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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第3話

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再出現

「やれやれ……」


 達樹は小さく零しつつ、トイレを済ませ洗面台で手を洗う。


「優矢は結構強情だよなぁ……ま、ここで食い下がらないと接近できないと思っているからだろうけど……」


 水道の蛇口を締めた後、達樹は思案する。


 ともあれ、優矢の行動を止める必要はある。達樹としては説得できる気がまったくしないのだが、下手に関わるとまずい――まして先の事件と関わっているのなら、なおさらだ。是が非でも止めなければならない。


「どうにかして……けど、方法が浮かばないな……」


 そんなことを呟いていると、トイレに優矢がやって来た。


「お、達樹」

「ああ……優矢、どうしても食い下がる気か?」

「ん? 当然だろう」


 胸を張る優矢。それに達樹はため息をつく。


「言っておくが、ロクなことにならないと思うぞ……? それに、立栄さんに関わる事件とか、危なっかしいだろう」

「多少のリスクはつきものだろう」

「……お前」


 頭を抱える。


「達樹、嫌だったらお前は静観していていいぞ」


 優矢が一方的に告げる。


「いや、ちょっと待てよ優矢……というか、他のメンバーは了承しているのか?」

「していなかったらこんな話持ち込まないぞ」


 つまり、応援団は最初から同意の上で話を持ちかけたらしい。


「まあ達樹としては心配するのはわかるが……活動範囲はあくまで学園内に限定する。それならいいだろう?」

「……学園内? 本当か?」

「信用してもらえないのは痛いくらいわかるが、さすがに学外に出てまで活動するつもりはないさ。ま、警察も大いに関与するだろうし根本的に無理だろうが」


 まあ、それなら――などと思ったが、それであっても菜々子たちが活動しにくいだろう。とはいえ、そのことを話しても動くとは到底思えない。


「……立栄さんに迷惑かけないようにはしろよ」


 達樹としてはそう告げるのが精々であり、優矢も「わかっているさ」と返事はしたが――効果はないだろうなと達樹は思った。


(場合によっては、舞桜に報告するしかないか……)


 菜々子がおとなしくなったので、そちらの方面で攻めてもいいか――などと達樹は思いつつ、トイレを出た。同時、

 ふと、廊下の気配が硬質なものになっていることに気付いた。


「……ん?」


 思わず左右を見回す。季節的に廊下は当然冷たいのだが、それとは異なる。言わば、魔力が存在しているような、明確な違和感。

 立ち止まっていると、後方から優矢がやってくる。


「どうした? 何かあったのか?」


 優矢は問いながら課外教室に戻ろうとする――が、


「ん?」


 彼もまた声を上げ、眉をひそめた。


「何だ? 雰囲気が違うな」

「優矢も気付いたか」

「とすると達樹もか……ふむ、誰かが喧嘩でもして魔法を炸裂させたかな?」


 そんなことを呟きつつ優矢は歩む。達樹は追随しつつ、嫌な予感を覚えた。


(もし……いや、こんなところでさすがに襲撃なんてありえないだろ)


 罠をかけた時のように、何か仕込まれたのでは――と達樹は最初思ったが、さすがに学校内でという考えはあった。

 だから優矢と同様教室に残っている面々が何か起こしたのかと考え、どのように仲裁しようかと考えたくらいだった。


 だが次の瞬間――背後からの気配を察し、優矢が先んじて振り向き、


「……何?」


 声と同時に達樹も振り返る。


 そこには、黒い騎士がいた。

 見覚えがある――当然だった。それは、舞桜と共に戦うことになり、なおかつ達樹が仕掛けた時に遭遇した、あの騎士そのもの。


「……な」


 達樹は呻く。


 優矢は先ほど、おそらくどういった存在なのか判然としなかったがために声を上げたのだろう。だが達樹は違う。目の前の存在がどういったものなのか――それを理解し、信じられなかったからこそ、声を出した。


(なぜ……こいつが――)


 心の中で呟いたのと同時に、優矢が声を上げる。


「おい、こいつは何だ? いつのまにこんな所にいる?」


 疑問が口をついて出た時、今度は別方向から階段を駆け上がる音が聞こえた。


「おい、建物全体に結界が張られているぞ! そのおかげで俺達は出られない――」


 祖々江だった。その横には三枝もいる。

 彼は達樹たちを見かけて声を上げたのだろう。だが次の瞬間黒い騎士を視界に映し、


「……こいつは!?」


 祖々江が声を上げると、騎士が一歩達樹たちに歩み寄る。それに全員が警戒し、それと共に達樹は一つの推測を行った。


 先日の事件と、今回の事件は繋がっている可能性がある――しかし、達樹が遭遇したあの研究者暴走の事件もまた、関連があるのではないか。

 あの事件の首謀者は捕まったはずだった。その残党という可能性もゼロではなかったが、違うのではないかと達樹は推測する。あの事件を契機にして、そしてあの事件での技術を利用し、何か事を成そうとしている。


 そしてその目的は、間違いなく舞桜。


(舞桜をどうにかしようとする一派が、あの最初の事件をきっかけにして動き出している……ということか!?)


 驚愕の中で達樹はそう推測した。そして今、その目標すらも大きく変わろうとしているのではないか。

 当然、この場に騎士がいるということは、狙いがこの中にいるということ。舞桜がいないことは相手も理解しているだろう。となれば、標的は舞桜に近しい人になっているということだ。


(まずい……これは、早く合流して抜け出さないと!)


 祖々江の言葉によれば、既に罠にとりこまれている。ここから脱出しなければならない。

 全員が黒い騎士を見て動けない中達樹は一人思考する。そして、目の前の相手を倒すべく、一人足を前に踏み出した――



 * * *



「さて、そろそろ動き出す頃かしら」


 女性は研究室で一人呟く。椅子に座り、その手には数枚の資料が握られていた。


「しかし、ここまで強引に事を進めようとするとは……よほどあの人は、立栄舞桜に興味津々のようねぇ」


 そう呟いた彼女は、資料を頭上に掲げた。


「……燃えよ」


 一言。それによって手から炎が一瞬だけ現れ、資料は灰となって消えた。


「さて、立栄さんはどう動くのかしら……ま、動いた時点で既に間に合わないと思うけれど」


 今回採用した人形について思い出しつつ、彼女は呟く。

 彼女自身があの技術を開発したわけでもないし、なおかつあの研究に加担していたわけでもない。


 だが、利用することはいくらでもできる。


「ふふ……立栄さん。今度はどう動くのかしら?」


 誰もいない一室で、彼女は告げる。


「あなたが巻き込まないように頑張ろうとしているのは認めるわ……けど、あなたは一つ大きな過ちを犯している」


 背もたれに体を預ける。


「あなたが真の孤独でもない限り、私達はあなたを……そしてあなたの知り合いを狙い続ける。さて、どこまで耐えられるかしら?」


 ほくそ笑む彼女。そこにはほんの僅かだが、確実に狂気が宿っていた。


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