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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第3話

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要求と提案

「決闘してください」


 達樹が警察に赴き、敷地前の道路で待っていた菜々子から言われたのがそれだった。

 思わず達樹は足を反転させ帰りたい衝動に駆られる――電話口で話していた空気とは一変、その瞳には敵意が宿っている。


「えっと……あの……」

「あなたがパートナーとしてふさわしいか、私が見定めます」


 強い口調だった。そこで達樹は根本的な話を切りだす。


「いや、待ってくれよ。そもそも打診されただけでまだ何も決まってない」

「打診はされたんですよね? 理由としてはそれだけで十分です」


 迫力に満ちた彼女の表情。おそらく事が終わるまでこれが収まることはないだろう。

 けれど、達樹としては勘弁願いたかった――警察によると、彼女自身過去に怪我を負い能力を失くしたらしい。しかし、その状況でも達樹にとっては雲の上の存在。正直、勝負以前の問題だと思う。


「……いや、あの」


 達樹は狼狽え、どうにかこの場を回避できる手段を模索しようとする。けれど菜々子はその態度を不服と思ったらしく、


「なぜ、逃げ腰になるのですか?」

「いや……当然だと思うけど」

「ご自身が、それほど強くないから?」

「ああ……だって、ほら」


 達樹は自身の腕――増幅器が着けられた場所を指差す。所作だけで菜々子は理解したらしく、目を細めた。


「今の菜々子が本気になったら、それこそ一瞬で勝負がつくよ」

「私はそう思いません」

「いやいや……こんなの勝負しなくたってわかるじゃないか」


 どうにか回避を――そういう思いで話す達樹に対し、菜々子は延々と首を振る。

 話は平行線だが――さすがに警察署の前でこんな問答を繰り返していれば人が来る。達樹の目には、早河が入口から出てきた姿が映る。


 菜々子も視線に気付いたか振り向く。そして早河は接近すると声を上げた。


「彼女が来ると連絡は受けたが、西白君まで来るとは予想外だったな」

「……彼女に呼ばれてきたんですけど」


 達樹の言葉に、早河は困った顔をする。


「授業は?」

「午前はありません……で、そっちは?」

「私もない」


 首を振る菜々子。達樹の方は嘘なのだが、果たして彼女もそうなのか――


「ここには笹原君が来たいと言って待っていたのだが、西白君はなぜ彼女に?」

「決闘がしたいと」


 達樹の返答に早河は渋い顔をした。


「なるほど、状況はなんとなくつかめた……笹原君」

「実力を計るためには必要でしょう?」


 強気な口調に、早河はため息をつく。ほとほと困った様子。


「……ふむ、西白君」

「できれば遠慮したいんですけど」


 達樹は早河の言葉にすぐさま応じる。それを見た彼は、


「笹原君、この件についてはあくまで候補という段階であって……」

「しかし、彼を押そうという雰囲気は感じられますし、やっておいて損はないのでは?」

「……逆に訊くけど、どうしてそっちはここまで固執するんだ?」


 達樹はふいに質問を投げてみた。すると菜々子の視線がキッと強く差し向けられ、


「……舞桜と組む以上、必要だと思いますが?」


(――なんか、厄介事しか招かない雰囲気だな)


 ここで問答していてもきっと舞桜の迷惑になるだろうと達樹は思い、辞退しようかという意向を早河へ告げようかと思った。しかし、


「一つだけ、言っておく」


 早河が切り出した。


「笹原君……どのような形であれ、現状では君をパートナーとするようなことは、ない」


 その言葉に――菜々子は強く反応する。


「それは……どういうことですか?」

「これは私達にも非のあることだが」

「重傷を負い、能力が使えなくなったから無理だと?」


 眼光鋭い彼女の瞳は、それこそ早河に掴みかかりそうな雰囲気を持っていた。


「そうだ」


 それに早河は毅然と答える。菜々子は何か言おうとしたようだが、途端に口をつぐむ。


(不本意、といったところか)


 達樹は胸中思う。そして早河はなおも続ける。


「そしてだが、君の性格上組ませるのも難しいと思う……君が立栄君を大切にしているのは理解している。しかし、それがパートナーとなる条件ではないし、むしろ――」

「ご意見はわかりました」


 冷淡な菜々子の声。達樹としては魔法の一つでも飛び出るのではと内心ヒヤヒヤする。


「憂慮するのは、理解できます。けれど達樹には荷が重すぎるのではないでしょうか?」

「二つの事件を解決した実績もある……とはいえ、立栄君ともしっかりと話さなければならない案件だ。どうなるかはまだわからない」

「……なら、舞桜に尋ねればいいんですね?」


 確認するように菜々子が問う――けれど顔は、どこか険しい。


 そういえば、菜々子はあの事件以来舞桜と話したのだろうかと達樹は疑問に感じた。もし話していないのならば事態が複雑になるのは必定であり――達樹はなんとか、無難な形にならないものかと菜々子を説得しようとした。


「……あれ?」


 その時、達樹の背後から声が聞こえた。反射的に振り向くと、そこには――


「え……?」


 同じ制服を着た、男子学生。どこかで見覚えがあると思ったのは一瞬で、

 彼が祖々江滝司だと気付いた瞬間、菜々子が声を上げた。


「とうとう呼び出されたんですか?」

「おいおい、待てよ。俺はそんなあくどい噂が流れているのか? 八位さん」

「……その呼び方は」

「ん、ああ、すまない。喧嘩を売りに来たわけじゃない」


 言って、彼は達樹と菜々子を一瞥。


「ところで……二人はどうしたんだ? というかそっちは見慣れない顔だな?」

「……ちょっとした事件に関わってしまい、その参考として警察に呼ばれただけです」

「ほう、そうなのか」


 軽い態度で祖々江は答えると、達樹に近寄り方に手をポンと置いた。


「ご愁傷様……警察に呼ばれるなんてレベルだと、結構大変だったんじゃないか?」


 彼は笑みを浮かべる。晴れ晴れしい顔は、一片の邪気もない。

 そこで達樹はこれ幸いとばかりに「どうも」と告げ、警察から離れようと動き出す。


 菜々子はどうするのかと思った直後、彼女もまた引き上げるべく早河に一礼し、達樹の後を追い掛ける。

 達樹としてはこの状況で決闘云々の話を有耶無耶にしなければと頭を回転させ、菜々子が達樹の隣に来た。そして、


「――あんたが、早河さん?」


 祖々江の声。すると菜々子が立ち止まった。


「……ん?」


 達樹は訝しげに視線を向けると、菜々子は一度早河と話す祖々江を見据えた。次いで、


「――集え」


 突如、魔法を使用。言葉からおそらく、以前使用した遠くや壁越しの音を拾う魔法であり、


「あんたが警察にとって立栄さんと組んでいる人だな?」

「……私のことを知っているのか?」

「ああ、調べるのに時間は掛かったけどな」


 調べる――どうやら彼は、舞桜のプロフィールなどを調べ回っているらしい。だからこそ親衛隊である三枝に気付かれてしまった。


「……調べる?」


 菜々子も見事に反応。慌てて達樹は押し留めようかと思ったが――それよりも早く、


「ちょっとした、頼みみたいなものだ。きっと警察で相談した方が良いだろうし、俺としても解答は急いでいない。本来は立栄さん本人を通すのが筋なのかもしれないけど、今日は学校に来ていないようだったから」

「……何か、立栄君に相談か?」

「いや、そういうわけじゃないよ。ただ一つ、差し出がましいかもしれないけど意見を、と思ってさ」


 言って、遠目ながら彼が胸に手を当てているのを達樹は理解する。


「突然だが……俺を、彼女のパートナーにどうかな? そういう提案をしに来たんだが」


 ――直後、菜々子は警察へ足を再度向けようとする。達樹はそれを押し留めようと肩を掴むべく動き出し、さらに早河が口を開こうとする。


 その時だった――突如、菜々子の携帯電話が着信した。


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