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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第3話

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援護と結界

 菜々子は左右からの襲い掛かる騎士に反応はした――が、構わず魔法を撃った。達樹が来ていたためだろう。

 だからこそ達樹は、彼女を援護するべく左右の敵と交戦を開始する。同時に放たれた腕に対し、達樹はまず右にいる騎士から対応した。


 増幅器を用い、光を手先に生み出す。それを騎士へ向かってフリスビーを投げるような要領で手を振り、光を放った。

 騎士は僅かに動きを鈍らせ剣で弾く――達樹にとっては、多少ながら時間稼ぎができた。


 その間に左が迫る。右側の敵は倒せなくともよかった。あくまで同時攻撃のタイミングさえズラすことができれば――


「ふっ!」


 達樹は標的を左の騎士に切り替え、間合いを詰める。騎士はその動きに対し反応を示したが、動き出した時点で完全に出遅れ――達樹の拳は、騎士の胸部に見事直撃した。

 吹き飛ぶ騎士。同時に光となって消え失せていく様子から、出力も十分だったと達樹は認識。


 次いで右に視線を移す。騎士は達樹に目もくれず魔法を放つ菜々子に向かおうとしていた。だがそれを達樹は阻む。騎士は即座に反応し剣を見舞ったが、自動防御で剣を弾き反撃に転じる。

 達樹が放った拳は確実に騎士の反応速度を上回り、迎撃に成功。一体目と同様、消滅という結末を迎えた。


 同時、菜々子の魔法が巨人を大きくのけぞらせた。さらに彼女は業火を生み出し追撃の魔法を決める。


 巨人も接近を試みているようだが、菜々子の出力に完全に対応できていない――敵が意図して達樹たちをこの結界に入れたのだとしたら、当然彼女の戦力分析くらいはしているはずで、巨人で対抗できると確信していたわけではないだろう。おそらく巨人は囮で、本命は左右に控えていた騎士に違いなかった。


 やがて、菜々子の魔法が巨人を打ち抜く。以前事件で関わっていた重騎士と比べ動きも緩慢で、複雑な攻撃をしてくるわけでもない。達樹は制御レベルがまだまだなのだろうと適当に推測しつつ、菜々子に視線を送った。

 彼女は振り返り、達樹と目線を合わせる。


「ありがとう。助かりました」

「ああ」


 返事をした後、二人は祖々江たちがいるところへ戻ろうとする。

 だが次の瞬間、達樹は背筋に悪寒が走る。先ほど敵の存在を感知した時とはまったく違う感覚ではあったが、それがさっきと同じようなものではないかと推測する。


 左右を見回そうとして、達樹は察する――違う。


「足元だ!」


 叫んだ瞬間、菜々子も反応。突如、足元から水面にでもあがるような様子で騎士が数体せり上がってくる。

 同時、菜々子が雷撃を放った。騎士は明らかに達樹たちの足元を狙っていたようだったが、彼女の雷が直撃し、消滅。事なきを得る。


「達樹!」


 そこで優矢が叫ぶ。祖々江の結界によりどうにか対応しているが、周囲の騎士はその数を徐々に増やしている。

 それを見た菜々子は、祖々江たちに手招きした。


「こちらへ!」


 それに彼らは従い、騎士に牽制を行いつつ移動を始める。菜々子は逐一魔法を放ち騎士を潰していく。数は多いがこの時点で菜々子たちも的確に対応を始めた――相手はそれを止める術は無く、達樹たちは合流することに成功した。

 そのまま達樹たちは外へ出るべくさらに突き進む。この段階で騎士は散発的にしかかかってこず、脱出は時間の問題だと思われた。


「……ここか」


 程なくして、端へと辿り着く。試しに達樹が手を出すと、見えない壁があるかのように抵抗があって先に進むことができなかった。


「笹原さん」

「ええ」


 三枝の言葉に、菜々子は雷撃を右手に収束させる。魔力を集中した一撃。それは人差し指程の太さしかないものだったが、その細い雷撃には彼女の全力が収束している。魔法を凝縮し一点の威力を高め、結界を破壊しようというのだろう。

 彼女の魔法が、透明な壁に直撃する。雷撃が破壊するべく結界にねじり込むように収束するが――結果は、駄目だった。


「壊れない……」

「相当な強度があるということか?」


 周囲を警戒しながら祖々江が問う。


「それもある……けど、これは……」

「どうやら、敵は私達の魔力を少なからず解析しているのかもしれないわ」


 三枝が唐突に発言。それに対し、全員が視線を集中させた。


「学園内にこうして結界を張ったことに加え、先ほど笹原さんが単独行動をした時罠をかけていた……西白さんがいなければまずい展開となっていたでしょう。これは間違いなく、私達の戦力を把握し、こういう状況ならばこう動くという想定があったとみることができます」

「つまり、そういった心理的誘導を試みていることから、こちらの手の内だって調査し把握しているというわけか」


 祖々江が続く。それに三枝は頷き、


「私たちを囲い込んだこの結界も、そうした調査の産物……私達の魔力に対応して結界を構築している可能性があるのでは。向かってくる敵はこちらの攻撃に対応できていないようなので不完全な様子ですが、結界はこちらを逃さないための手法を確立している」

「となると、俺なんかじゃ無理ってことか。可能性があるのは……」


 祖々江は応援団の面々と達樹を一瞥。


「そっちに、結界を壊すことのできる可能性がある奴は?」

「こっちはこっちで火力が足りないだろうな」


 優矢が口を開いた。


「近くまで到達したことにより、土岐さんが魔力解析を行ったんだが……強度自体も相当なものらしい」

「そうですか。となると、ここはある意味袋小路とも言えますね」


 警戒の声音を三枝は呟く。言葉通り、またも騎士が近づきつつあった。

 幻影を含め、達樹たちを取り囲むように布陣をし始める。途中から戦力の小出しはまずいと思い、牽制的な意味合いを除き騎士を温存していたのかもしれない。


「俺の結界を使って攻撃を防ぐことは可能だが……出られないとなると、外の救援を待つしかない。どうする?」


 祖々江は結界を発動する用意を行いつつ問い掛ける。だが誰も答えない。達樹は彼と結界を交互に見つつ、どう動くべきなのかを思案する。

 外の救援――最大の問題は、ある程度時間が経った現在でもまだ音沙汰がないということだった。祖々江や優矢たちも、時間が経過しているにも関わらず外からの反応がないことには訝しんでいるはずだ。


(警察側が気付いていないとは思えない。これだけ大規模な結界である以上、学園がすぐに察知して連絡するはずだ)


 となると、他に考えられる可能性としては警察を動員しても結界を破壊できていないということか。


(舞桜なんかが急行していてもおかしくない状況だ……彼女や警察などによって結界を壊すことができないとなると、俺達がどうしようもないのは間違いない)


 ならば、自分たちはどうするべきなのか――考える間に騎士の包囲が狭まってくる。祖々江はそれに応じるべく結界を張る体勢を整え、また菜々子や三枝は迎撃態勢に入る。

 優矢たち応援団は祖々江たちの背後に回り、結界を背にするような状況。その中達樹は一番後ろに控え、結界と騎士を交互に見ながらなおも考える。


(菜々子でも難しいとなると……いや、菜々子たちが破壊できないように調整しているとしたら、それはあくまで菜々子たちだけに対して結界が強化されていると考えることができる。もしかすると、俺なら――)


 全力の一撃――増幅器でも全身全霊の一撃ならば最初の事件で強大な敵を倒すことができたように、可能性があるのではないか。


(分の悪い賭けではある……けど、こんな状況だ。試す価値は――)


「――おい」


 そんな風に考えた時、祖々江が声を上げた。達樹はすぐさま視線を転じ、気付く。他の面々も認識したらしく、誰もが一点を見据え動かなくなる。

 真正面、騎士たちの奥に――人影がいるのを発見した。


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