術者の出現
舞桜の魔法によって、騎士たちはどんどん消し飛ばされていく。しかし、断続的に出現しているようで、既に大規模な騒動となっていた。
無茶苦茶だと舞桜は思いながらも、敵がこれだけ行動を起こしたという事実に対し疑問に思う。こうまで騒動を拡大すれば、警察なども全力で調査を行うだろう。なおかつ事件の犯人と思しき人物は行方不明であるが割れている。こうなってしまえば最早逮捕は時間の問題であり、身の破滅は避けられない。
それをわかった上でやっているのだとしたら、敵は一体何が目的なのか。
(古閑という寮を爆破した方ではなく関市という人たちが行動しているとしたら、不可解だよね)
騎士を消し飛ばし、舞桜はなおも考える。自分は舞桜のパートナーだという手紙を家のポストに投函し、この所業を行っているとしたら――相手だってこんなことをすれば破滅だとわかっているはずだ。
(となると、古閑という人物が原因……? こちらは詳細もわかっていないし……)
わからないことが多すぎる。これだけの騒動に発展していながら、事件の全容を掴めていないのがなんとも歯がゆかった。
早河から連絡が入る。携帯を手に取ると、住宅街などで騎士が発生しているとのことだった。
『現在、一般人は狙われていない……どうやら魔力を保有する人間を狙っているようだ』
「わかりました。私は引き続き対応します」
『こちらも動いてはいるが……学園にも派遣した。だが、結界の解除には至っていない』
本当なら、そちらへ急行したいところだった――しかし、
「私は、引き続き周辺で対応を」
『学園に行った方がいいのではないか?』
「だからといって、こちらを放置するわけにはいきません。それに……」
『それに?』
新たに現れた騎士を見据え、舞桜は告げる。
「彼らの目的は私を学園に行かせないことでしょう……もしここを私が離れたら、敵が暴れ出すかも知れません」
携帯電話を切る。舞桜は自身が言ったことについて、間違いないと心の底から思う。
「敵の目的は間違いなく私の足止め……達樹、菜々子……」
助けに行きたいが、かといって騎士たちを放置することはできない。誘惑を振り払いつつ、目の前に出現した騎士を見据える。
虚無の魔法から炎に変化していたのは、舞桜にとって非常にありがたかった。光熱波によって騎士はあっけなく滅び、必要最小限の魔力で敵を殲滅することができた。舞桜にとって炎は自身が所持する魔法の中でトップと言っていい程使いこなしており、なおかつ非常に攻撃的。それが功を奏し、確実に数を減らしていく。
ただ問題が一つ。減らしていても騎士が再度出現すれば当然意味はない。だからこそ、出現地点を探さなければならない。
炎で騎士を撃ち抜きつつ、舞桜は走る。出現場所が一定なのか変化しているのかはわからないが、それでも魔力の濃さでどういった場所から生まれているのかはおおよその見当はついた。だから舞桜は身体強化で移動能力を向上させつつ、騎士が出現していると思しき場所へ急行する。
程なくしてその場所は見つかる――四角い陣が白く発光しており、その場所から騎士が何体も出現していた。
「こういう場所がいくつもあるということか……ともかく、あれを破壊すれば――」
そこまで呟いた時、舞桜は疑問に思った。
いつ相手は、こうした魔法陣を大地に組み込んだのか。
(普通、大地にこうした魔法を組み込む場合、時間が掛かるはずだけど……いや、もしかして時間が掛からない手法を開発したということなの?)
ともあれ、これについても解析しなければならない――だが今はできないと断じつつ、舞桜は陣を破壊するべく走った。
途端、騎士たちは舞桜の存在に気付き突撃を行う。道端で交戦した時と比べ明らかに動きが違う。構築した陣を守るべく――陣の近くにいる魔法使いを撃退するという意図がはっきりとわかるものであった。
「ふっ!」
だが、舞桜はものともしなかった。炎を放つと騎士たちは避けられず受け、一瞬にして滅ぶ。
そこへすかさず舞桜は陣へ向け魔法を撃ち込んだ。業火が陣の周辺を舞い――やがて、光が消えた。
虚無のように魔力を吸い込んだわけではない。以前塚町の計略により使われた洗脳の魔法陣と比べれば大したことはない――そのため通常の魔法により魔力を相殺し、陣の効力を打ち消すことができた。
「次は……」
まだ残っていた騎士を倒した後、舞桜はさらに気配を頼りに走り出す。同時に考える。住宅街に陣が敷いてあるという事実――この周辺は警察署と学園の間にある通り道。つまり敵は舞桜が警察にいて、菜々子や達樹が学園にいるという状況を狙って仕掛けたという可能性が高い。
(こちらの行動を読まれている……私が今回の事件を警戒して警察に行くようになった事実から、推測したのかな……)
もしかすると寮の爆破などの騒動を起こしたのは、舞桜をこのような状況にするためか――そう考えると、相手は自分に相当執着心を持っているのだと理解する。なおさら、放置しておくわけにはいかない。
「とはいえ、急がないと……!」
強化魔法を使用し、さらに速度を上げる。気付けば二つ目の魔法陣の近くに到達。周囲の騎士を見て、まずはその対処から始める。
(達樹、菜々子……無事でいて)
また同時に、祈るような心情を抱いていた――不安を抱えながら舞桜は、迫る騎士へと魔法を撃ち込んだ。
* * *
達樹たちの視界に入った人影は、パッと見白衣を着た大学生。ボサボサの黒髪に眼鏡を掛けた、地味という言葉が非常に似合いそうな男性。
だがその容姿により、どういった人物なのか達樹には明確にわかった。
「古閑七星という人物か」
「結界の中で、姿を現すとは思わなかったよ」
祖々江が相手を見据えながら呟く。達樹も、内心同意だった。
やがて男性は騎士を伴い達樹たちへと歩み出す。周囲にいた騎士たちは彼が歩むのに合わせ付き従うように動く。それはまるで、行軍のようだった。
「正直、この結界を生み出した張本人には見えませんね」
菜々子が手厳しいことを告げる。だが確かに、見た目の上では大規模な結界を生み出せるような魔法使いには見えなかった。
とはいえ、相手が出てきたことにより警戒は行う――こうして出てきた以上、策はあるだろう。だからこそ――
「ようこそ、我が結界に」
距離にして十メートルと少し。そこまで接近した男性は、胸に手を当てつつ達樹たちへと告げた。
「私の名は古閑七星……知っているだろ?」
誰もが押し黙った。達樹もそれは理解できる。
「こうやってここに来てもらったのは他でもない……君達を、少し懲らしめに来たんだ」
「どういうことよ?」
眉をひそめ聞き返す三枝。すると今度は祖々江が口を開いた。
「どれだけご執心なんだ、と言いたい」
「それについてはノーコメントとさせてもらうよ……とにかく、現状君達は捕らわれている。言っておくけどこちらには十分な余力がある。降参するなら今の内だよ?」
「さすがに、そんな安い説得に乗るわけにはいかないな」
祖々江が代表してコメント。すると古閑は肩をすくめた。
「あ、そうかい? けど、残念だが……拒否権はないよ」
騎士たちが、動く。古閑を取り巻く者。さらに達樹たちに仕掛ける者……そうした布陣が、達樹たちが沈黙を守る中で、形成された。




