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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第3話

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昼休みの出来事

 翌日、色々と厄介事を胸に抱えた状態で達樹はいつものように登校し授業を受ける。学園内も先日のような一触即発としたこともなく、平穏そのものだった。


 とはいえ――祖々江(そぞえ)の存在は気に掛かる。おそらく彼は何かしら行動を起こしているのだろうと心の中で認識しつつも、何もできないというのがひどくもどかしい。


「俺はどう動くべきなんだろうな」


 呟いてみるが、おそらく何もせず静観が一番なのだろうとは思っている。警察や舞桜本人に任せた方が良い。

 しかし、色々と気になるのも事実――ただあまり深入りすると菜々子から色々と追及されかねない状況ではあるため、達樹はやはり静観しようと決めた。


 やがて昼を迎える。いつもの場所でランチをとるべく大通りへと繰り出す。荒涼とした空気が満ち始めた季節だが、今日の日差しはやや暖かく、風もそれほどないため過ごしやすい。


 いつもと同じカフェの席へ座り、注文を済ませる。優矢がいないため連絡でもしようかと思った時、携帯にメールが入っていることに気付いた。

 確認すると優矢からで、『今日は用があり行けない』とのことだった。達樹は心の中でわかったとだけ呟き、料理を待つことにした。


 大通りが混雑し始め、それらを横目に達樹は頬杖を突きながら料理を待つ。その時、


「よお」


 声を掛けられた。何の気なしに振り向くと、そこには――


「あれ?」


 祖々江滝司(たきじ)――以前遭遇した彼が、達樹と目を合わせ手を振っていた。


「その様子だと、俺のこと知っているみたいだな。自己紹介はしないが、いいか?」

「え、あ、まあ……」

「で、やっぱ話通りここにいるんだな」

「……話通り?」

「ああ。で、対面の席いいか?」


 本来は優矢が座る場所を指差して問う。達樹としては拒否する理由もなかったので頷いて見せると、彼は嬉々として着席した。


「悪いな、突然」

「いや、それはいいけど……俺に用?」

「ああ。ちょっと色々と尋ねたくてさ」


 自分に一体何を訊きたいのか――もしや、舞桜との関係がバレたのかなどと思いつつ。達樹はポーカーフェイスを努め言葉を待つ。


「ほら、立栄さんのことについてだけど……何か、パートナーに関する情報を持っていないかと思ってさ」

「……何で俺に訊くんだ?」

「応援団なんてものに所属しているからさ」


 そうきたか――達樹は内心応援団に所属しているという事実を少しばかり後悔しつつ、言及する。


「いや……応援団だからといって、情報を持っていると考えるのはおかしいんじゃないのか? 親衛隊だって、彼女の情報を掴んでいるとは言い難いし」

「確かに立栄さんを応援するなどという名目で活動する会はいくつかあるし、ほとんどは有象無象だが……君達応援団についてだけは、何か違う気がしてね」

「どうしてそう思うんだ?」

「人選的に」


 ――確かに、菜々子を始め結構な面々が揃っているのは事実。


「加え、応援団所属ということは少なからず立栄さんにお近づきに……もとい、色々と協力したいと思っているはずだ」

「お近づきになりたいかどうかは個人の自由だけどさ……俺は、それほど――」

「そうか? けど、君だって何かしら活動しているんじゃないか? で、笹原さんと共に警察に呼ばれたと」


(そういう推測できたか)


 達樹は困ったとはっきり思った。解釈的には間違ってはいない。実際、舞桜絡みのことで警察に呼ばれた――菜々子の指示によってだが。


「だから、何か立栄さんが困っているんじゃないかと思ってさ」


 あんたがそれに拍車をかけているとは思わないのか――問い掛けようとしたが、彼はにっこりと笑った。どこか確信犯めいた表情。

 それを見て、達樹は問うても無駄だと悟る。


「悪いけど、有益な情報は持っていないよ」


 だから突っぱねるつもりで言った――すると、


「そうか? 実は例の件について何か知っているんじゃないかと思ったんだが、掴んでいないようだな」

「……何?」


 達樹は眉をひそめ聞き返すと、彼は含みを持たせた笑みを浮かべる。


「実はさ、立栄さんについてちょっとした噂話があるんだ。そっちの態度を観察してその辺りのことを知っているか判断していたんだが……知らないみたいだな」

「何を知っている?」

「それを教える場合、これから俺に協力してもらいたいな」


 笑みを絶やさぬまま祖々江は語る。達樹はここでどうするか迷った。

 単にこちらの協力を取り付けるための嘘だという可能性もある。だが舞桜に関連することであれば気になることではある。


「……情報の出どころくらいは教えてもらえないのか?」

「それも、ちょっとなぁ……けど、噂レベルではあるよ」

「単なるデマじゃないのか?」

「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」


 含みを持たせた物言い。達樹を引き入れる口上だとは理解できたのだが――そもそも、どうしてそこまで干渉するのだろうか。


「……もう一つ訊いていいか? 何で俺にそうしたことを投げかける」

「平たく言えば、一番組し易いと思ったからだな」


 バッサリ。つまり、応援団の中で話をするのに都合が良いということだろう。


「優等生メンバーは正直、俺のことを端から不快に思っている可能性も高いし、かといって応援団の長を務める君の友人と話をする場合、色々と言われそうだし」

「だから、俺?」

「そういうことさ。ま、もし君が難癖つけて暴れても大丈夫だから、という面もある」


 実力行使に出た場合、確実に勝てると思っているわけだ――達樹にとっては厄介だとしか思えない理由。


「で、もし応援団にいる面々で話をするなら君だろうと思ったわけだ。さすがに団員で情報格差があるという可能性は低いから、何か噂について耳に入っているなら君に反応があってもおかしくない」

「……俺が弱いから、反応を見るのも楽だと思ったというのもありそうだな?」

「まさしく」


 隠すことなく祖々江は応じた。はっきりとした物言いだが、彼もまた噂を耳にして色々と舞桜のことを考えているとはわかった――良いのか悪いのは別にして。


「で、どうする? そっちだって応援団に所属している以上、何の興味もないなんてわけじゃないだろ?」

「……もし断ったらどうする?」

「何も。俺はただこの席を立つだけだ」

「俺があんたの話を聞いた以上、応援団のメンバーに伝えると思わないのか?」

「核心的な情報を渡しているわけじゃないからな……それに」


 と、祖々江はどこか含みを持たせた表情を見せ、


「そっちはなんだか、話しそうな雰囲気じゃないからな」


 ――それは、どういう意味で告げたものなのか。


 やはり立栄との関係を知っているのか――けれど彼の表情から真意を汲み取ることができず、目を合わせるだけ。


 やがて、達樹の注文した料理が来る。そこで祖々江は店員に注文した後、頬杖を突いて続けた。


「さて、どうする? 話を聞きたいのなら、これから俺に少し協力してくれよ」

「……確認なんだが、なぜ俺に? そもそも、一人で行ってもいいんじゃないか?」

「立栄さんに関わる人と接点があってもよさそうだしね。それに、もし何かあった場合……これからライバルになる可能性のある相手の戦力分析くらいはしておこうと思って」

「……こんな奴の、か?」


 達樹は袖をまくり増幅器を見せる。しかし、


「魔力の多寡と戦闘能力は別の話だろう……それに、なんだか君は慣れているような気もするし」


 ――やはり、含みのある言動。


 達樹は何も答えない。代わりに、注文した日替わりランチを食べるべく、箸を手に取った。

 そして食事を開始し始めた時――達樹は一つ、気付く。


 目の前の人物は、親衛隊と事を構えなおかつ舞桜のパートナーとなるべく色々と動いている。ここで思い浮かんだのは――放置しておくのも問題なのではないかということ。


(彼はなぜか俺に興味を示し色々と干渉している……色々と監視しておくのも、必要かな)


 果ては、彼自身が騒動を起こすかもしれない――そういう可能性を考えると、彼がどういう肚なのかを考えるには、接触する良い機会なのかもしれない。

 それに、噂レベルならば舞桜に迷惑をかけることもないだろう――思いつつ、達樹は確認を行う。


「……厄介事にはならないよな?」


 スープを飲みながら問い掛ける達樹に、彼は笑う。


「ああ、もちろん。何かあったら即、警察へ連絡するさ。俺だって危ない橋は渡りたくない」

「……わかった」


 達樹は頷き、一度箸を止める。


「協力するよ……内容は?」

「そうこなくっちゃ」


 指をパチンと鳴らし祖々江は嬉々とした表情を浮かべた。


「なあに、現状噂レベルだし君の言った通りデマである可能性の方が高いから、心配いらない」

「……何があるんだ?」


 問い掛けた達樹に対し、祖々江は一言。


「――立栄さんに、ストーカーまがいの行為をする人物がいるという話だよ。で、それについて情報があるから、少しばかり様子を見に行こうかと思ってね」


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