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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第3話

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噂の相手

「それじゃあ、俺がノックするぞ」


 祖々江が言い、ドアをノックする。反応は何もない。彼はもう一度ノックすると、中から「開けて入ってくれ」と声が聞こえた。


「……ずいぶんとものぐさな人物だな」


 祖々江は感想を漏らしつつドアノブを捻る。鍵は掛かっておらず、扉がゆっくりと開いた。

 達樹は覗き込むようにして中を見る。個室でベッドが一つ。資料らしき紙が散乱している一室であり、その中に一人、白衣姿の人物が扉を背にしてうずくまり、何か作業をしていた。


 床の上でカチャカチャと音を立て一心不乱に作業をする姿は、確かに研究者という言葉が似合うものではあったが――正直、見ていて気持ちの良いものではない。


「古閑さん、ですよね?」


 祖々江が確認のために問い掛ける。相手は作業する手をまったく止めず、


「悪いが、新聞はとらないぞ」


 振り返らずそう言った。冗談なのか、真面目に言っているのか――


 彼は訪ねてきた相手に一切興味がないのか、一瞥もせずに作業を行っている。達樹としては戸惑う他なく、それは祖々江も同じようで困った表情を見せる。

 対する三枝は大きく肩をすくめた。表情もどこか困惑していて、達樹としては二人がどう考えているのか大体想像できた。


 ――とても、ストーカーをやるような人物には見えない。さらに言えば部屋だって舞桜に執心だという様相は何一つない。

 もしかして、やはり噂は噂なのか――達樹がそんな風に考えた時、


「おい……どうする?」


 小声で祖々江が達樹たちへ問い掛けた。それに反応したのは三枝。


「正直、予想外もいいところね。魔力も感じられないし、罠の気配もなさそう。正直このまま引き下がってもいいような気だって――」


 彼女は後姿の男性を見据える。相変わらず何かしら作業をしていて、一瞥すら示さない。


「……やれやれ」


 祖々江は呟くと同時に嘆息。次に達樹へ視線を送り、


「どう思う?」

「……さあ、ね」


 達樹は白衣姿を見据えながら言葉を漏らす。ストーカー云々のことがないにしても、扉を開けられ聞き慣れない人間の声を聞いても作業に没頭する姿は、無警戒も甚だしい。


 あるいは、こちらを油断させる何かなのか――などと達樹は思ったりもしたが、白衣の男性から魔法使い的な要素は見いだせない。正直見た目だけで言えば、研究一辺倒で戦闘能力は無いように見える。


 とはいえ、こういう人物だからといって噂があくまで噂でしかない、という証明にならないのもまた事実。


「……俺は、二人が納得すればいいんじゃないかと思うけど」


 男性を見ながら達樹は口を開く。ここで「帰ろう」などと提案しても両者は渋るだろう。だから事の推移を見守るような言葉を放つ。


 すると、祖々江が息を漏らし、


「とりあえず、顔くらいは確認しておくか」


 呟くと、ゆっくりと首を動かし男性に注目。三枝も同じように注視し――祖々江は、一歩部屋の中に入った。

 三枝は罠が無いと言ったが、それでも祖々江は行動し始めた時点で警戒は行うことにした様子。さらに白衣の男性を刺激しないようにそろりと近づき、小さく声を掛ける。


「――あの」


 瞬間、相手が振り返った。唐突な行動に達樹は多少驚きは下が、大した感情もなくどんな人相なのかを確認するべく視線を移し、


 その顔にピエロの仮面が張り付いているのを見た時、ゾクリと背筋に冷たいものが走った。


「な――」


 達樹が呻いた直後、白衣の人間が突如――発光した。


 まずいと直感した達樹は、ほぼ条件反射で隣にいた三枝の肩を引っ掴み、体を傾けながら扉から逃れるように倒れ込んだ。

 刹那、光が廊下まで満たした直後爆音と衝撃が生じた。達樹は顔をしかめながら三枝を庇うようにして伏せ、粉塵が部屋の外に現れるのを確認する。


「っ……!」


 耳がキーンとなり一時的に何も聞こえなくなる。さらに爆風と粉塵が達樹の体にも当たり、さらに呻き声を発する。

 音は寮内に反響し、さらに重たい鉄の音が響いた。煙で見えない状況でも、爆発により部屋の扉が外れ床に倒れた音か何かだろうと想像がついた。


(罠……そしてこの後どうなる――!?)


 場合によっては何か敵が――などと思った時、突如三枝から押し退けられた。

 視線を向けると、怒った表情を見せる彼女。慌てて達樹は体をどけ、彼女が立ち上がる。


 さらに口は何事か喋っている。けれど爆音によって耳が一時的に麻痺してしまい、達樹にはまったく聞き取れない。それでもなんだか怒っているのがわかったので、小さく頭を下げ謝罪の意を示した。


 そこに至り、ようやく廊下の煙が晴れてくる。先ほどの男性が何か別に生み出していないかと危惧したが――何もなく、廊下を見回せば別の部屋から寮生が飛び出している姿を捉えた。何事か叫んでいるようだが、やはり聞こえない――いや、そこでようやく回復してきたらしく、


「な、何が起こった――!?」


 そうした声が聞こえてきた。達樹としては首を傾げる他なく、横にいる三枝も憮然とした表情だった。

 やがて、音を聞きつけ他の階の寮生や、管理する人が現れる。大事になったと達樹は思いつつ――そこで、はたと気づいた。


 部屋を見る。まだ部屋の中には煙が渦巻いており、視界はまったく効かない。

 その状況下で、祖々江の姿を確認することができない。


(だ、大丈夫なのか――!?)


 達樹は思わず部屋に呼び掛けようとした――その時、部屋の中から祖々江が姿を現した。

 衣服は埃だらけではあったが、出血などの外傷はなさそうだった。あの一瞬で結界を構築して爆発を完全に防ぎ切ったようだ。埃については、舞い上がった粉塵によって付着したものだろう。


 彼は息を吐き、なおかつ忌々しげに衣服についた埃を手で払い始める。


「まったく……」


 愚痴を零すような雰囲気。そこでようやく、達樹は彼に確認を入れる。


「祖々江さん、怪我は?」

「ああ、どうにか大丈夫だよ」


 言いつつ、彼は吐き捨てるように呟く。


「くそっ……よりによって罠を張っていたのかよ」

「無事で良かったではありませんか」


 悪態をつく祖々江に対し、三枝が冷ややかな反応を示す。


「しかし、どうやら噂を立てて私達のような人物を誘い込んでいたようですね」

「の、ようだな……しかし、そっちはずいぶんな身分だな」

「何がですか?」

「俺はきちんと見ていたぞ。西白君に庇われていたじゃないか」

「あんなものがなくとも、私は無事でした」

「いやいや、そうじゃないよ。例えそうであったとしても、礼の一つくらいはしないと、親衛隊として礼儀がなっていないんじゃないのか?」


(いや、俺は別に――)


 内心そう思いはしたが達樹は声に出せなかった。何か言うと、根拠はないが睨まれる気がしたのだ。


 指摘に対し、三枝は達樹へ視線を向ける。


「……ありがとうございました」


 感情が一切存在しない言葉。これほど何も感じない礼はそうそうないだろうなどと達樹が思っていると、


「なんだか、礼を言うのが嫌そうな感じだな」

「……何か?」


 睨みあう二人。こんな状況でも視線で火花を散らす両者。達樹は慌てて両者を止めようと声を上げようとし、


 ふと、視線の先――見覚えのある人物を目に入れた。


「え……?」


 口が止まる。その視線の先――同じ制服姿の人物。

 相手も見返し、驚いた様子。おそらく自分達と同じような理由でこの寮に侵入したのだろう。


 祖々江と三枝も気付き、視線を移す。そして、


「応援団の中には、西白君とは違い噂を聞きつけた人もいたんだな」


 祖々江が漏らす――その人物は、菜々子だった。


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