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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第4話

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波乱の予兆

「――事情はわかった。確かにこの実力があれば彼女と組むのは問題ないだろう」


 とある建物の一室。会議室のような広い場所で二人の男性が椅子を突き合わせて座っている。片方は早河。相手の左側に設置されたテーブルには、彼が今しがた目を通した資料が置いてある。

 警官服ではなくダークスーツを着た中年の男性であり、向かい合う早河は少なからず緊張する。


「ただし、いくつか質問はある。それについて言及しても?」

「はい」


 早河が頷くと、彼は再度資料に目を向け、


「増幅器……パートナーとなるのは増幅器使用者なのだな?」

「はい。しかし――」

「実力についてはこちらも把握している。あくまで確認だ」

「……はい。最初の事件の少し前に、事件に関与していた人物により渡された物です。ただし、その増幅器自体特殊な仕掛けが施されており――」

「それについて裏はとったのか?」

「増幅器作成者本人に確認はしています」

「わかった……警察に所属する魔法対策の部署も多くは増幅器持ちだ。これがあるからどうという話になるわけではない。だが」


 と、男性は意味深な視線を早河へ送る。


「光陣市で彼を、というのは少なからず疑問に及ぶ人間もいるだろう。経緯により彼は増幅器使用の状態で様々な事件を解決してきたという事情を説明したとしても、そういう疑問が出てくるのは仕方がない」

「それは……?」

「彼の実力を疑っているわけではない。だが、実戦経験以外にもきちんとしたデータによる裏付けがないと、納得しない人間もいるのではないか、と思っている」


 男性の言葉に早河は沈黙。言っていることは理解できるが――


「上層部の中には光陣市の魔法使いというだけで誰しも強力な魔法を使えると思っている者もいる……それほどまでに光陣市のブランドは大きいということだ。その中で光陣市における看板魔法使いのパートナーが増幅器持ちとくれば、諸所の事情があったとしても首を傾げる人間がいるということだ」

「つまり、彼に対しデータを取れと?」

「そう複雑なことをする必要はない。事件を解決した実力を持っているならば、問題なく基準値は超えるだろう。データを取るのは私のような人間を黙らせるためだ。増幅器を持っていたとしても彼には相当な実力があり、光陣市にいる普通の魔法使いとも引けを取らない――そういう証明が必要だと言いたいわけだ」

「なるほど……」


 早河は理解し、神妙に頷いた。


「わかりました。それが完了するまではパートナーとなることは……」

「正式に組むまでは我ら警察の人間が護衛することも考えよう」

「わかりました。しかし彼女が関わる事件に追随できる魔法使いは――」

「いない、ということだな? それに関しては事件が発生した時また改めて考えればいい」


 そんな悠長で大丈夫なのかと早河は思ったが、それを言及してもやんわりと「指示に従え」と言われるだけで、意味は間違いなくないだろうと確信する。


「わかりました。では、彼に事情を説明しデータ採取を」

「ああ。無論、その試験で望まれない結果となってしまった場合は、パートナーの話を考え直す必要も考えられる。それはいいな?」

「はい」


 頷く他ない。そして早河は退出し、小さく息を漏らした。


「完全に納得させることは、難しいか」


 実戦経験があり舞桜と共に戦っていたからこそ、認められると思っていた。増幅器持ちという点は確かに引っ掛かるが、実力で証明しているため問題ないと思っていた。

 けれど、実際はそう上手くいかないらしい。


「まずは立栄君に報告を行い……次は……」


 早河は頭の中で算段を立てつつ建物を出るべく歩き出す。とはいえ、すんなりとはいかない状況に早河も少しばかり不満に思う。

 まあいい――本心では納得しきれていないが、この事実をきちんと報告しなければならない。早河は息を吐き出した後ポケットから携帯電話を取り出し、舞桜に電話を掛けるべく番号検索を始めた。



 * * *



 早河がいなくなった一室。男性は一人しばし資料に目を通した後、それを脇に抱え退出しようと立ち上がる。


 その時、携帯が鳴った。


「……私だ」


 電話奥からは女性の声が聞こえてくる。それに耳を傾けながら、椅子に座り直す。


「先ほど光陣市の警察官……ああ、そうだ。早河が来た。内容は君が以前君が語っていた通りパートナーの話だ」


 女性の声。嫌なくらいに静寂が存在するこの部屋では、内容は聞き取れないが電話口の声も雑音となって部屋に響く。


「事前の話の通り試験を受けさせるように誘導した。だが、そこからは私も関知できないぞ? 試験そのものについては私の管轄外だ」


 皮肉を込めたような女性の笑い声が聞こえる。


「……私ならどうとでもなる、か? 無論最終的に強権を発動すればどうにでもなる。だが、そんなことをすれば立場的に面倒になる上、君達『救世主』のことも露見するかもしれないぞ?」


 わかっている、とでも言いたげな女性の声。そして、


「ああ、わかった。ここからは君達に任せよう……『救世主』の目的、私も楽しみにしている」


 電話を切る。そしてようやく彼は席を立った。


「さて……」


 自らがこの件についてどう動くべきなのか――頭の中で算段を行いつつ、彼はようやく会議室から出ることとなった。



 * * *



 達樹はその日――古閑が起こした騒動を解決して数週間、ようやく増幅器作成者の青井神斗と会うこととなった。

 十一月もいよいよ中旬に差し掛かろうとしている季節。達樹としては最初の事件からまだ二ヶ月も経っていないことに驚きを覚えたりする。


「なんだか青井さんと会うのも久しぶりな気がするな」


 そんなことを口にしつつ、達樹は彼の店へと入った。

 中は、前と同じように雑然としている。そして店員をやっている青井も、以前とほとんど変わっていない。


「ああ、達樹君」


 青井は達樹をにこやかに迎え入れる。対する達樹は「どうも」と返事をして、彼へと近寄った。


「事情は聞いていますか?」

「ああ、もちろん。立栄さんのパートナーになるらしいね?」

「はい」

「そして祖々江君のせいで友人達にそのことがバレたと」


 白い目で青井を見る達樹。すると彼は申し訳なさそうに頭を下げた。


「いや、申し訳ない」

「……ひとまず何事もなかったのでこれ以上何も言いませんけど……」


 そもそも秘密にしておいてくれとも言っていない――警察が何か言ったかもしれないが、確認していないのでどうとも言えない。


「えっと、その辺りについてはこれ以上何も言いませんよ……で、増幅器についてなんですけど」

「ああ、わかっているよ」


 青井は視線を達樹の四肢へと向ける。


「実を言うと、別に秘密にしていたわけじゃないんだ。いずれ話す予定であったことはここに宣言しておくよ」

「話す予定……いつのつもりだったんですか?」

「その増幅器の効果がしかと現れる段階となったら達樹君は私の店を訪れるだろうと思ってね。その段階でネタばらしをしようと思っていた」

「秘密にしていた理由とかは……?」

「変に意識されるのもまずいかなと思ったまでだよ。特別な意味はない」


 言い切る青井。なんとなく達樹は目を合わせてみる。確かに他意はなさそうな雰囲気ではある。


「……まあ、俺に不利益のあるような話でもないみたいですし、別にいいですけどね」

「達樹君としては話してもらいたかったってことだろ?」

「当然ですよ……けどまあ、増幅器を貰った人間からすると贅沢言えない気もしますけど」

「それは事件解決に協力してくれた報酬だし、もう少しワガママを言っても文句は言わないよ」


 そう言った後、青井は一度座り直した。どうやら今から本題に入るらしかった。


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