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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第3話

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隠されていた事実

 祖々江は達樹に対し笑みを浮かべ――ただ、それ以上言葉を発しない。

 やはり含みのある態度で、達樹自身やはり何かあるのだと確信した。


(その辺りの詳細については、話すつもりがあるのか、ないのか……)


 追及しても反応がないだろうと思った達樹は、気になりつつも尋ねることはなかった。

 やがて祖々江は視線を逸らし、それと同時に警察が達樹たちの所にやってくる。


「西白達樹君、話を聞きたい」

「わかりました」


 今度は自分らしい――承諾した達樹は警官と共に歩き出す。


 その時ふと他の面々がいるところを振り返ると、祖々江がなおも笑みを浮かべていた。それに一種の気味悪さを感じつつも、達樹は警察が間借りしている建物の中へと入った。

 訪れたのは、学校の教室のように机と椅子が並ぶ部屋。その中央付近に、舞桜が座っていた。その傍らには早河。


「えっと……」

「では、私はこれで」


 警官が立ち去る。達樹は多少逡巡した後、二人に近づく。


「すまないな、またも君の力を借りることとなった」


 まずは早河が言う。それに達樹は首を振り、


「えっと……俺はあまり役に立っていませんし」

「謙遜だな。結界を破った功績は紛れもなく君の力だろう」


 ――増幅器が良いからと答えようとした時、突如舞桜が口を開いた。


「達樹……これは推測なんだけれど」

「どうした?」

「直接確認を取る必要があるけれど……増幅器製作者の青井さんは、単なる増幅器を渡したわけじゃないと思うの」

「え……?」


 達樹は自身が持つ増幅器を服越しに見回す。単なる増幅器ではない――


「ただこれは、青井さんにきちんと確認する必要があるけれど……ともかく、単に力を増幅させるだけが目的のものではないということ。それについて言わなかったのは、後で訊かないといけないけど」

「……なぜ、そんな物を俺に?」

「事件の時は増幅器自体の特性が解決に役立つと考えていたからだと思う。それ以降はきっと、達樹に対するお礼なんじゃないかな」

「お礼……」


 達樹としては信じられない内容ではあるが、彼女が言うとずいぶんと信憑性があるように思える。


「――そうしたことを踏まえ、私達は上層部に一つ提案しようと思っている」


 早河が語る。それはもしや、


「君を、立栄君の正式なパートナーとする」

「……しかし」

「立栄君が語った増幅器の詳細に関することと、今回の事件での功績……それを踏まえての判断だ。加え」


 と、早河は舞桜に視線を移した。


「彼女もそれで了承している」

「え……?」

「今回の事件、明らかに私を狙ったものだった」


 舞桜は語り出す。その表情は、ずいぶんと重い。


「加え、前に塚町さんが主犯者だった事件についても関連があるように思える……共通しているのは、最終的な狙いが私だということ。加え、私を狙う存在……彼らは『救世主』という名称を持ちで動いている」

「舞桜を……で、名のある組織か」

「警察としても、私を単独で動かすというのが非常に難しいという結論になった。パートナーの件に関しては私自身渋っていたけれど、そういったことを言っていられない状況になりつつある」

「そもそも、学生として……市の人間として狙われている以上は警察が守らなければならない」


 早河が述べる。それはもっともな言葉。


「だが、彼女に仕事を依頼すること自体はやめることもできない……だから、彼女のパートナー……つまり、彼女と共に戦う人物が必要だと悟ったわけだ」

「それに、俺を?」

「無論、上層部に指示を仰ぐ必要はある。加え、場合によっては君以外の人物だって加える必要があるかもしれない。ともかくそういう事情なのだが、もし君が嫌だと言うのなら――」

「やります」


 即答だった。それに舞桜は微笑を浮かべ、


「ありがとう。達樹」

「それで、早河さん。具体的に俺は何をすれば?」

「普段から彼女の傍にいる、などという話ではないよ。彼女に警察として頼みがあれば君にも協力してもらうという形だ。たださっきも言った通り決定事項というわけではない。正式決定については待ってもらえないだろうか」

「わかりましたけど……とりあえず、普段通りの生活を?」

「仕事以外の時は学校生活を優先してもらっていいよ。いつ何時連絡が来るかわからないということでストレスが溜まるかもしれないが……何か不安なことがあったら遠慮なく私や、日町さんにでも相談してくれ」

「わかりました」


 話はそれで終わりだった。舞桜からは「よろしく」と告げられ、退出。

 達樹は教室を出て小さく息をついた。決まった――が、確定ではない。ただ、達樹の心の中では、一つの決意が宿っていた。


「やるしか、ないよな……」


 そんなことを呟き建物を出る。そこで目にしたのは、なおも会話をする優矢たちの姿。ただし、少し様子がおかしい。菜々子に何か追及しているような雰囲気。

 なんだろうかと達樹は気になりそちらへ歩み寄っていく。すると、気付いた祖々江たちが同時に視線を送り――直後、達樹はなぜか嫌な予感がした。


 根拠は何一つない。だが、ここで近づくと何か――


「いや、すまん」


 なぜか祖々江が謝罪した。すると菜々子が申し訳なさそうな表情をした後、俯いた。

 何事かと思い達樹がとうとう近づく。直後、


「話していなかったんだが」


 と、祖々江がおもむろに口を開く。


「実は俺、君に増幅器を渡した青井さんの親戚なんだ」


 ――達樹は何を言われたのか、一瞬わからなかった。

 けれど、理解した直後悟る――これはまずい。


「え……っと?」

「で、あの人から事件の話をちょっとだけ聞いたんだ。ああ、詳しい話は知らないんだけどな。で、その中であの人はポロッと西白君が関わっていることを話した。で、今笹原さんが立栄さんの知り合いとわかり、なんとなくカマをかけてみたら、見事白状した」


 俯いている菜々子は、それが原因らしい。同時に達樹は心の底から嫌な予感がした。これは――


「何やら、今回の事以外に騒動に巻き込まれたらしいな」


 と、優矢が達樹の肩を置き諭すように告げる。


「詳しくはまだ聞いていないが、大怪我までしたそうじゃないか」

「……ゆ、優矢?」

「とはいえ、だ。それをきっかけにして立栄さんと何やら交流があるらしいな。その辺り、少し話してもらえないだろうか」


 ――口ぶりから、嫉妬を始めとした妬んだ感情がないのは達樹にも理解できた。どこまで祖々江が話したのかはわからないが、とりあえず騒動にあって色々苦労したという点については説明がなされているらしい。

 だが、それでも優矢が肩に置いた手はずいぶんと力が入っている。とりあえず事情を聞かないことには離さない――そういう意図が、はっきりとわかった。


 真っ正直に話すと、さすがにまずい。とはいえ、付き合いがそれなりにある優矢は達樹の嘘なんかを割と簡単に見抜いてしまう。


「……えっと、だな」

「おお」

「その前に、ちょっと確認とらないといけないんだけど……その、警察絡みだから」

「なるほどなぁ」


 と、祖々江が突然声を上げる。


「許可がいるってことは、少なくとも立栄さんと繋がりがまだあると。でなければ、単なる思い出話で済ませられるよな?」

「え、いや」

「結界を叩き壊したくらいの功績だ。パートナーに選ばれたっておかしくないよな?」


 ――それはもしかすると、この場で一番悟られてはいけない事だったのかもしれない。

 優矢は肩から手を離さない。羽間や土岐は事の推移を見守る構えで、祖々江はどこか面白そうな表情で達樹のことを眺めている。


(……手詰まりだな)


 そんなことを思う達樹――この沈黙は、結局この場に舞桜や早河が登場するまで続くこととなった。


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