する形になるからな。嫌だったら断ってもいい」

「どういう内容ですか?」


 達樹は定岡と視線を交わしながら言う。


「うむ、現在田上研究所は魔法使いの実戦データなどを収拾しているらしく、その絡みで警察に協力依頼が来ている。警察側が研究所と関わりがあるのはこの辺りが関係しているのかもしれないが……ともかく」


 定岡は一つ咳払い。


「君たちについても、今回参加させてもらうと言えば、上手く潜入できるだろう」

「その間に調べると?」

「そういうことだ。ただ、一つ条件はある。独断専行で動かない事」


 当然の話だ――達樹はすぐさま頷いた。


「わかっています」

「決まりでいいのかい?」

「はい」


 達樹の承諾に祖々江も「よし」と発言する。


「なら、とことん付き合うぞ」

「悪いな、祖々江君も」

「いえいえ、全ては立栄さんのためですから」


 その言葉に定岡は笑う。


「そうか、君は立栄君のファンだったか……頼んだよ。それでは準備に入る。しばし、待っていてくれ」


 言い残し彼は去る――達樹としては思わぬ展開。不安があるのも事実だったが、それでも真相に近づけることに、高揚感を抱いているのも事実だった。



 * * *



 菜々子たちが行動を開始したのは土曜日。三枝に日町、そして手嶋を加えた四人は駅前に集合した。


「よし、きちんと制服姿だな」

「……そちらも、白衣着たままというのはどうにもおかしいですよ」


 菜々子と三枝はコートに制服。対する日町と三枝もコートだが、裾の端から白衣が覗いている。


「まあいいじゃないか。個人的に田上研究所の研究内容も気になるんだ。この格好なら無下にも断れまい」

「……私たちのことを利用して、研究内容を調べるのが目的というわけではないですよね?」


 菜々子が確認すると、日町は「どうかな」と肩をすくめた。誤魔化している雰囲気なので、おそらく図星。

 そんなやり取りを見て手嶋は苦笑する。


「智美、羽目を外しすぎないように……さて、行きましょうか」

「構わないが、ちなみに土曜もやっているのか?」

「研究機関は土日関係ないからね。ま、いつもと比べ人が少ないでしょうけど、施設は稼働しているわ」


 人が少ない――それはつまり、菜々子にとっても好都合だ。


 場合によっては施設を色々と見て回る必要がある――そういう可能性を考慮しており、いざとなれば日町たちの制止を振り切る覚悟も持っている。


「ああ、言っておくが」


 と、ここで日町が言う。


「今日研究所を調べただけで、全てが解決するなんて甘く考えないように。特に菜々子」

「わかっていますよ」

「いざとなったら無茶をする腹積もりなんだろうが……本当ならストッパー役として達樹も連れてきた方がよかったかな」

「ご心配なく」


 菜々子の言葉に日町はため息をつく。丸っきり信用していない。まあ日頃の行いを考えれば当然の話。

 日町は再度菜々子に視線を送った後、改めて告げる。


「それでは、行こうか」


 歩き出す。徒歩で向かうらしく、日町の先導に従い菜々子たちは歩き出す。


「しかし、なんだかわけのわからない事態となってきたな」


 日町が言う。菜々子としては、彼女が言いたいことがわかる気がする。


「なんというか、研究所関連の事件というのは、それこそ触れただけでまずいというものも多いからな」


 菜々子は達樹が死にかけた事件を思い出す。あれもまた研究所の暴走という話だった。


「魔法という概念が生まれ、それを研究するための機関が光陣市に作られたわけだが……科学技術と比べればまだまだでわからないことも多い。にもかかわらず政府なんかは成果を上げろと息をまく」

「仕方がないわよ」


 そう述べたのは手嶋。


「そもそも、これだけ不明な点が多い分野である以上、解析することはチャンスでもあるし」

「そうなんだが……」

「あと、これはどうしても言っておきたかったのだけれど」


 と、手嶋は自嘲的な笑みを浮かべる。


「研究というのは……それこそ、血塗られた歴史でもあるのよ。それは魔法だけではなく科学技術も」

「それは?」


 三枝が問うと、手嶋は説明を始める。


「科学技術の発展だって、多大な犠牲の上に成り立っている……もちろん犠牲を正当化しているわけではないけど、そういう面もあって技術が向上していくのもまた事実」

「複雑な心境のようだな」


 日町の言葉に手嶋は苦笑。


「そうねぇ……なんというか、研究者だからこそ色々と考えることがあるのよね」

「ちなみに訊くが、研究者の間でそういう話はあるのか?」

「あったとしてもさすがに表に出てくるようなことはないわよ。基本隠ぺいされるからね。けど――」


 と、ここで手嶋は口の端を歪める。菜々子はそれが笑みだと気付いたのは一瞬遅れてから。


 何か――言い知れぬ不安を抱かせるような、含みを持たせた蠱惑的な笑み。そんな表情を今まで見せたことがなかったため、何事かと思った。


 けれどその表情は一瞬で改められた。まるで自分が幻覚を見ていたような気分にさえさせる。


「色々噂話は聞いたことがあるわよ。ま、基本嘘なんだろうけど」

「どういうものだ?」


 日町が世間話の呈で問い掛ける。菜々子はここでまた手嶋の表情を窺った。それは――言ってみれば、何かを期待するかのような表情。


「例えば、そうね……有名どころだとクローン実験とかかしら」

「クローン、ねえ」


 日町がため息を吐く。


「あれだろう? どこかの研究所が人体実験をしていて、その中でクローン人間の生成実験をしているという話だな?」

「知っているの?」

「ありがちな話、ということだよ。SF系の小説で使い古されたものだ」


 彼女の反応に手嶋は笑う。


「それもそうね……けどね、この話は続きがあるの」

「続き?」

「噂を流した人も、クローン云々だけじゃあ話が盛り上がらないと思ったのか、さらに脚色してあるのよ。いわく、クローンとは別にどこかから子供をさらってきて人体実験をするとか」

「それもまたありふれた話だな」


 肩をすくめる日町。そう、菜々子にとってもそれは所詮「単なる妄想話」にしか過ぎない。


 過去、魔法都市である光陣市では色々と噂があった。例えば究極の魔法使いを完成させるために、魔法技術を結集し改造人間を生み出すとか。けれどそれはあくまでこの魔法都市を題材にしたネタであり、光陣市に住む菜々子でさえ、くだらないと一蹴するようなものであった。


「いつの時代も、そういうゴシップというのはなくなりませんね」


 三枝が言う。同意するように日町が頷いた。


「まったくだな。ああ、それと今回の見学でそういう可能性はないと思うぞ」

「当然ですよ」


 菜々子が言う。そんな大規模なことをやっていたら、当然ニュースになるだろう。隠し通せるものではないと思う。

 手嶋もまた同じような見解なのか、小さく笑みを浮かべた。けれど菜々子は、先ほどの表情が気になった。


(思い過ごし、だよね)


 そうだとしか思えない――頭の中で結論を出しつつ、菜々子は日町たちと共に歩き続けた。


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