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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第4話

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不穏な存在

 達樹は舞桜と話し合った後、電話を掛ける。相手はもちろん菜々子。二回のコールですぐに出た彼女に、達樹は用件を話す。


「……というわけなんだけど」

『そうですか……』


 やや沈黙。それはどこか予定外のことが起こった、という雰囲気である。


「菜々子? 何かあったのか?」

『いえ……私自身気になっているのは事実ですが、色々と調べるにしても厄介ですからね。少し考えていたところなんです』


 行動派の菜々子ならばすぐに動いていてもおかしくなかったが、さすがに研究所絡みということでそれも難しいと思ったようだ。


「わかった……もしだけど、動くことになったら俺にも連絡が欲しい」

『わかりました』


 承諾した彼女と通話を切る。するとここで、祖々江が話し出した。


「なんだか、気苦労が絶えないという感じだな」

「気苦労?」

「笹原さんと話している姿が、どこか探りを入れているような雰囲気に見えたからな」

「……まあ、彼女とは色々あったからな」


 事件後、彼女とも幾度か接し、その制御の大変さについては身にしみている。


「なるほどなぁ……だとすると、俺たちはどう動くべきか」


 悩み始める祖々江。それに対し、達樹は肩をすくめる。


「今回のことは、俺たちがあくまで自発的にやっていることだし、無理そうなら退散するのもありじゃないか?」

「自分のことなのに消極的だな」

「自分のことだから消極的なんだよ」


 達樹の反論に祖々江は「なるほど」と応じる。


「言いたいことはなんとなく理解したよ。ひとまず俺たちは様子を見るってことでいいのか?」

「ああ。菜々子の様子を窺いつつ――」


 その時、達樹の視界に入る人物が一人。見覚えのない少年だったのだが、目が合うと視線を外さないままこちらへ向かってくるため、何事かと心の中で身構える。

 祖々江も気付く。やがて近づいてきたのは中学生くらいの少年。


「あの、いいですか?」

「俺たちに用?」

「はい。これを渡せって言われて」


 差し出されたのはメモ用紙。達樹は首を傾げ言われるがままメモを受け取る。

 すぐさま立ち去る少年を見送り、達樹はメモを見る。そこには通りにあるとある建物を曲がり、路地へ入ってこいという文面が書いてあった。


「……なんだこれ?」

「ほう、達樹に喧嘩を売る人間が出てくるとは」


 祖々江が言う。達樹としては突拍子もないことであり、困った表情で口を開く。


「無視しよう」

「放っておくのか?」

「こんなメモ渡されただけじゃあ怪しすぎるだろ。誰が行くかって話だ」

「まあ確かにそうだが、もし今無視したらどうなるかわからないぞ」


 祖々江の言葉に達樹は彼を見返す。


「言っていることはもっともだし、俺も達樹自身だったら同じことを考えていたはずだ。けど、もしここで無視した場合――」

「どうなるんだよ?」

「というより、達樹を指定してメモを渡してきたということは、少なくとも達樹がどういう存在か知っているということだろ?」

「……そうだろうな、たぶん」

「立栄さんとの関係を隠しているのに、達樹を誘っている……俺としては、何で達樹にこんなことをしたのかって思ったわけだ」

「俺を恨んだりけしかける理由が、普通に考えれば見当たらない……舞桜との関係を知らない限りは、ってことか」

「たぶんな。それにここで無視しても、執拗に誘い込んでくる可能性もありそうだな」


 達樹はため息をついた。試験差し迫る中で色々と騒動――いや、そういう状況だからこそ、立て続けに起きているのか。

 その中で自発的に事を起こしている部分もあるが――達樹は祖々江に視線を送り、


「……あのさ」

「俺は付き合うぜ」

「なら、頼むよ」


 二人して移動を始める。達樹としてはこれ以上面倒事に関わりたくないという思いも多少あったが、それ以上に厄介事である可能性を考慮した。

 メモに記された角を曲がり路地へ。狭い道かつ人の気配がない荒涼とした道。達樹と祖々江は少なからず警戒しつつ、奥へと進む。


 やがて辿り着いた先――空地のような場所に、一人男性が立っていた。


「来たか」


 黒いコートを着た地味な印象の男性だった。風貌からすると大学生くらいのように見える彼は、地味な見た目とは裏腹に目をギラつかせ、達樹たちに敵意を示している。


「なおかつ、おまけがついてきたか」

「それは俺のことか?」


 祖々江が前に出る。その顔には、好戦的な雰囲気があった。


「何のためにここに呼んだのか知らないが、喧嘩を売る相手を間違えているんじゃないか?」

「いやいや、君たちで合っているよ。あんな訳の分からないメモ書きで来てくれるかどうか不安だったんだが、まあ何度も試すつもりだったし、なおかつ失敗してもこっちとしては痛くもかゆくもないからね」


 目つきを変えることなく男性は達樹たちを見据える。


「さて、ここに来てくれてまずは感謝しよう。そして次に、警告をしよう」

「警告? その前に、あんたは何者だ?」


 達樹が問う。すると男性はニコリと笑みを浮かべ、


「君たちは、立栄舞桜さんから事情を聞いているのか?」

「……何?」

「俺については……前の事件の主犯者、古閑の知り合いと言えば察しがつくかな」


 その言葉と同時、達樹と祖々江は身構えた。


「なんだ、ずいぶんと悠長な奴だな」


 敵意をあらわにして、祖々江が言う。


「あの事件の関係者……逃亡中の身だっていうのに、こんなところに来て大丈夫なのか?」

「大丈夫だからこそ、この場に立っている」


 祖々江は今にも飛び掛かりそうな状況。とはいえ達樹としてはもし攻撃するなら止める気でいた。目の前の敵――あまりにも態度が不穏。

 こんなところにいることを含め、なぜ呼び出したのかも謎。罠のようなものは感じられないにしろ、警戒を抱くのは至極当然と言える。


「その警告というのは何だ?」


 達樹は視線を相手から離さないよう努め、問う。


「金輪際彼女に近づくなということか?」

「さすがにそこまでは言うつもりはないさ。俺が言いたいのはただ一つ。これ以上彼女に関わり続けたらどうなるかわからないってことさ」


 どうなるか――すると祖々江は一歩前に足を踏み出し、言及。


「何だ? 立栄さんの体には爆弾でも埋め込まれているとでも言いたいのか?」

「あまり良い冗談とは言えないな……けど、確かにそういう風に言うこともできる」

「なんだと?」

「もちろん物理的な意味合いじゃないよ。彼女にそんな仕掛けをするような輩がいるはずもない。ただ一つ……彼女に深入りするなってことさ」


 深入り――その言葉に達樹は僅かに反応した。結果、相手はそれを見逃さず笑みを浮かべる。


「そっちは何か知っている様子?」

「……何を、だ?」


 誤魔化すように問い掛ける達樹。相手はどこまでも笑う。誤魔化すなよ、と顔で語っている気さえする。


「ま、いいよ。言っておくけど俺はきちんと警告したからな」

「立栄さんと関わると、何があるんだ?」


 祖々江が問う。興味というよりは茶化した物言い。彼にとってみれば「何を馬鹿なことを言っているのか」といった感じだろう。

 だが相手は、至極真面目に語る。


「後悔することになる……彼女の正体を知ったなら、な」


 そうして相手は、達樹へと目を向ける。


「……彼女と深くかかわることになったのが君というのは、果たして何の因果なんだろうね」

「何を、言っている?」


 相手の口上を聞き、達樹は訓練場で盗み聞きしたことを思い出す。

 舞桜に関すること。そして姉のいた研究所――


「話はこれだけだ。俺は警告したからな。この辺りで退散させてもらうよ」

「逃げられると思っているのか?」


 祖々江が問う。戦う意志を表した彼に、相手はただ微笑んだ。


「――追えると、思っているのか?」


 次の瞬間、風が吹いた。それと同時に祖々江が仕掛ける。

 だが達樹には、風と共に消えていく彼の姿――おそらく、最初から幻影か何かだった。


「……くそっ」


 祖々江は動きを止め悪態をついた。


「だが、何かしら動いているのは間違いなさそうだな……どうする?」

「どうすると言われても……」


 達樹は表情を曇らせる。


「ま、無難なのは警察に連絡することか」

「そうだな」


 達樹もその点は同意し、歩き出そうとする。だが、


「……何か思い当たる節でもあるのか?」


 祖々江が質問する。達樹は黙って彼を見返し、しばし沈黙した後、


「いや、何もないよ」

「そうか」


 祖々江はあまり反応しなかった。けれど達樹自身嘘が苦手であるため、きっと彼は「達樹にとって思い当たることがある」と認識した事だろう。


「……誰かに何かを言われようとも、達樹の意志は変わらないんだろ?」


 祖々江が問う。それに達樹は心の底から頷く。


「ああ。それは間違いない」

「ならそれで良しとしようじゃないか……ま、とはいえ気になるのも事実だ。立栄さんに話すか?」


 どうすればいいのか――達樹としてもどちらがいいのか迷う。

 ただ、一つだけ気にかかる。どうやら何か――以前の事件に関連した人物が動いているのは間違いない。だからこそ、


「まずは先ほどの男性について、警察に連絡しよう。訓練はひとまず中止だ」

「了解」


 祖々江は答え、先導するように歩き出す。

 達樹はそれに追随し――頭の奥に引っ掛かるものを抱きながらも、祖々江と共に警察署へと向かった。


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