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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第3話

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彼への助言

「全身に力が入り過ぎています。もっと肩の力を抜いてください」


 土岐の提言――それに、達樹は眉をひそめた。


「肩の力を……?」

「魔力収束のやり方は間違っていません。ただ一つ捕捉すると、人が最大限に力を引き上げることのできる手段は、大きく感情を揺さぶられた時など一種の興奮状態の場合や、自然体で魔力を体の奥から一気に引っ張り出すか……西白さん自身、もしかすると前者は経験がおありかもしれません」


 確かに――舞桜と戦っていた時のあれは、紛れもなく興奮状態にあったと言える。


「ですが、それに期待するというのは難しい……というよりそれを期待している時点で、迷いがあると言っても過言ではない」

「だから難しい。よって、後者の手段を……?」

「そうです。両者は相反するやり方であり、前者を経験した人はそちらに目を向けてしまいがちになりますが……もっと、体の力を抜いてください」


 土岐はそこで苦戦する菜々子たちへ視線を送る。


「大丈夫です。みなさん、絶対に持ちこたえてくれます」

 その言葉と共に、達樹はまず自然体となった。次いで土岐と目を合わせ、さらに戦っている面々に視線を送る。

「――心配するな、達樹」


 そこで口を開いたのは、優矢。


「酷い言い方だが、そうお前に期待している奴はいないと思うぞ」

「……本当に、酷い言い草だな」


 苦笑する達樹。だが同時に、肩の荷が下りたような気がした。

 自分がやらなければという義務感に捕らわれ、確かに思うように魔力収束ができなかったかもしれない。


 期待されていない――そもそも増幅器を身に着けている以上、この場にいる誰よりも劣っているのは間違いなく、だからこそ背負うなと優矢は言いたいのだろう。


「……わかったよ」


 達樹は了承し、深呼吸。けれど余計な雑念は消えた。そして、優矢たちに背を向け結界を対峙する。背後から刺されないかと恐怖は多少生まれた。けれど菜々子たちなら食い止めてくれる――そう信じた直後、不安も消えた。

 ゆっくりと魔力を引き上げ始める。先ほど幾分消費してしまったが、それでも体の内に眠っている魔力はまだある。これを全て吐き出すつもりで、ゆっくりかつ静かに収束し始める。


 気付けば周囲の声も聞こえなくなっていた。達樹の視界は結界しか見えなくなり、さらに魔力も自分以外の存在を感じることができなくなる。

 呼吸と共に、魔力を徐々に引き上げていく。そこで達樹は目の前の結界をしっかりと見据えた。これを破壊する――ただ、これを――


 無意識の内に右の拳が握り締められた。それに呼応するように体が魔力が引き出され、それが徐々に右腕を取り巻いていく。


 その時、達樹は一つの予感を覚えた。自分は落ちこぼれであり増幅器がなければまともに魔法を使うこともできない。しかし、最初の事件でもらった今も四肢に身に着けている増幅器により立ち回れている。これはもしや、単に魔力を増幅させるだけの役割ではないのでは――

 想像してそれがなんとなく荒唐無稽に思えたのだが――少しして、その何の根拠もない推測が事実なのではないかと思えた。


 その事実が、最初の事件のような敵を倒し、また今だって結界を打ち破るべく魔力を収束できているのではないか。


(……その辺り、訊いておかないといけないかもな。ともかく――)


 今はそうだと信じ、持てる力を引き出すのみ。


 達樹は自身に眠る魔力を、あらん限り引きだそうとする。無理矢理引き出すのではなく、自然な形でそれらが上がって来るまで待ち、とうとう表層ギリギリまでやってくる。

 一呼吸。次いで達樹は拳をこれまでにない程強く握りしめ、右腕から魔力を生じさせた。


 焼けるように熱い――そう感じたのは最初だけ。次いで意識が覚醒し周辺の音も聞こえ始める。

 誰かが小さく呻く声が聞こえた。優矢や、それとも祖々江か――その辺りだと適当に解釈し、なおかつ呻く理由が苦戦しているからではなく、達樹が表に現した魔力に驚いたからだと理解する。


(――まだだ)


 ここで焦ってはいけない。あくまで現在は魔力を表に出しただけ。ここからさらに拳の先端に魔力を集め、結界を打ち砕くための鋭い武器とする。

 さすがに体の内に眠っていた魔力の多くを吸い上げたため、制御も難しい。だが、達樹はゆっくりではあるがそれをしかと制御する。


 少ししてその魔力が拳の先端に集まった。達樹はここで息を大きく吸い、全ての準備を整える。

 後方からの戦闘音が激しくなる。もしかすると達樹の一撃を警戒し、一気に決着をつけようと古閑は思ったのかもしれない。


 だが、達樹の方が早かった。


「――行くぞ」


 誰に言うわけでもなく独り言のように呟いた後、達樹は拳を振りかざし、結界へ向け撃ち込んだ――



 * * *



 舞桜が学園に到達した時、周囲は騒然となっていた。


 結界――それも一つの校舎を取り巻くような規模の大きい結界であれば当然、学生でも気付くことができる。

 とはいえ、結界は物理的に壁のような物で封鎖するタイプではなく、魔力で亜空間を構築するタイプのもので、学生達は自由に行動している様子。その中で異常に気付いた教師や、彼らの要請に従い派遣されてきたと思しき研究員が何やら大通りで作業をしていた。


 舞桜はそちらへ急行。学生達は舞桜の存在を見て声を上げたりもしたが、それを無視し教員の一人へ問い掛ける。


「すいません!」

「ん? た、立栄君か! すまない、実は――」

「用件はわかっています。状況は?」

「外から結界の破壊を試みてはいるのだが、それが上手くいっていない。亜空間形成タイプだから、結界のどこかに亀裂でも作ればそこから入り込めると思うんだが」

「わかりました」


 舞桜は頷き、手をかざす。彼らがいる正面には、確かに結界が構築されている気配が存在している。

 それが相当強固であることは舞桜にもわかる。本来こうした結界は強度自体決して高くないはずなのだが、研究員が対応に苦慮している所を見ると、相当力をつぎ込み対応しているのだとわかる。


(こういう結界に対し、外部から破壊するには……)


 亜空間を形成するタイプは、外側から破壊を試みる場合単純な魔法では通用しない。魔力を解析し、その魔力の波長に合わせて魔法を行使する必要がある。

 舞桜はそうした技能自体保有しているので対処は可能。しかし、解析する以上まだ時間が掛かる。


(けど、やるしかない……)


 舞桜は焦燥感が募るのを自覚しながら両手を結界がある場所へかざし、魔力を発する。

 とにかく、どのような波長なのかを確認しなければ始まらない。それさえクリアできれば舞桜の魔法で破壊可能なはず――だが、敵がこういう状況を想定していないはずがない。あっさりと破壊できればいいが。


 呼吸を整え、魔力を込める。周囲の人々は舞桜の動きを固唾を飲んで見守るような状況。教員たちも解析を中断するまでには至らなかったが、舞桜の行動を妨げるつもりはないらしく多少引き下がった。

 結界の位置は気配で探り、それに対し魔法を放つ――が、ここで果たして成功するのか疑問を抱く。舞桜が来ることも想定している可能性が高い。破壊不可能というレベルには至っていないと思われるが、単純に力押しだけで通用するのか――


(いや、悩んでいる暇はない。とにかく試してみないと)


 舞桜はあらゆる迷いを振り払いつつ、魔力を完全に収束。まずは一度魔法を行使してどうするか考えよう。そう決断した時だった。


 正面に存在する結界が、僅かに揺らいだ。


「っ……!?」


 教員や研究員も気付いた短い呻き声。まさか――舞桜が目を見開き魔法を放たないまま注視した直後、

 真正面に生じる結界、その空間に白い亀裂が入り始めた。


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