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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第4話

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思わぬ告白

「あの、舞桜の体調ですけど」


 菜々子の言葉に、日町が反応する。


「一定周期でメインに据える属性系の魔法が、早く変化するようになった」

「それが変化ですか?」

「舞桜としては何か変調という見解のようだが、私から言わせれば成長による変化だと思っている。今は経過観察中だ」

「相談してくれてもいいのに」


 手嶋が言う。それに日町は肩をすくめ、


「お前に無理させるわけにもいかないからな……それに」

「それに?」

「研究と称して色々舞桜に干渉してくる可能性を考えると、迂闊に話せなかった」

「信用されていないのね」

「当然だと思うが」


 肩をすくめる日町。達樹は手嶋が研究関連になると周りが見えなくなるようなタイプなのだと思った。


「言っておくが、変に言うなよ。舞桜自身気にしている部分でもあるからな」

「わかったわ」


 どこか残念そうな雰囲気を持たせる手嶋。だが日町は容赦なく「頼むぞ」と釘を刺し、


「さて、そろそろ私は戻らないといけないのだが……舞桜も寝てしまったからこの辺りで解散といこうじゃないか」

「なら、私が片付けておくわ」


 手嶋が言う。菜々子もそれに付き合うという形となり、達樹もそれを手伝うということになった。

 先に日町は帰り、残った三人で片付けを開始する。といっても基本菜々子と手嶋が食器を洗うなど大体のことをやってしまったため、達樹としては暇になってしまった。


 どうしよう、などと思っている間に、菜々子から声が。


「達樹、舞桜の様子を少し見に行ってくれませんか?」

「……俺でいいのか?」

「ノックしてみて、反応がなければ戻ってきてください。寝ているのならそれでいいのですが、もし起きていたら色々大変なので報告をお願いします」


 そう言われるとなんだか不安になる――達樹は「わかった」と返事をして舞桜の部屋へと向かう。

 扉の前に辿り着くと、まずはノックをしてみる。反応がないので眠っているのかと思い、そのまま引き返そうとした。けれど、


「……誰?」


 舞桜の声。達樹は起きていたのですぐに報告へ向かおうとしたのだが、催促する彼女の声に達樹は返事をした。


「お、俺だ」

「……達樹?」


 パタパタと足音が聞こえる。扉越しの声はずいぶんとはっきりしていたので、もう酔っていないのではという考えが頭の中に浮かんだのだが――

 扉が開く。そこにはほのかに顔を紅潮させた舞桜がいた。


「どうしたの?」

「あ、いや……」


 咄嗟に何か言うべきなのか悩んで――彼女の表情がずいぶんと子供っぽい感じなのに気付いた。

 ただ、それでいて不思議な魅力を発している――普段とは異なるその雰囲気に、一時達樹は気圧される。


 小首を傾げる舞桜。達樹は「ごめん」と言い、この場を去ろうと思った。しかし、


「待って」


 その手を急につかんできたため、達樹は思わず驚いた。


「ちょっと……話がしたいの」

「え、えっと……話?」


 驚き達樹は聞き返す。それに舞桜は即座に頷き、


「質問……私のこと、どう思っている?」

「……へ?」


 間の抜けた声を上げる。それはどういう意図で放った言葉なのか。

 沈黙が生じる。どう思っているか――舞桜は何を言いたいのか。


 とはいえ、間違いなく言えることは彼女は現在酔っているのだろうということ。子供っぽさも垣間見えることからもしかすると冗談なのかもと思い、達樹は適当な言葉を放って下に戻ろうと思った。


「強いて言えば、憧れの存在かな」

「憧れ……?」

「ほら、舞桜は勉強も実技も何でもできる。そういう風になることは俺はできないけど、とにかく憧れを――」

「そっか」


 どこか残念そうな様子。回答が気に入らなかったのか。

 奇妙な沈黙が生じる。達樹は舞桜が黙り込んだため、声を発することもできず、ひたすら舞桜の反応を待つしかできない。


 やがて――


「……私」


 舞桜が発する。何か、重大な秘密を打ち明けるような雰囲気であり、達樹は心の中で止めた方がいいんじゃないかと思ったが、


「私……達樹のことが好きなの」


 全て遅かった――同時に、理解するのに十秒くらいの時間を要した。


「……へ?」


 またも間の抜けた声。けれど舞桜は表情一つ変えずに至極真面目に語っている。

 酔っているため、ふざけているのかと達樹は一瞬考えた。いくら根が真面目でも、酔っているような状況はその限りではないと思ったのだ。


 だが、舞桜の目は本気のもので、ただただ達樹は沈黙するしかない。


(ほ、本気なのか……!?)


 酔いが回っているからこそ本当のことを喋ったという可能性だって無きにしもあらず。よって頭の中が混乱し、さらに言葉を失くす。

 舞桜も無言で達樹と視線を合わせる。不思議な膠着状態に陥り――やがて、


「達樹ー? どうしましたか?」


 階下から菜々子の声。おそらくいつまで経っても戻ってこない達樹を不審に思ったのだろう。


「――あ、ああ! 大丈夫!」


 そして達樹は声を上げる。すると舞桜は一度視線を逸らし、くるりと背を向ける。


「私は一度起きたけど、少しして引っ込んだと言っておいて」


 極めて冷静に――達樹がなぜここに来たのか理解しているような素振りで声を発する。


「返事も特に期待はしていないよ。それじゃあ」


 言いたいことは全部言ったという雰囲気で、彼女は扉を閉めた。

 残された達樹。呆然とする中で少しすると我に返り、階段を下りた。


「何かありましたか?」


 片付けが終わった菜々子が問い掛けるので、達樹は誤魔化すように声を上げる。


「一度起きてびっくりしたけど、少しして寝たよ」

「何かありました?」

「いや、ないけど……」

「そうですか」


 安堵するような菜々子の発言。何かあるのか訊こうと思った矢先、


「稀にですが、無意味に魔法を放ったりするようなこともあるので」


 怖い――と達樹は思いつつ、一つ言及。


「なんだか、酔っていなさそうにも見えたんだけど」

「舞桜は少し顔が赤くなるくらいで他に変化はありませんからね。ですが、酔った時は記憶がないくらいのものらしいのですが」


 ということは、先ほどの唐突な告白についても明日になれば忘れているということなのだろう。達樹としてはなんだか安堵してしまう。


(けど……本当のことなのか?)


 なおも達樹は内心疑う。先ほどの言葉は単なる酔った勢いの冗談なのか。それとも――


 結局、答えは見いだせないまま達樹は帰ることとなった。菜々子は「今日は心配なので一泊する」と言い、なおかつ手嶋とは途中まで一緒に帰ることになった。


「いやあ、面白かった」


 至福の表情を浮かべる手嶋。その表情は嬉々としており、達樹はなんだか苦笑してしまう。


「まあ、俺もなんだかんだで楽しめたので……」

「そうね」


 と、手嶋は微笑を浮かべた後、告げる。


「西白君、私も応援しているから。試験、頑張ってね」

「ええ、はい」


 頷く達樹。すると彼女はどこか遠い目をした。


「しかし、驚いたわ」

「何が、ですか?」

「こうしてあなたに出会ったのも、何かしらの縁、なのかもしれないわね」


 言っている意味がわからない。ただ、その口ぶりからすると元々達樹のことを知っていたような素振りなのだが――


「西白君、確認だけど……お姉さんがいるわよね?」


 その言葉で、達樹は驚いた。


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