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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第3話

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変化の理由

「ふーむ、体調的には特に問題はないようだが」


 一通り検査を終えた日町は、舞桜にそうコメントした。


 ――三十分程度経過した後、日町は舞桜の家を訪ね、そこから体の検査を行った。けれど結果は、問題なしだった。


「魔力に関しても、異常値は見受けられないな……むしろ、以前定期検査したときよりもよくなっている」

「ですが、今までにない症状が出ているのですが」

「……何かをきっかけにして変化した、という解釈はできないか?」

「変化?」


 聞き返すと、日町は大きく頷いた。


「舞桜はこの変化を何がしかの異常だと解釈したわけだが、それは違うのでは、ということだ。むしろ体が成長していく中で生じた新たな変化なのでは……と、私は考える」

「変化……ですか。成長といっても心当たりは一切ありませんが」

「人間というのは、見た目上変化なくとも、細胞分裂を繰り返し日々成長している。まあ二十歳を過ぎたらそれは老化現象などと言われてしまうわけだが……ともかく」


 コホン、と日町は咳払いを一つ。


「そういった身体的な変化により、体に眠る魔力の方もそれなりに変わった……検査結果を見た私の見解としては、それが妥当だと思うのだが」

「とすると、これからこういった変化がどんどん起きる可能性が?」

「経過観察は必要だが、変化する頻度が上がれば体がそのようになったと解釈してもいいかもしれない。とりあえず現時点で異常はないから安心するといい」

「わかりました」


 舞桜は頷き小さく息をつく。


「しかし、体に変化があったというのは何か原因があるのでしょうか……なんとなく、気持ち悪いのですが」

「候補か。最近あった出来事と言えば……」


 日町は思い出しながら――ふいに、ため息をつく。


「この一ヶ月はそれこそ厄介な事件ばかり起きているな」

「……確かに」


 それには舞桜も同意せざるを得ない。研究施設に関する一連の事件や、不良集団の暴走――そういった事件を通じ、何か変化が起きたと解釈してもよいかもしれない。


「けれど、私は別の可能性を上げてみよう」

「え?」


 唐突な発言に舞桜は驚く。そして日町は、


「ほら、一番の変化は西白君が現れたこと――」

「いや、それは……」


 言葉を濁す。人間関係的な変化としてそこは非常に大きいのは確かだが、さすがに荒唐無稽すぎなのではないかと舞桜は思う。

 けれど、日町の見解は違うようだった。


「何を言う。身体的な異常は見受けられなかった以上、精神的な変化を要因に上げることは、何ら不思議ではない」

「いや、そうかもしれませんけど」

「で、どうだ? 例えば彼のことを頭に思い浮かべて、どう思う?」


(そういう言い方は、卑怯だと思う)


 胸中舞桜は思った。その言い方だと、意識してもいないのに意識しているように考えてしまうのではないだろうか。


 けれど――ふと達樹の姿を思い出すと同時に、言いようもない感情が頭を駆け巡った。それが何なのか舞桜には判然とせず、ただ腕を組み唸るしかない。


「……よくわかりません」

「わからないとは……なるほど」


 と、日町は神妙な顔つきとなり、


「舞桜はまだまだ子供ということだな」

「はい? 子供?」

「ああ」

「何が言いたいんですか?」


 ちょっとばかり棘のある口調で問い掛ける。日町は声音からそれを深く理解したか、


「いや、すまない。茶化す気はなかったんだ……そうだな、はっきり言おう」


 日町は改めて声に出す。それに舞桜は少なからず嫌な予感を覚え、


「例えばの話……彼のことが好きになったとか、そういうことが原因ではないのか?」


 ――直接的に問い掛けられて、舞桜はただ困惑するしかなかった。


「……えっと」

「ふむ、その様子だと自覚はないのか?」


 ――その可能性を、考慮しなかったと言えば嘘になる。けれど舞桜は、果たしてそうなのかと首を傾げているのもまた事実だった。


「……正直、さっきも言った通りわかりません」

「今まで恋とかしたことなかったか?」

「ありません」


 即答すると、日町は困った顔をする。


「ない、と断言されるとどうしようもないな……そうだ、西白君のことを思い出し、胸が熱くなったりとかしないか?」

「……日町さん」


 そこで、舞桜は目の前で問い掛ける相手に対し疑義を抱く。


「面白がっていませんか?」

「……いやいや、そんなことはないぞ」


 首を振る日町。けれど目が笑っているのを完全に隠すことができていない。


「……冗談はやめにしてもらえませんか?」

「そう怒るなよ……わかったよ。ひとまず原因が掴めない以上、経過観察だ。何かあったら連絡してくれ」

「はい」

「……舞桜はおそらくこれが悪いものだと考えているかもしれないが、そう思うのは早計だろう。深く考える方が体に毒だ」

「わかりました」


 日町は席を立ち、帰ろうとする。けれどすぐに何かを思い出したように声を上げる。


「ああ、そうだ……パートナーの件、早河さんから聞いたよ」

「……ああ、はい?」

「彼は達樹に持ちかけたそうじゃないか。ま、その辺りの話は置いておくとして……いったん保留ということだが、舞桜としてはどうしたいんだ?」


 ――舞桜はもしや、早河から聞いて来てくれと頼まれたのではと考えた。しかし、


「ああ、待った。早合点しないでくれ。別にあの人に言うつもりはないし、聞いて来いと言われたわけじゃない」

「……そうですか。パートナーについてはどうもこうもないですよ。ないならない方が――」

「そうは言うが、現状色々な事件が起き始めている……あの研究所の騒動から」


 日町の言葉は重い。舞桜も沈黙し、彼女を見返す。


「あれと関連があるなどとは言わないが……あの事件が呼び水となった可能性は高いと思う。今後あの件と似たような事例があれば、一人で対処できないというケースもあるだろう……無論、以前菜々子の身に起きたことを考えれば、舞桜が躊躇うのも理解できる。しかし警察や私としては、舞桜を単独でいさせるというのも正直不安があるのは事実」

「理屈はわかりますし、二つの事件に関与し貢献した達樹が選ばれるのも納得いきますけど……」


 言葉を濁す。何か、舞桜の中に複雑な感情が宿り始めていた。

 口に出すのが難しい感情――それがどういう意味を持っているのか。


「……言葉に表すのが難しそうだな」


 それを察した日町からの言葉。舞桜としては頷く他なかった。


「……ともかく、私としてはパートナーとなることを即決するのは」

「わかったよ……だが誰をパートナーとするかくらいは、ひとまず考えておいて損はないだろう」


 日町は言うと、リビングを出るべく扉に手を掛けた。


「ああ、それに関連してだが……少し前、菜々子が私の所に来た」

「え?」


 友人の名が出て舞桜が聞き返す。それに日町は肩をすくめた。


「内容はとりとめもない雑談だったのだが……その折、パートナーの件をうっかり喋ってしまってね。彼女なりに何の考えがあるのかはわからないのだが……もしかすると、達樹に決闘くらい申し込むんじゃないかという雰囲気を持っていたよ。一応、注意しておいた方が良いのではないかな」


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