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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第4話

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研究者からの提案

 その日、達樹はずっと訓練漬けであり、夕方前終了した時にはヘトヘトだった。


「お疲れ様」


 見にやって来た舞桜が呼び掛ける。達樹は「どうも」と返事をした後、訓練場の端に座り込んだ。

 菜々子他、日町や手嶋は訓練場の隅にあるパソコンに向かい何やら検証を行っている。菜々子まで加わる必要はないのではと達樹は思うのだが――


「菜々子は訓練結果の数値を見てわかるのか?」

「わかるからあそこにいると思うけど」


 舞桜はそう返答した後、達樹の隣に腰を下ろす。


「ひとまず今日の訓練は終了だけど……どんな感じだった?」

「どうも何も、大変だったよ」


 肩をすくめる達樹。ただ現在の心情としては、訓練のことよりも舞桜に関することの方が気に掛かっていた。


(けど、ずっとこんな気で訓練していても成果は上がらないだろうな)


 そう心の中で思い、達樹は考えを改めようとするが――隣に舞桜がいるためか、どうにも思考がまとまらない。

 姉も関わっていることはそうした思考に拍車を掛けている。姉のことと、舞桜に関することが何か関連があるとしたら――


(考え過ぎか)


 それに、もし関係があったとして、姉の事故に彼女が関わっていたとしても――彼女に命を救われた以上、迷う必要はないと思う。


(何があろうとも……命を助けてもらった舞桜に報いる。それでいいじゃないか)


 結論を導き出した時、日町が近寄って来た。


「今日はこのくらいにしよう」

「明日は?」

「どうするかは考え中だ。達樹の能力についての検証も必要であるためだが……とはいえ訓練自体はできるだろう。菜々子に言っておくので、どこかの訓練場で汗でも流せばいいさ」


 それはそれで大変なのだが――休日特にやることもない達樹としては、他に選択肢はないかなとい思う。しかし、


「ちなみに菜々子は同意しているんですか?」

「ん? 当然だろう。彼女は進んで戦ってくれるようだからな」


 ――訓練中感じたのだが、むしろ彼女の方がずいぶんと熱心である気がした。それは舞桜のことを頼むという意味合いなのか、別に自分に何か役目が回ってくることを期待しているのか。


「というわけで、明日はそういう感じで頼むぞ……あ、菜々子と話はしてくれよ」

「はい」


 日町が去る。後ろ姿を眺めていると、舞桜から声が。


「さて、私は帰ろうかな」

「あ、ちょっと待ってくれ。大丈夫なのか?」

「そう心配してもらわなくてもいいよ」


 そう舞桜は返答したのだが、事件からそれほど経過していないことを踏まえると、多少身構えてしまうのも事実。もっとも、彼女の能力なら心配するだけ無駄、という意見もあるのだが。


「舞桜」


 そこへ菜々子が近寄ってくる。どうやら彼女も達樹と同じことを思っているようで、


「一緒に帰ろうと思ったんだけど……」

「わかった……けど、菜々子たちと方角が違うよ?」

「二人とも、心配しているということよ」


 今度は手嶋が。すると舞桜は苦笑を伴い語り出す。


「大丈夫ですよ。それに、私をどうにかするには魔法陣などを駆使する必要がありますし、さすがにそんな所業を路上でするなんて無理でしょうし」

「まあ、実力的にあなたと肩を並べる人なんていないと思うけれど……あ、そうだ」


 と、手嶋は突然手をポン、と叩く。


「あなたと少しばかり話してみたかったのよ……ねえ、もし良かったら夕食がてら話でもしない?」

「話、ですか?」

「研究員として色々、ね……けど、二人だけじゃあ少し寂しいわね。智美ー!」


 日町の名を呼ぶ。すると彼女はうんざりした様子でこちらに再度寄ってくる。


「なんだ頼子。いや、言わなくてもわかる」


 はあ、と一つため息を入れる。


「悪い癖が出たな」

「悪い癖?」

「こいつは大の宴会好きでな。人が集まると色々やらかしたくなるんだよ」


 聞き返した達樹に日町はそう返答。実際、手嶋はキラキラと笑顔を見せており、日町が述べたことを暗に肯定している。


「言っておくがな、私たちは明日も仕事だぞ?」

「深夜までやろういうわけじゃないわ。三人と色々親睦を深めたいのよ」


 と、手嶋は達樹や菜々子に目を向ける。


「そちら二人も付き合わない?」

「は、はあ」


 唐突な申し出に菜々子ですら戸惑う。というよりニコニコしながらも中々の眼力で、断ることを尻込みしそうなくらいの雰囲気を持っている。


「……ちなみに、夕飯はどこかで食べるんですか?」


 達樹がなんとなく訊いてみる。日町は「おい、バカ」とでも言いたげに焦った表情を見せたのだが、手嶋はさらに顔を輝かせた。


「こう見えて私は料理が得意でね。もし付き合ってくれるなら腕によりをかけて作るわよ」

「そ、そうですか」

「ねえ立栄さん。いいでしょう?」


 ずい、と舞桜に接近しながら手嶋は言う。当の舞桜は半歩引き下がりつつ、微妙な表情をする。

 きっと嫌ですと断る要素も無ければ、やりましょうとすぐに頷くようなこともない。だからこそ外部的な要因で結論が変わることが容易に想像でき――他が沈黙した中、さらに手嶋が言う。


「そう無茶をするつもりはないわ。この中で私は新参だから、色々と話とかを聞きたいの。あ、日町から多少ながら説明は受けているけれど、もしよければ少しでも詳しく聞きたいというか」

「……わかりました」


 たぶん熱意に押されたというよりは断る理由がなかったということなのだろう。すると日町は仕方ないと言った様子で、舞桜に告げる。


「こいつの制御は私がしよう。三人は先に家に行っていてくれ。夕食を用意してそちらに向かう」

「わかりました」


 というわけで、移動。唐突な展開に達樹も戸惑っていると、舞桜は口を開いた。


「悪い人じゃないみたいだし……断るのも悪いかなと」

「それはまあ、俺も同意する」

「それに、ちょっとだけ私もあの人の研究とかに興味を持ったし」


 そうした要因もあって頷いたということだろう。一方の菜々子はいまだ訓練場にいる手嶋を振り返って一瞥し、


「単に騒ぎたかっただけ、という可能性も……」

「そうかもしれないけどね」


 舞桜は苦笑。とはいえ決して不快な様子はない。


「それにほら。達樹も菜々子も色々身構えているでしょ? たまには息抜きも必要だと思う」


 それもまた、頷いた理由なのだろう――結局、達樹も菜々子も舞桜からしたら気を遣っているというわけだ。

 なんだか申し訳ないと達樹は思いつつも、ちょっとありがたいと思ったのは事実。訓練開始から緊張しっぱなしであり、このまま一週間はもたないかもしれないと思っていたところだ。


 そこに降って湧いたようなイベント。舞桜や菜々子はどう思っているかわからないが――


「準備はしなくていいのかな?」

「日町さんが制御するようだし、大丈夫だと思う」


 舞桜と菜々子は達樹の前を歩き会話を成す。二人としても不快というわけではなさそうだった。

 ふと空を見上げる。陽が沈みかけており、もうすぐ夜を迎える。宴会をする時間としては頃合いだろうと感じた。


「ま、明日からさらに苦しくなるから、ここで発散させるのもいいんじゃないかな」


 舞桜が達樹へ視線を向けつつ言う。


「私は本来の実力を出せれば、パートナーとして認められると思うけど」

「ありがとう、舞桜」


 礼を述べつつ笑う達樹。


「ま、これ幸いとばかりに色々と騒がせてもらうよ」

「うん」


 頷く舞桜を見て、達樹自身少しだけ気が軽くなった。


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