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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第3話

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二つの策謀

「いったん白紙……ですか」


 そこは書斎のような一室で、男性が一人椅子に腰掛けながら携帯電話で会話を進めている。


 彼の年齢はおそらく四十代後半から五十前後。髪色は黒だが白髪も混じっており、その部分については年齢を隠すことができないでいる。


「しかし……元々、この話はあなた方が行ったものではありませんでしたか? なぜ急に今になって――」


 途端、男性の声が止まる。電話口から相手の説明する声がほんの少しだけ、静まり切った部屋の中で聞こえる。


「……なるほど。他に、ということですか」


 嘆息する男性。その表情は、ひどく裏切られた顔をしている。


「そうは言いますけどね……私達はあなた方の要請に従い準備を進めていたんですよ。それを今更反故されるというのは……まあ、やんごとなき事情ならまだしも、その理由はおかしいのではないですか?」


 そして電話口から声。それに男性はイラついた表情を見せる。


「事後になって申し訳ない、ということですか。しかし、あなた方の説明だと考えているプランも、まだ正式決定というわけではないのですよね?」


 そこで相手が返事をして、男性は頷いた。


「ならば……一度、話し合いませんか? 私達としてもこれで終わりなどというのは、納得がいかない。加え、そちらの事情も一度聞いてみたいですし……ええ」


 相手が喋り始めたため相槌を打つ男性――そして、おもむろにペンを手に取り、近くに置いてあったメモ帳に走らせる。


「はい……わかりました。では明日、よろしくお願いいたします」


 そう言って、彼は通話を切る。続いて出たのは、深いため息。


「……やれやれ、厄介な話だ」


 呟くと、彼は立ち上がった。そして部屋を出るべく歩き出し、


「しかし、こちらの内情を知れば、こうなることはある種予測できたことと言えるのだが……まだ、その点については露見していない様子。なんとしてもここで決めなければ」


 男性の顔が焦りに近いものに変化。それに合わせるように出て行こうとする部屋の空気が、硬質なものへと変わる。


「……必ず」


 そして男性は一言漏らし、部屋を後にする。後に残されたのは静寂。しかし男性が残した最後の空気により、室内はどこまでも張りつめた空気を帯びていた――



 * * *



 彼女が研究室で書類に目を通している。その内容は塚町や『キラービー』が警察と戦った記録だった。


 なぜこんな資料が彼女の手元にあるのか――それ自体、彼女自身も少なからず驚くべき事ではあったのだが、


「こうして色々と情報提供してくれるのはありがたいし、私も興味はあるのだけれど……いつか身を焼かれそうね」


 苦笑を大いに交え呟くと、彼女は息をつき書類の束を頭上に掲げ、


「――炎よ」


 声に出した直後、手に握っていた資料が突如燃え上がり――灰すらもまともに残らず、消滅した。これで、この研究室にこうした情報があったという証拠は消えた。


「さあて、次ね……やれやれ、こういう作業が必要だとはいえ、やっぱりつまらないわね。早く外に出たり人と話したりして活動したいわ」


 塚町達へ色々とやっていた時のことを思い出し――彼女は思わずほくそ笑む。


「と、いけないいけない」


 すぐさま思考を戻し、彼女は新たな資料に目を通す。そこで、


「……へえ、面白いことをやっているじゃない」


 呟きが、散らかった研究室の中で響いた。


「警察が立栄さんにパートナーを、か……なるほど、これは上手くやればまた彼女を動かせるかもしれないわね」


 同時に彼女は頭の中で策を巡らせる。


「しかし、これは普通にやっても面白くないし――」


 そこで再度資料に目を通す。そこには、非常に重要な事柄が書かれていた。


「……ふうん、そう」


 そして彼女は満面の笑みを浮かべる。


「なら、あの手で行くしかないわよね」


 その笑みは、陽気ながらどこか妖しさを含んだもの――同時に研究室の空気は、どこか冷たいものへと変貌していった――


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