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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第4話

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過去の一端

 達樹たちが動き出したのと同時刻、舞桜は警察を訪れ早河と会議室で向かい合っていた。目的は自身を狙った『救世主』という組織に関する情報。今日はその定期連絡の日だった。

 とはいえ、わかっていることは名前だけである以上、調査するにしてもとっかかりは非常に少なく――


「ひとまず進展はなし、といったところだな」

「そうですか」


 わかり切っていたことなので、舞桜はそれ以上何も言葉を発しない。


「君を狙っている組織、などというものが噂レベルでだって存在している話はない。正直捕まえた関石が出まかせを言っているとすら思える」

「……敵としてはこれ以上露見したら終わりなわけですし、注意を払うのは当然だと思います」

「そうだな。これからも根気よく調査に当たる……とはいえ」


 と、早河は神妙な顔つきとなる。


「情報を統合すると……『救世主』は外部から人を迎え入れ活動させている。君の学園に存在していた後援会とやらに魔法を教えたのも『救世主』の一派だろう。なぜ外部の人間を用いるのか……証拠の隠滅などが容易という点もあるはずだが、それ以上にそもそも構成員が少ないという可能性もある」

「少ない、ですか」

「名のある組織ということで私たちは大人数だと推測しがちだが……そもそも彼らが動き出したのもここ最近の話だろう。加え、最初の事件……つまり達樹君なども関わった事件について関連性は今の所見いだせない。となると『救世主』とやらはあの事件を契機にして動き出した可能性がある」

「私もそう思います」

「となると存在が確立してから時間もそれほど経っていない。これは組織というより、誰かが思いつきで行動し、組織名をつけたと考えてもよさそうな気がする」


 舞桜はその可能性は十分あると思った。組織というよりは研究者の誰かがいくらか人を集め、謀略を巡らせている――むしろその方がしっくりくる。


「最大の疑問はなぜ立栄君を狙うか、なのだが……」

「以前の事件に対する復讐、学園関係者による妬み……正直、可能性としてはいくらでも考えられます」


 頂点に立つ存在というのは、妬みや嫉みの対象になるのは仕方がない。

 だからこそ、狙われる理由について舞桜自身、深く考慮してはいなかった。


「そう、だな……」


 早河も同意するが、煮え切らない表情から察するに、それだけではないと考えているのか。


「何か、気になる事が?」

「……あくまで勘だが、そういう感情的なことが動機ではないように思える」

「では、何か他にあると?」


 早河は沈黙。これ以上追及してもどうしようもないと舞桜は感じ、話を切り上げるべく動く。


「……ひとまず、私は身辺を警戒しつつ動きます」

「うむ……とはいえ敵の動向がわからない以上、軽率な行動はしないようにだけ頼む」

「はい」


 舞桜は部屋から退出。家に帰るべく歩き出そうとする。


(いや……達樹たちの所に行ってみるか)


 日町から住所は聞いているので向かうことはできる。ならばと舞桜は方針を変更。署を出て家とは異なる方角へと歩き始めた。

 その途中、幾度となく考える――相手の目的は何なのか。


 確かに早河の言う通り怨恨とは違うような気はする。だがそうなると敵は一体何が目的で――


「結局、答えは出ないか」


 嘆息。舞桜は考えるのをやめにして、ひたすら歩くことにした。



 * * *



「……よし、それじゃあ一旦休憩にしましょうか」


 日町に言われたのは訓練開始から一時間後。この時点で達樹としては既に疲弊しきっており、改めて自分の能力の底の浅さを認識する。


「達樹の能力を解析するまで、少しばかり待ってくれ」


 そう言われ、達樹はスポーツドリンクを受け取りつつ訓練場から出る。息を整えつつドリンクを飲んでいると、横に菜々子がやって来た。


「大丈夫ですか?」

「まあ、な……ただ、自信が喪失しそうだけど」

「その、私の魔法は完全に攻撃重視ですし、舞桜だって属性的な相性が悪い場合大変だと言うくらいですから」

「……今の状況でそれだとすると、怪我する前はどれほどだったんだ?」

「力を失った後、色々研究した成果というわけです」

「なるほど」


 達樹は納得。しかし彼女の力量がどうであれ、やはり根柢の能力が圧倒的に上であることには変わりなく――


「……そういえば、菜々子」

「はい、どうしましたか?」

「舞桜がああして強くなったのは……いつ頃からなんだ? 俺は高校編入だったから、それ以前の舞桜のことは知らなくて」


 話題を振ったのは、こういう機会でなければ詳しく訊けないだろうという推測と、気を紛らわせる意味合いがあった。

 菜々子は達樹を見返し、しばし考えた後口を開く。


「舞桜が魔法に目覚めたのは……確か、中学入った直後くらいだったと思います。その時点では同年代と比べ優秀な成績を修める魔法使いの一人というだけでしたが……半年もしない内に全ての魔法使いの中でトップクラスの実力者に変わりました」

「……ちなみに、菜々子は?」

「私もほぼ同時期でしたが……実は最初、舞桜に嫉妬していた部分もありました」

「嫉妬?」

「というより、おそらく同年代かつ当時の成績上位者のほとんどは、舞桜に何かしら感情を持っていると考えていいでしょう」

「……どういうことだ?」


 達樹が質問すると、菜々子はやや間を置いてから話し出した。


「言ってみれば、舞桜は当時の魔法使いを実力でごぼう抜きしたわけです……当たり前ですがそんなことをすれば大なり小なり目立ちます。学力ならともかく、舞桜の能力は完全に実力によるものだとすれば……やっかみが生まれるのも致し方ないことかと」

「その中で、菜々子は舞桜の友人になったと?」

「はい……現在では、当時の成績上位者が舞桜を慕うケースもありますよ。実際親衛隊に所属する人だっていますし」

「へえ、そうなのか……ちなみにそれは、警察に協力するようになったためか?」

「そういう点も少なからずあるかと思います」


 どこか遠い目をする菜々子。当時のことを思い出している様子。


「舞桜もある日を境に突如力が発現したと語っていたので、こうやったら強くなった、という明確な根拠はないようですね」

「そうなのか……あ、別に舞桜のことをヒントにしようとしているわけじゃないからな?」

「わかっていますよ……と、そういえば」

「どうした?」

「達樹はなぜ光陣市に?」

「そんなに難しい理由じゃないさ。生まれ故郷の周囲で魔法が使えるから持て囃されここに来た……ただそれだけだよ」


 途端、達樹は肩をすくめる。


「結果として増幅器を使わないとどうしようもない状況に陥ったわけだけど……まあ、今の状況を考えるとあながち悪いとは言えないな」

「なるほど、確かに……達樹」

「ああ、どうした?」


 そこで菜々子は神妙な顔つきを見せた。


「今後、長い付き合いになると思いますが」

「改まって言わなくてもいいさ……それより、俺の方がきっと迷惑かけると思うし」

「そう自己評価を低くしなくても良いと思いますが」

「……その辺りについては延々と平行線になりそうだし、やめにしないか?」


 菜々子はその意見にどこか不服そうではあったが、この辺りが話の区切りに丁度いいと感じたのか、一度息を吐いてから達樹へ言った。


「さて、そろそろ訓練を再開しましょうか」

「そうだな……と、ちょっとトイレだけ済ませてくる」

「わかりました。伝えておきます」


 達樹は歩き出す。施設内はひどく静かで、達樹の足音以外には何も聞こえない。トイレに行く道中、達樹は今後の訓練が厳しくなるのを静かに覚悟し、トイレを見つけ入ろうとした。


 その直後、


「――そりゃあ俺は、どうにかできるけどさ」


 男性の声がトイレの中から聞こえてきた。


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