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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第3話

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複雑な情勢

 寮の外で警察が動く様を見ながら、達樹は一人深いため息をつく。


「結局、事件になったなぁ……」


 しかも受け身とはいえ自ら足を突っ込んだ形。これは舞桜に怒られるかもしれないと思いつつ、達樹は視線を正面玄関に移す。


 状況は、混沌としていた。爆発により寮にいた面々は外へ避難し、警察が他に爆発物がないかを調べている。その状況下で祖々江と三枝が憮然とした表情で寮を見上げたり、たった四人しかいない光陣学園の生徒――つまり達樹や菜々子を含む――を見たりしている。


「……結局、関わったんですね」


 そうした中菜々子は達樹に近づき問い掛ける。祖々江たちにとっては応援団同士の会話という認識をするだろうし、違和感を抱くことはないだろう。


「いや、祖々江さんが事を起こす気だったみたいだから、少し傍にいて様子を見た方がいいんじゃないかと思ってさ」

「なるほど、それで結果はこれと」

「……そういう菜々子だって、ここに来たじゃないか」


 トーンと落とし言葉を紡ぐと、菜々子は渋い顔をした。


「し、仕方ないじゃないですか……噂を聞きつけた以上」

「もし一人だったら、危なかったかもな」

「いえ、私一人でも大丈夫でした」

「……まったく」


 強情さに達樹は困った表情を見せつつ、先ほどの部屋の光景を思い出す。


 古閑という名前と、ピエロの仮面。そして学園内に存在していた噂は、明らかにここに誘い出すための餌だった。しかし、何のためにそんなことをしたのか達樹には疑問が残った。


(ストーカー云々の話が本当だとすると、彼女に近づく人間を抹殺しようとした? 穏やかじゃないな)


 祖々江や三枝の行動所の話ではない。真っ先にこの事件の主犯を見つけるべきだった。


「先ほど、警察の会話を聞いたのですが」


 と、菜々子は達樹へ口を開く。


「部屋に魔法を仕掛けた人物……古閑という名前だそうですが、普段の研究室にいないとのことです」

「逃げたのか?」

「わかりませんが……」


 話がさらに複雑になっているのは間違いない。達樹が再度ため息をついた時、寮の外から警官が出てきて寮の管理人と話を始めた。


(舞桜、来るんだろうか……)


 なんとなく思ってみるが、彼女に関する案件。下手に本人が顔を出すのも――などと思っていると、さらにパトカーが到着した。


「あ……」


 そこで菜々子が声を上げた。理由は達樹にもすぐにわかった。早河の到着だ。


「ご苦労」


 近くの警官に告げると、視線を巡らせ――まずは祖々江や三枝に目を付けた。


「二人」


 早河は近寄りながら声を掛ける。達樹は多少なりとも気に掛かりそちらへ歩いていく。


「すまない、申し訳ないが署の方で事情を聞かせてもらってもいいか?」

「……はい、構いませんよ」


 祖々江はあっさりと了承。対する三枝はなんだか複雑な表情をしている。


(……舞桜と顔を合わせるのが嫌なのかもしれないな)


 咎められる、とでも思っているのだろう。だとしたらこんなことをやらなければいいのになどと達樹は思ったりもするが、口には出さないでおく。


「わかった。では署の方へ」


 と、次に達樹や菜々子へ目を向けるが――沈黙。


 同じ学生がいることで早河も対応に困っているのだと達樹は確信する。舞桜から口止めされているのは間違いなく、だからこそどう切り出せばいいのか――


「ああ、そっか。混乱するでしょうね」


 そこで口を開いたのは、祖々江だった。


「混乱?」


 聞き返したのは三枝。それに祖々江は笑い、


「二人はこの事件前に警察に厄介になっていたようだから」

「……あなた達」

「それは、言いっこなしにしよう」


 すると今度は早河は声を上げた。


「君達の間にも何かあるみたいだが……私達としては一刻も早く情報が欲しい」

「……そうですね」


 三枝も早河の言葉を聞いて矛を収める。達樹は後が怖いと思ったが、ひとまずこの場はどうにかなりそうだった。


「では、そこの二人も署へ同行願おう」


 祖々江の言葉によりひとまず舞桜との関係が露見することもなく、早河は話をまとめ達樹たちは頷いた。

 そこからパトカーに乗り、署へと出発。達樹と菜々子は祖々江たちとは違うパトカーに乗り、なおかつ早河が助手席に座る。


「……君たちのことは、話すべきではないのだな?」


 発進直後確認するように早河が問う。それに達樹がいち早く頷き、


「はい……余計な混乱をもたらすことになると思うので」

「わかった……しかし、君も大変だな」


 達樹に対し言及――だが達樹自身どういう意図で言われたものなのかわからず、首を傾げるだけ。

 早河はそれについて言及はせず、代わりに別の事を口に出す。


「爆破した犯人についてだが、現在捜索中だ。本人が普段いる場所にいないことから考えるに、事前に罠を張り姿をくらましたと考えるべきだろう」

「その人物が、ストーカーだと?」


 達樹が問うと――早河が、微妙な顔をした。

 何か複雑な感情が乗っている。ただ顔つきに反し彼は「そうかもしれない」とだけ答え、それ以上の言及は控えた。


(……何だ?)


 達樹は訝しんだが質問はせず、以降はただパトカーに揺られるだけとなる。


 やがて署に辿り着こうとした時、今度は菜々子が小さく息をつき早河へ質問した。


「この事件……舞桜も関わっているのですか?」


 彼女の問い掛けに早河は何も答えない。達樹としては無視されたのかと一瞬思ったが――後部座席から見える彼の表情が、やや険しいものだと認識する。


(何かあるのか?)


 胸中で考えてみるが、そもそも爆破事件なんて起こった時点で厄介なことは生じている。だが彼の険しい表情はそれとはどこか異なっている気がした。言ってみればそれは、抱えている問題に加えさらなる難題が現れたような気配――


 そう思ったと同時に署に到着。達樹と菜々子が下りるのに合わせて、祖々江たちも別のパトカーから出現した。


「いや、まさかこういう形で世話になるとは思わなかったな」


 呑気な祖々江のコメントに対し、三枝はどこか憮然とした表情。どこか彼を咎めるような雰囲気もあったが、やはり舞桜のことを懸念している様子。

 もし舞桜と出会ったならば、どう説明しようか悩んでいるといったところだろう。菜々子も似たような表情で、明るい顔つきなのは祖々江のみ。


 達樹としてはここまで来た以上自分がどうにかできるレベルは超えている。よって、最終責任者である舞桜に託すしかないと思った。


「全員、中に入ってくれ」


 早河の指示と共に、達樹たちは署へと歩む。その時、達樹はふと予感がした。

 というより、こんな事態になった以上その予感は確信めいたものだ。


(絶対、舞桜はいるよな……)


 どう反応されるのか――などと思ったわけだが、祖々江などもいるため雷なんかが落ちるようなことはないだろうと思ったのだが、


「ああ、それと一つ言っておくことがある」


 早河が歩を進める中で、達樹たちに口を開く。


「先んじて立栄君には署に来てもらっている……ついては、自分にも関わりがある以上、色々と話が聞きたいらしい」


 やはり――達樹が内心そんな風に呟いた時、今度は予想外の言葉がやってきた。


「で、それについてなんだが……彼女は全員一度に聞くと混乱するだろうから、一人ずつじっくりと話をしたいらしい。立栄君の指示で一人ずつ呼ぶから、それまでは署内で待つようにお願いしたい」


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