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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第4話

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彼女への相談

 菜々子が手嶋と話したその日、達樹は祖々江と訓練を行うべく移動をしていた。


「ま、よろしく」

「……ずいぶんと乗り気なんだな」


 達樹からそんな言葉が漏れる。すると、


「何だ、始終にらみつけていた方がいいのか?」

「いや、今のままでいいけどさ……」

「こんなすんなり協力してくれるとは思っていなかったと」


 達樹は素直に頷いた。すると祖々江は苦笑する。


「ま、そうした感想は至極当然かもしれないな」

「……なぜ、俺に協力する気になったんだ?」

「別に深い意味はないさ。ただ立栄さんに何か協力できればいいって思っただけだ」


 達樹は無言で祖々江を見返す。彼の心情が読み取れないため、困惑するしかない。


「そりゃあ確かに、何でお前がって気持ちは多少なりともあったさ」


 肩をすくめる祖々江。気持ちを吐露したわけだが――


「……過去形なのか?」

「ああ」

「今は違うと?」

「ずいぶん疑り深いな……仕方のない話ではあるけども」


 笑う祖々江――達樹としては、こうして学園でもトップクラスの成績上位者と肩を並べて話をすることなど、夢にも思わなかった。


「ま、先日の戦いで色々と立ち回る姿を見ては、認めないわけにはいかなかったということさ」

「……あの戦いか」

「そう。でもまあ、立栄さんと話ができそうだからというのも理由には入っているけどな」


 台無しだよと達樹は心の中で思ったりもするが、あえて言うことで達樹を安心させる意味合いもあるのだろう。


「そういうわけだから、よろしく」

「……わかったよ」


 協力的であるのは幸いなので、達樹は頷くことにする。


「で、話は変わるんだが……」

「どうした?」

「今日、笹原さんを昼休み見かけたんだが……白衣を着た人と話していたんだが」

「白衣?」

「たぶん、先日訓練の時に顔を出しに来た研究者だと思う」

「手嶋さんのことか」


 達樹は思考する。なぜ菜々子と彼女が――


(もしや、俺の言ったことが気になって菜々子が?)


 達樹にそうしたことを話してもおかしくないが、それをしないのはおそらく試験が近いからではないだろうか。


「いや、単なる雑談って可能性の方が高いから、別に何かあるというわけではないと思うんだが」

「……そういえば、あの人は学園に出入りしているのか?」

「ああ。何度か俺も見かけたことがあるぞ」

「そっか……」

「何か気になることでもあるのか?」


 祖々江の問いに、達樹は小さく肩をすくめる。


「いや、そういうわけじゃないんだけどさ……あ、別に手嶋さんがどうとか、そういうわけじゃないんだ」


 下手をすると菜々子が首を突っ込むことになるのではないか――それが少しばかり懸念だった。


(舞桜に相談した方がいいのか? けど、田上研究所については……)


 彼女に関する情報が存在している――どの道田上研究所に関わるのであれば、その辺りのことは――


「どうした?」


 ふいに祖々江から問い掛けられる。達樹は我に返り、少し慌てながら返答する。


「いや、ちょっと考え事だよ」

「笹原さんのことが気になるのか?」


 核心を突かれ沈黙する達樹。


「ま、研究員と話をするなんて警戒するのは仕方のない話ではあるけどな……」

「警戒し過ぎという意見もあるだろうけど」

「事件もあったんだ。仕方のない話だろ」


 肩をすくめる祖々江。どうにか誤魔化せた――そう思った時、


「おっ」


 突如彼が声を上げる。視線の先――見ると、達樹たちへ近づく舞桜の姿があった。

 一人で周囲には誰もいない。彼女は達樹の存在に気付いたらしく視線が合い――ほんの僅かに表情が硬くなったと思ったが、すぐに収まる。


「……どうも」


 舞桜が挨拶。すると祖々江は笑みを浮かべ話し掛けた。


「どうも、立栄さん。お一人ですか?」

「はい……二人は、訓練に?」

「そういうことです。笹原さんや三枝さんは本日お休みです」


 丁寧に語る祖々江。その様子がどこかおかしく、達樹は苦笑しそうになる。


 舞桜は二人へ会釈してその場を立ち去りそうになるが――ふと、祖々江がさらに声を上げた。


「そういえば立栄さん、以前訓練場に来た研究者がいたんですけど」

「研究者……? 手嶋さんのことですか?」

「はい。笹原さんが何やらその人と話をしていたのですが、何かまた騒動が?」


 達樹は思わず声を上げそうになった。祖々江としては話題が出たためなんとなく尋ねたのだろうが――


「騒動……」


 舞桜は目を細める。初めて聞くという顔つき。


「今のところそうした話はありませんが、菜々子が何かしていると?」

「あ、いえ、そういうわけではないんですけど」


 祖々江も余計なことだったのか誤魔化すように言う。だが舞桜は止まらなかった。

 おそらく菜々子のことだからだろう。一歩詰め寄り祖々江に問い掛ける。


「もし……良かったら、話を聞かせてくれませんか?」

「それなら、達樹の方が詳しいですよ」


 ――これはまずいことになったと達樹は思う。説明するにしろ、姉のことは出さないといけないだろう。

 それについては特に問題はない。興味があったためと説明すればいいだけの話だが、田上研究所についてのことはどう言えばいいのか。


 菜々子が以前語ったことは事件性だってあり得るもの。だからこそ舞桜に負担を掛けさせたくないという意識もあるのだが――


「達樹」


 少し怖い声音だった。祖々江もこれまでの雰囲気とは異なる声に肩を震わせる。

 怒りというわけではない。かといって穏やかなものでもない。達樹はその声がどこか、自分のことを叱責しているようにも感じられた。


 舞桜は無言で達樹と目を合わせる。それが全てを物語っており――


「……わかった」


 息をつく達樹。とはいえ舞桜自身のことをきっかけにしたとは言えない。よって、姉の件――菜々子に教わった部分を含めて話すことになる。


 それから達樹たちは話し合いのためにファーストフード店へ入る。ポテトでもつまみながら達樹が話した内容に――舞桜は、懸念を示す。


「なるほど……菜々子が興味を抱くのも頷ける」

「達樹のお姉さんは、危険な実験をしていたってことなのか?」


 祖々江が問うと、達樹は「わからない」と答える。


「姉が何をしていたのかなんて、俺には何もわからない。だからこそ調べるきっかけもあったから……けど」


 達樹は舞桜を見た。


「試験のこともある。それに田上研究所を調べるなんてこと、舞桜のパートナーになることを考えると、やるべきじゃないだろ」

「まあ確かに」

「……でも、菜々子は興味を持ってしまった、か」


 舞桜が呟く。言葉と共に彼女は何度も頷き、


「状況は理解できた……舞桜はきっと手嶋さんから話を受けて動こうとしているんだと思う。達樹のお姉さんのことだって気になるのかもしれないけど、それ以上に事件性を気にしているんだと思う」

「……首を突っ込もうとするのは、そういう性格だからかな」

「達樹に関わることであるのも要因としては大きいと思うよ」


 達樹は話したことを一瞬後悔したが――舞桜は首を左右に振った。


「気にしないで」

「……わかった」

「なら、俺も協力する」


 祖々江が言う。それに達樹は首を向ける。


「協力って……」

「俺としても気になる内容だからな。それに立栄さんが動くんだ。色々と協力しないわけにはいかないだろ?」


 達樹は苦笑したくなりつつ――舞桜へと顔を戻す。


「けど、どうするんだ? 菜々子に直接話をする?」

「やめなさい、と言って止まると思う?」

「思わない」


 正直答えると、舞桜も同意するように頷いた。


「どうするかという選択肢はあるけど……私としては、達樹のお姉さんのことも気になる」

「それって、まさか……」

「警察の人も、今回の事件に関係しているとか言えば、悪い顔はしないでしょ」


 悪戯っぽい笑み。一連の事件と関係性などあるはずもないが――


「手嶋さんはお姉さんと同級生なんだよね? 私にもお姉さんと関係のある人を知っているから、まずはそっちを当たってみようかな」


 野乃のことだと達樹は認識しつつ、舞桜に指示を仰ぐ。


「俺たちはどうすれば?」

「菜々子が動き出していることからも、達樹が言っても止まらないのは明白。なら、逆に協力するような形で共に行動するようにすればいいかな」

「……本当に、いいのか? 研究所を調べるなんて相当大事だけど――」

「警察が頷けば、まあどうにかなるんじゃないか?」


 祖々江が語る。


「立栄さんに大量に借りを作っている警察だ。事件と関係あるなんて言えば大丈夫だろう」

「……バレた時のことを考えないといけなさそうだな」

「その辺りはどうにかするよ」


 舞桜は言い――達樹に微笑を浮かべた。


「私自身、達樹にも心情的にスッキリして欲しいから」


 ――パートナーとなる以上、その辺りのことを解決して欲しいという意図があるのだろう。

 だがこの話には舞桜も――達樹はどうするか迷った。しかし話してしまった以上舞桜が止まる様子もない。だから、


「……わかった。ありがとう」


 達樹はそう返すしか、できなかった。


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