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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第3話

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表明と手紙

 舞桜はすぐに手を取り確認すると、


「……三枝さん?」


 親衛隊所属の三枝の名が記されていた。電話とは非常に珍しい――と思った後、おそらく祖々江の件だろうと思った。


「どうやら彼女にとっても相当大きな出来事だったみたいね」


 電話で連絡すること自体、皆無に近い。親衛隊は確かに舞桜を護るように学園内で随伴してはいるが、彼女達は互いが舞桜にあまり干渉しないよう――暗黙の不可侵条約を結び、親衛隊として行動している。


 憧れ故に、誰かが抜け駆けをすると多大な混乱が生まれる――それを根拠として、あくまで親衛隊は舞桜を支援するという形かつ、どこか壁を形成しつつ行動している。


「はい、もしもし?」


 舞桜は三枝の表情を頭に浮かべながら電話に出た。すると、相手はハキハキとした明瞭な声で問い掛ける。


『立栄様でしょうか?』

「ええ、そうだけど……」

『良かった。まずはご報告しなければならないことが』


 前置きをして、彼女は達樹が話していた祖々江のことを語る。それを聞いた舞桜は彼女が話し終えると、


「わかりました、頭の片隅に置いておきます――」

『はい、それで……あの……』


 三枝は突如話しにくそうにする。そして沈黙してしまった。

 舞桜としては話し掛けた方が良いのか判断に迷い、なんとなく机の上にある新聞紙に手を伸ばしながら言葉を待つことにした。


 その時――新聞やチラシではない何かが指先に触れる。気になって掴み引っ張ると、新聞紙の間に挟まっていた、一枚の手紙。


『私は……一つ、ご提案させて頂きたく思いまして』


 なおも三枝は語る。その間に舞桜は空いている手でその手紙を引っ張り出し、確認する。

 市販で売られている、茶色の便箋に入った手紙。宛名などはなく、直接家のポストに投函したのだろうと察することができた。


『私としては、現状立栄様の親衛隊として活動させて頂き、非常に嬉しく思っております。けれど、今回の件で自身の無力さも感じました』


 そう語る三枝の言葉は、ずいぶんと重い。


『言ってみれば私たちも、先ほど説明した祖々江という人物と立ち位置がほとんど変わらないわけです。私たちはあくまでボランティアとして活動している以上、立栄様にご迷惑が掛かる可能性を考慮し、深く立ち入ることはしませんでした』


 なんだか不穏な言動――舞桜は思いつつ手紙に封がされていないのに気付き、中身を取り出す。一枚の紙。


『だからこそ、決意しました』


 そして彼女の強い言葉。同時に舞桜の目に手紙の内容が見え、


『――正式に私が立栄様のパートナーとなります。親衛隊の面々にもそう伝えます。無論混乱が予想されるため、親衛隊を脱退する意志も固めております』


 ――手紙には、『私は立栄舞桜さんのパートナーとなる予定の人物です』と書かれていた。


「……え?」


 聞き返したのは――果たして三枝の言葉のせいなのか。それとも、手紙の文面のためなのか。舞桜自身もよくわからなかった。


『詳しいことは、警察に相談いたします……立栄様のご迷惑になる点もございますが、私の決意、是非ご理解していただきたく』

「え、あの……」

『すいません、一方的で。それでは――』


 最後に言って、電話は切れた。後に残ったのは三枝の宣言と手紙に困惑する舞桜。


「……なぜ」


 ここで急に、パートナーの話が出て来るのか。


 その中で、手紙の内容が特に気になった。これは果たしてどういう意味なのか。


「予定って……警察からも聞いたことがないけど」


 舞桜は呟きながら――こうして手紙が来たことに少なからず嫌な予感を覚える。自宅を知っている、という事実はそれほど驚くことではない。けれど、その文面を目でなぞる度に、この手紙の主が執着心を持っているような気がしてくる。


「……これは」


 警察に相談した方が良いだろう。三枝の件についてもきちんと話を通しておいた方がいい。

 そう思うと舞桜は立ち上がる。善は急げ。


 外へ出ると、舞桜は時刻を確認する。昼前。時間としては警察には休憩時間に遭遇することになるだろうか。


「この一連の流れは……何かの、予兆かな」


 舞桜は呟きつつ歩を進める。果たして、これが何を意味するのか――困惑しながらも、足だけはしっかりと警察へと進めた。



 * * *



「……これで、全部か?」


 老いた男性の声が室内に響くと、白衣の女性は静かに頷いた。


「資料としては、それほど多くないな」

「彼女本人の情報でない以上、詳しく調べられなかったというのもある」


 彼女が応じると、男性は小さく頷く。


「わかった……では持ち得る情報だけで、どうにか対応しよう」

「ええ」


 彼女が応じると、男性は静かに部屋を出て行った。

 残された彼女は一人息をつくと、苦笑を交え呟いた。


「……ああまで執着するというのは、正直すごいわね」


 もっとも、理由はそれぞれ違うのだろうが――彼女は思いながら、椅子の背もたれに体を預ける。


 また、面白いことになる――そう頭で認識していながらも、これから彼らに起こるであろうことを想像し、不憫に思う。


「事の発端は私達なわけだけど……」


 ともあれ――放っておいても、先ほどの男性は行動していたように思う。それを制御し、自分達の望む方向に持っていくことは、少なくとも余計な面倒事を引き起こさないだけマシかもしれない。


「さすがに放っておいたら暴走しかねないし……」


 さらに苦笑し女性は呟いた後、立ち上がる。


「ま、とりあえず一仕事終わったことだし……コーヒーでも飲みましょうか」


 それと共に、彼女は立栄舞桜のことを思い返す――果たして、今回はどれほど立ち回ってくれるのか。

 彼女の頭の中は先ほどの男性のことは隅に追いやり――ただ舞桜の姿だけが、頭の中に満ちていた。


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