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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第4話

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意外な協力者

 達樹は菜々子との待ち合わせ場所である駅前でベンチに座り待っている間、昨日起こった出来事を頭の中でグルグルと回す。


「田上研究所の件は……手嶋さんに任せていいよな」


 そう呟き、一夜過ぎてもまだ調べたいという欲求が存在していた。


 姉のことについては、心のどこかでずっと引っ掛かっていたのかもしれない。試験が迫るタイミングでいきなり情報を手に入れることができたのは――何か理由があるのだろうか。


「……本当なら、迷惑をかけるわけにはいかないんだけどな」


 あくまで見学の範疇だろうから、大丈夫だとは思うが――もし、仮に研究所内を調べられるような状況になったとしたら――


「いや、そんなこと……やるべきじゃないな」


 姉に関することと、舞桜に関すること――しかし達樹は思考を振り払う。

 彼女に命を助けてもらった――それだけで彼女を守る理由としては十分のはずだ。


(余計なことはするべきじゃないだろう)


 そこまで考え――昨夜の、舞桜の口から出た言葉を思い出す。

 口元に手を当て、考える。あれはあくまで酔った勢いであるはずで、単なる冗談なんて可能性は十分ある。


 けど――もし、本当だったのだとしたら。


「本当だとしたら……」


 言葉と共にため息を吐く。さすがにあんな直球の告白を受ければ、意識せずにはいられない。


 生まれてこの方告白などされた記憶もないため、慣れていないという点も嫌に思考してしまう要因となっている。あれはあくまで酔った末の行動だと言い聞かせても、本当なのか単なる冗談なのかでどこまでも考えてしまう。


 研究所に関することもあり、頭の中が混乱している。というより昨日起きた出来事は、情報が多すぎて一晩経っても処理しきれていないのかもしれない。


「……とりあえず、訓練の時は何も考えず無心になれるよう心がけよう」


 身が入らなければ訓練の意味はないし、何より相手が菜々子なのだから危ない。彼女に相談するという案も一瞬考えたが、さすがに内容が内容だけに相談するのもまずいと感じ、思い直した。


「……お待たせしました」


 その時、菜々子の声。達樹は「大丈夫」と答えつつ声のした方へ首を向けた。


 そこには――


「よっ」

「どうも」


 制服姿の祖々江と三枝もいた。


「……あれ?」

「面白そうなことをやっているそうじゃないか」


 祖々江が言う。そこで達樹は首を菜々子へ向ける。


「喋ったのか?」

「三枝さんから買い物の誘いが来て、訓練があるからと断ったら……」

「その流れで、何で祖々江まで?」

「訓練相手は多い方がいいかと」


 三枝の言葉。すると彼女は達樹へ体を向け、語る。


「試験ですので、色々な対策をする必要があるでしょう。一番効果的なのは笹原さんだけでなく、色々な魔法の使い手と戦って経験を積むのが一番です。それにより、訓練の質も上がるでしょう」


 言っていることは確かにもっともなのだが――決して裏があると考えたわけではないが、ずいぶんと協力的なことに達樹は驚く。


「私自身、パートナーに関する騒動で懲りたのは事実です」


 やがて、三枝が語る。


「本音を言えば、私が立栄様の……けれどそれが叶わないのは明白。よって私ができることは、立栄様から信頼を勝ち取っているあなたをパートナーにすることだと思いまして」

「俺も同感だ」


 祖々江が三枝に続いて告げる。


「それに、応援団に所属した俺としても、立栄さんに関することなら協力したい」

「……今驚くような情報を耳にしたんだが、応援団に入ったのか?」

「ああ」


 すぐさま頷く祖々江。優矢としても彼ほど強力な人物が応援団に加わったことは良いと思ったに違いない。


「そんなに驚くことか?」

「寝耳に水だ。いつから?」

「数日前。ああ、伝言がある」

「優矢から?」

「ああ。頑張れ、だそうだ」


 達樹は押し黙った。なぜか奇妙に思ってしまったから。


「どうした?」

「いや……何でもない」


 首を振り、達樹は祖々江たちへと話す。


「人数は多い方がいいとは思うから……協力、お願いするよ」

「任せとけ。ビシバシやるから安心しろ」

「……そっちの加減で訓練をやると、俺は死ぬ可能性すらあるんだが」

「心配するな。若い間は基本死なないって」


 根拠ないだろと思いつつ、達樹は「お手柔らかに」と返答。次いで三枝へ視線を移す。


「よろしく」

「ええ……よろしく」


 声に刺々しさはなかった。達樹はなんとなくほっとした気持ちを抱きつつ――ふと、菜々子へ視線を向けた。

 彼女はどこかさっぱりとした表情。一人で付き合う必要はないという肩の荷が下りたという感じだろうか――いや、どこか達樹の様子を見るような雰囲気も見て取れる。


 それが何を意味しているのか――達樹は考えようとして、やめにした。処理能力を超えてしまったというのも大きいかもしれない。


(今はひとまず、無心になるか)


 達樹はそう思い、菜々子たちへ口を開いた。


「なら早速、訓練開始といこう……全員、いいよな?」


 三人は頷く。それに達樹は「お願いするよ」と言い、


「行こう」


 言葉と共に歩き出した。



 * * *



 手嶋が達樹以外にも前回の事件に関わった面々がいると知ったのは、達樹が訓練を開始し始めた直後。情報を聞いて彼女は、どうするかを思案する。


「彼女たちにも干渉するべきかしら?」


 とはいえ、それも少なからずリスクがある……しかし、


「ああした人間を巻き込んだ方が、目論見の効果は上がるはずよね」

 同時にそんなことも考えた。となれば、やるべきことは一つ。


 電話を手に取る。そしてかけた相手は――


「ああ、笹原さん。どうも。今大丈夫かしら?」


 昨日の時電話番号を交換していたわけだが――これが早くも役に立つとは。


『はい、大丈夫です』

「今訓練中よね? 西白君は?」

『現在、別の方と訓練中です』

「別? 他に誰かいるの?」


 白々しく問い掛けると、菜々子は説明を始めた。それを聞いた後、手嶋は改めて語る。


「なるほど、わかったわ……解析もひと段落したから、今からそちらへ行ってもいいかしら?」


 よいという返答。そこで手嶋はほくそ笑んだ。


「なら、場所は?」


 そこから場所を聞いて電話を切る。その場にいるのは三枝と祖々江。どちらも舞桜を慕っている人物であるが――


「……打ち崩すためには、少しばかり手の込んだことをしないといけないわよね」


 立ち上がり行動を開始する――その時見せた笑顔は、紛れもなく謀略の笑みだった。


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