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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第3話

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集う者達

 達樹が祖々江から聞いた内容は舞桜に対するストーカーの件――それはお前じゃないのかと達樹は言いたくなったのだが、祖々江は問われる前に否定した。


「いや、そういうレベルじゃない。どうやら、彼女のことを密かに調べ、色々と事を起こそうなどという考えを持っているらしい」

「……そっちだってそうだろ?」

「いやいや、俺は事を起こすなんて真似はしないさ」


 あくまでそう主張する祖々江。達樹はなおも突っかかろうとしたが、話が進まないので一度矛を収め、別のことを訊いた。


「……何でそこまで正確な情報を持っているんだ?」


 質問に、彼は肩をすくめた。


「俺は成績がいいためか、色々と研究している建物に出入りすることができるし、魔法の実験に協力してくれと言われることがある。で、その中で立栄さんのことに対し狂信的になっている人物がいるらしいという話を、研究員から聞いた」

「研究者……」


 またか、と達樹は内心思う。連続で関わった二つの事件――片方は研究者が主犯で、もう片方は裏で暗躍している雰囲気があった。そして今回の件。この場合は、主犯者ということだろうか。


「まあ、俺以外にもそういう話を知っている人間が学園内にいるみたいだから、噂として流れているのは間違いない。それだけ立栄さんについて皆も関心を持っているということだな。君もそうなんじゃないのか?」

「そう、なのかな……」

「何だ、応援団所属なのにあまり反応が無いな」


 達樹は何も答えなかった。確かに青薔薇応援団などというものに所属していれば、大なり小なり反応があってもおかしくない場面だとは思う。

 しかし――達樹は自身が舞桜と関わっているがために、興味がないのだと思った。加え、達樹自身まだ心の内で関わってはいけないのではという感情も少なからず、ある。


「……まあ、スタンスの違いだと思う」

「そうか」


 彼はそれ以上尋ねることはせず、代わりに達樹が問い掛ける。


「で、今はどこに向かっているんだ?」


 問い掛けに――祖々江は笑った。


 現在、達樹たちは学園を出ていた。授業があったのだが流れでサボることになり、達樹はもう少し自重すべきだなと心の中で思ったりもしたが、足は止まらなかった。

 方角的には繁華街へと向かっているのだが、彼の答えは別の場所だった。


「繁華街を掠めるようにして道沿いに進むと、とある研究者の寮が見えてくる」

「え?」

「そいつは基本泊まり込みで研究所にいる人間なんだが……今日のこの時間だけは、寮に戻っているらしい」

「まさか……寮に入るのか?」

「心配ないさ。あくまでどういう人物なのかを見に行くだけだ。まだ相手は立栄さんにアプローチしているわけじゃないし、実害が出ていない以上、彼を懲らしめる理由もない。あくまで様子見」


 達樹の言葉にそう語る祖々江。ただ寮に入るということで、なんとなく止めるべきではと思い――声を出そうとしたその時、


「ん……?」


 ふいに、祖々江が呟いた。何事かと思っているとその視線の先には、同じ学園の制服を着た女性が。

 その後姿に見覚えがあったため、達樹は思わず声を上げそうになり、


「ほら、俺達と同様にそこへ向かおうとしている人物がいる」

「いや……繁華街へ向かっている可能性の方が高いんじゃ?」

「真面目な彼女が授業サボってそんなことするはずないだろ? となれば、俺達と同じように噂を聞きつけて向かっているに決まっているじゃないか」

「いや、それは――」


 断定に達樹は言い返そうとした時、声に気付いたか相手が振り返り、


「……奇遇ですね」


 警戒する声。その人物は――三枝だった。


「そっちも噂で寮へ向かっているんだろ?」


 問い掛けに、彼女は眉をしかめる。


「なるほど……お二人もそのつもりですか」

「いや、俺らの場合はあくまで様子見。あんたはそれこそ殴り込みに行きそうだが、証拠もないし今はまだやめといた方がいいと思うぜ?」

「……そちらの方は?」

「応援団の人」


 簡潔な説明に、三枝の視線が達樹へ注がれる。


「……ふむ、見た目それほど技量を持っているわけではなさそうですが」

「ま、色々理由があるんだよ」


 それだけだった。三枝は言葉を切られてしまいさらに訝しげな視線を向けていたが――やがて、


「ま、いいわ……邪魔するなら、容赦しないので」

「それはこっちのセリフ」


 祖々江の言葉に三枝は明らかに不快な様子を示した後、移動を再開する。

 達樹と祖々江はそれに追随。なんだか微妙な空気の中で、達樹は二人についてどうするか思案する。


(さすがに二人が暴走した日には、手に負えないよな……かといって、放っておくのもまずそうだ)


 達樹はふと、以前菜々子が暴走したことを思い出す。もし自身が近くにいたとしても、あんな風に傍観するのがオチだろう――だが、今回の場合は舞桜の友人ではない。

 なので、二人が舞桜に対しどういう態度なのかを確認するためには、少し観察する必要はあると思った。


 そんな時、ふいに祖々江と目が合う。どこか含みある視線に、達樹は無言で肩をすくめた。

 やはり舞桜との関係に気付いているのか――単にカマをかけているという可能性も否定できなかったが、ここも探るべきだと胸中思う。


(ただ、俺にそんなことができるのかが問題だけど……)


「見えたぞ」


 思考する間に祖々江が言う。達樹が目を正面に移すと、寮らしき白い建物が。


「俺達は全員学生服を着ているが……課外授業の一環で人に会いに来たと言えば入れるだろ」

「寮自体は、普通のようですしね」


 三枝が反応。途端、両者は視線を交錯させる。


「……あなた、立栄さんに近づいて何をする気ですか?」

「ん? そんなこと聞いてどうするんだ?」

「ここまで深入りしようとする以上、何か考えがあるのでしょう?」

「そういうあんたも、親衛隊の活動を逸脱しているようだが、何かあったのか?」


 双方にらみあう。噂の真相を確かめるよりもまずこっちが問題だと達樹は心の中で思ったりもしたのだが――

 険悪な状況の中で、達樹たちは寮の前に辿り着いた。達樹が暮らす寮と比べると敷地はやや小さめだったが、五階建てで結構立派な佇まい。


「さて、行こうか」

「仕切らないでください」


 祖々江の言葉に三枝は文句を言いつつ、一行は進む。寮に入ると祖々江が管理者に対応。相手は課外授業だと信じて疑わないらしく、「ご苦労さん」と声を掛けた。


 結果、あっさりと達樹たちは寮内に侵入。


「さて、こっから該当の名前を探すぞ」


 相変わらず祖々江が先導し、一行は歩みを進める。寮の中は閑散としており、人の気配は皆無に近い。


(平日の昼間というのが幸いしたか)


 ここに住む人間の大半は研究室のはずで――だからこそ、余計な混乱に至らない今の状況が良かったと達樹は感じた。

 そうこうする内に、三人は階段を上り、廊下を多少進んだ所で祖々江が立ち止まる。


「ここだな。噂の名前と一致する」


 祖々江の言葉に達樹はネームプレートを確認。そこには『古閑(こが)七星(ななせ)』という名前が刻まれていた。


「……ここに来て、どうするんだ?」


 達樹が質問をすると、答えたのは三枝。


「決まっています。二度と立栄様を困らせないように――」

「おいおい……」

「と、言いたいところですが祖々江さんが仰る通り物的な証拠もありませんし、今回は口惜しいですがどんな方なのかを確認するだけで良いでしょう」

「そうだな」


 祖々江が応じる。しかし彼女の話に続きがあった。


「ただ、もしおかしな行動をしたら――」


 と、眼光を鋭くする。達樹は内心恐怖する。


 早まったことはしないでくれ――と達樹は祈るように考えつつも、二人の行動を見守ることにした。


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