敵への疑問
優矢の発言に、一番最初に反応したのは祖々江。
「ちょっと待て、それは――」
「おっと、ここじゃ話せない。言っておくが駆け引きしているわけじゃない。ここだと噂を流している奴が聞いている可能性もあるからな」
――そうは言うが、不敵な笑みを浮かべる優矢が本心からそう思っていないと友人をやっている達樹は直感する。
おそらくだが、もったいぶらせて調査に参加しようという魂胆だろう。
「その情報の確度は?」
三枝が問う。それに優矢は肩をすくめ、
「それなりに根拠はあるさ」
だから、話を聞かないか――優矢はそう顔で語っている。
正直、こうやって交渉しようとする優矢を達樹としては止めるべきだと思った。だが今ここで横槍を入れても、目の前の友人が納得するとは思えない。
ただ、情報が本当に正しいものなのか――菜々子たちとしては気になるところだろう。どうなるか――
「……話だけでも、聞きましょうか」
三枝が提案。祖々江や菜々子は反応しないが、彼女の言葉に同意するような雰囲気。
「そうか。なら、今日の放課後話すということでいいか?」
「放課後?」
「ああ。今日は応援団の会議を行う日だからな……適当な教室を借りてその辺のことを議題に上げるつもりだったんだ」
なし崩しに会議に参加させるつもりらしい――優矢の意図がどういう所にあるのか達樹としては疑問だったが、三枝や祖々江はあまり良い顔をしない。
「……それ、参加しないとダメなのか?」
祖々江が質問。それに優矢は「もちろん」と答える。
「というか、実を言うと詳細を知っているのは別の団員なんだが」
「……しょうがないな。こっちも手詰まりという面もあるし、話くらいは聞こうじゃないか」
「そうね」
三枝も同意。達樹は菜々子に視線を向けると、小さく頷くのを目に留めた。
「よし、決まりだな」
指を慣らし優矢は満足げに呟く。彼としては相当な成果、といったところか。
その後菜々子たちはその場を去り、料理が来る。食事を始めた段階で、達樹は質問を行う。
「……何で、あの二人を応援団の会議に?」
「いや、ここであの二人と接触するのもいいかなと……立栄さんに近づく可能性が上がると思うからな」
そう深い意味があったわけではないようだ――達樹は「そうか」とだけ返し、日替わり定食に箸をつける。
程なくして食事を終えた達樹は、優矢とその後雑談に興じた後席を立った。達樹自身色々と調べる気は無かったのだが、考えるくらいはいいだろうと思い歩きながら思考する。
「問題は、相手の目的が何であるかだよな……」
舞桜に干渉するにしても、やり方が無茶苦茶だった。そもそも舞桜に付きまとっている人物がいるという噂を流し罠を仕掛けるというのは、どういう意味を持っているのか。
そして、今回は達樹が遭遇した事件とは別に舞桜に関わる一件もある。それらが繋がっているという確証はないが、何者かが裏で手を引いている者が色々謀略を巡らせているという風に達樹は感じた。
「何だか、尻尾がつかめなくてもやもやするなあ」
ボヤきつつ、達樹は空を見上げる。冬に迫ろうとする季節の空はひどく澄んでおり、なんとなくずっと見ていたくなる。
達樹は少しの間首を上げていたが――思い直すと、次の教室へと歩き出す。ひとまず会議に参加して、情報内容によっては舞桜に連絡しよう――そう決意し、達樹は教室に向かった。
放課後、達樹は優矢の案内により課外授業用の教室に入る。
そこには既に応援団メンバーである羽間と土岐の姿。少しすると菜々子たちも登場し、机を向かい合うようにして、着席。
席としては、羽間、優矢、土岐が並び、対面するように達樹、菜々子、三枝、祖々江が座る。
「さて、それじゃあ早速本題に入るとしようか……羽間」
「了解」
羽間は応じると、祖々江たちに言い聞かせるように説明を開始した。
「噂の出所については……まず、噂が発生し始めたのは数日前……とはいっても、元々そういう話があったりなかったりはしていたので、ここ数日でそれがずいぶんと強調され始めた、といったところか」
「数日、というのは根拠があるのか?」
祖々江が問い掛ける。すると羽間は深く頷いた。
「数日前に、不良グループと警察が騒動になった。それが全て解決した直後にこの噂が強調され始めた……実はその事件に立栄さんも関わっていたらしく、俺としては何か因果関係があるのでは、と思っている」
――達樹としては、重要な部分だった。
噂の発生時期を踏まえると、というあくまで推測の話ではあったが、もし関連しているとなると、前の事件と首謀者が同じ、などという可能性も十分あるのではないか。
(いや、立て続けにこうし騒動が生じている以上、関連していると断定して行動した方がいいのか?)
達樹は前の事件を振り返る。後援会の面々が何者かと共謀し魔法によって舞桜をはめようとした。加え、塚町という親衛隊所属の人間も、土地に干渉する魔法を保有していた上、何者かの協力が見え隠れしていた。
そこで、はたと気付く。前の事件では、舞桜を積極的に狙って行動していた。だが、今回は――
(ストーカー云々の噂は、もし舞桜本人が聞いたとしても、捨て置くか警察に一応相談するかのどっちかだろうな……噂を流して動くのは、間違いなく菜々子か、舞桜の取り巻きか……となると、狙いを変えたのか?)
舞桜本人ではなく、周囲から――という推測。
(敵は、無差別に舞桜の知り合いを誘い込んだのか?)
達樹はさらに疑問を頭の中で呟く。噂によって三枝と祖々江。そして菜々子の三人が寮に赴いた。そうした人物達が来ると予測した上で罠を仕掛けたのか、それとも舞桜に関わりのある人物を誰でもいいから罠にかけようとしたのか。
もし前者ならば、その狙いは――達樹はふいに菜々子に目を移した。彼女と舞桜の関係背が知られているかどうかはわからない――いや、後援会から活動していたことを考えると、友人であることだって知られているかもしれない。
(もしかして、菜々子を誘い出すため……?)
あり得ない話ではないと達樹は思った。もしそうならば、本当に守るべきなのは舞桜ではなく――
「……その事件と関わりがあるという可能性については、わかった」
祖々江が口を開く。彼は優矢と視線を合わせつつ、続ける。
「だが、それだけでは噂の出どころはわからないな」
「それなりに推測できるんじゃないか? 立栄さんが関わった前の事件は、結構な大事だった。加え、警察が動いたとあらば学生同士の小競り合いなんてレベルじゃ収まらないだろ……となれば」
「そういうことですか」
理解したのか、三枝が語り出す。
「噂は学生が流したのではなく、教員、もしくは学園と関わりのある研究者と言いたいわけですね」
「そういうことだ」
「……その辺りのことは考慮に入れて活動はしています。とはいえ、そこまで手を広げることは現状できていない」
「手伝おうか?」
「……ずいぶんと、首を突っ込みたがるのですね」
「まあね」
ここが正念場だとでも思っているのかもしれない。達樹としてはため息をつく以外の選択肢はない。
その後、優矢は三枝や菜々子へ事件に関する協力を持ち掛ける。しかし菜々子たちは警察と繋がりがある以上、深入りさせるわけにはいかない。
よって話は平行線――それからしばし押し問答が続き、一度休憩を入れようということになった。




