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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第3話

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手紙の主

 その日も舞桜は手紙のことで授業を休んだ――総合成績一位と言っても勉強しなければ筆記の成績は落ちるし、菜々子などにも何度か言及されたことはある。実際、二位との差は仕事をこなす内に縮まり始めており、このままでは陥落か――と、日町から茶化されたこともある。


 ただ舞桜自身そもそも成績に頓着しているわけでもないため、まあいいかと思っていたりもする――だから今日も授業を休み、警察を訪れた。

 そして手紙について相談した時、早河はいち早く原因が誰なのか察したらしく、重い声で語った。


「そうか……どうやら、これは私達の失態だ。すまない」


 頭を下げられた。舞桜としては驚く他なく、


「えっと、こういったことをする人物に心当たりがあるんですね?」

「ああ……こうやって書いた以上、彼らだろう」

「どういうことなのか説明してもらえませんか?」

「無論だ……実は、相手は警察関係者というわけではない。警察に色々と協力してくれた研究所関連の人物であり……彼らは署長などとも縁があり、君のパートナーに関する話が浮上した事がある」


 そう述べた早河の顔つきは、悔いるようなもの。


「研究所の事件が起こった直後くらいの話だ……話はある程度進んでいたのだが、私の管轄外で起こっていたため、私も対応が遅れた。事情を知った直後すぐさま必要ないとして破談となったのだが……」

「その人物が……こうした手紙を?」

「おそらく」

「……自宅まで来て手紙を渡していると、不穏なものを感じるのですが」


 早河は無言だった。それに対し舞桜はどう動くべきかを思案する。


 パートナーになるという話が浮上した以上、相手は実力的にも十分なものだろう。さすがに舞桜自身に何かをするなどという可能性は低いとは思うが――警戒しておいた方が良いだろうと思う。


(いや、待った)


 舞桜はさらに思考する。相手は手紙を送って来た以上、さらに干渉してくる可能性もある。今後警察と共に対応していくはずだが、その過程で下手をすると自身に関わる人物が、場合によっては――


「その方の、名前は?」


「交渉は該当人物の父親がやっていた……名前は関石(せきいし)藤次(とうじ)。パートナー予定の相手は関石(たける)……研究員の一人だ」

「また研究者絡みですか」

「すまない」


 またも謝る早河。舞桜はひとまず首を左右に振り、


「謝罪はいりませんから……とりあえず、今は手紙が届いただけですのでまだ実害はありませんが……もし何かあったら――」

「わかった。こちらも調べることにする」


 決然と早河は告げると、立ち去った。

 その後、舞桜は警察を出て学校に行こうか迷う。時刻的に最初に出るべき授業は過ぎてしまった、加え、出席するにしても昼からの授業となる。


「さて、どうしようかな……」


 と、そこで舞桜は昨日のパートナー話を思い出す。現状当事者である自分を他所に色々と動き出している節がある。


 それがどう転ぶのかもわからないが――舞桜自身、これがもしかするとパートナーを決める契機になるかもしれないという予感があった。決して舞桜自身はパートナーを望んでいるわけではない。けれど先の事件を思い返せば、一人で事件に関わり続けるというのに不安があるのもまた事実。


 さらに、何やら動き出している気配もある――ここまでくれば、必要に迫られていると言っても過言ではないかもしれない。


「……ちょっと、相談してみようか」


 自身で全て結論を出すのも難しかった。

 舞桜はポケットから携帯電話を取り出す。もし相談するとしたら、誰が良いのか。


「一番のいいのは日町さんだろうけど……」


 達樹や菜々子という存在を知る彼女なら、何かしらパートナーを決める手掛かりが得られるかもしれない――だが、先の達樹に関する話もある。余計なことを言われないだろうか。

 しかし、もう一人候補として思い浮かべた人物も――似たような言動をする人物であった。


「……どっちがいいかな」


 舞桜は逡巡し――やがて、手に握る手紙を見る。


 本来は警察に渡しても良かったのだが、そのまま持っている――早河が言及してもよさそうなものだったが、舞桜が話した内容に懸念を抱いたかして、そこまで頭が回らなかったのかもしれない。


「……どちらにせよ、用はあるし」


 言い訳じみた独り言を述べた後、舞桜は電話を掛ける。その相手は――


『ハーイ! 舞桜ちゃん!』


 以前と同様のハイテンションと共に、佐々木野乃が電話に出た。


「……どうも、野乃さん」

『もしかして私に男の子のことを話してもらえるの?』


 ――そういう約束をしたのだと舞桜は今更ながら思い出し、電話を切ろうか迷った。

 けれど相手はそれを察したらしく、すぐさま別方向に舵を切る。


『あ、ごめん。もし仕事に関することであれば遠慮なく言って』

「……わかりました」


 舞桜は家に着いたら色々聞かれるのだろうと思いつつも、本題に言及する。


「えっと……まず始めに、私のパートナーの件とか情報入っていますか?」

『パートナー? あれって確か破談になったんじゃなかった?』

「……深く知っておいでのようですね」

『それはもちろん!』


 何がもちろんなのだろうか。舞桜は電話の向こうで胸を張る姿が容易に想像でき、肩を落とす。


「えっと……それでですね、破談したみたいですけど当該の人物らしき方から手紙が届きまして」

『手紙?』

「宛名などもなかったので直接家に投函したようですけど……内容は私のパートナーになる人物ですという自己紹介文みたいな感じで――」

『ああ、なるほど。そういうことね』


 と、急に語る野乃のトーンが落ちた。


『なるほどねぇ……断られたのに押し通す気なのね』

「……野乃さん?」

『それは不届きねぇ……成敗してやらないとねぇ』


 声が段々と怖いものになっていく。舞桜は一抹の不安を抱き、


「あ、あの……野乃さん?」

『なるほど。で、そのストーカーまがいの人を捕まえてなます切りにするのね?』

「……怖い事言わないでください」

『何を言うの!? 舞桜ちゃんが嫌がっているのにその所業、許されるはずがないでしょう!?』


 明らかに認識が間違っていることに加え、勝手にヒートアップしていく彼女に、舞桜は押し黙るしかなかった。


『いいわ、舞桜ちゃん! 私が協力してあげる。さあ、今すぐ来て! そしてかのストーカー野郎を退治しましょう!!』

「……はあ」


 舞桜は逆に引き気味になりつつあり、自分のことのはずなのにたじろぐ結果となってしまった。


 とはいえ――どうにか達樹のことは誤魔化すことができそうなので、ある意味結果オーライかなどと思いつつ、舞桜は野乃へ家に行くことを告げ、歩き出した。


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