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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第2話

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憎しみと虚無

「っ!?」


 達樹は慌てて急ブレーキをかけ、出現した半透明の結界に対し衝突を防ぐ。それと同時に背後を見た。角から大量の土人形が構え、達樹と対峙する。


「達樹!」


 舞桜は叫ぶと同時に魔法を起動しようとする。しかし、


「やめておいた方がいいわよ。これから私はあんたと決着をつけるつもりでいる。結界を使ったのは校舎が破壊されると面倒だから。それを解くと、後ろの彼にも被害が及ぶかもしれないわよ?」


 一歩足を踏み出し塚町が述べた――直後、舞桜の動きが止まる。


「私を孤立させるのが目的だったということか……!」

「孤立、って程でもないけどね。まあ、あんたがその気になればこの結界だって破壊するのは簡単なのだろうけど……どうも見た感じ、魔法を相当制御している雰囲気だからね。味方を巻き込まないよう配慮しているわけでしょ? なら、足枷くらいの役目は果たしてもらわないと」


 その言葉で、達樹は自身がここに来たことをほんの僅かに後悔した――が、


「……この魔法は、一人だと危険なのよ」


 舞桜は、塚町に決然と言い放った。


「だからこそ、私は達樹と共にここに来た」

「危険、ねえ……まあいいわ。さっさと決着をつけましょう」

「なぜ、あなたはこんな真似をするの?」


 問い掛けた舞桜に対し、塚町は無言。代わりに腕をかざし、


「――光よ」


 照明の魔法を生み出し、渡り廊下全体を照らした。

 そして塚町の姿も明瞭に見え、その顔に笑みが張り付いているのを、達樹はしかと見た。


「あなたが活躍しているのを見て、単純に邪魔だと思ったから。それ以上の理由が必要? なければ適当にでっちあげるけど?」

「……そう」


 達樹の目には、舞桜が一瞬肩を落としたように見えた。けれど、それもすぐに収まり、


「なら、お望み通り戦ってあげる」


 声と同時に、土人形の動きが活発になる。


「俺はこいつらが相手か……!」


 呟きつつ、構える。そして、

「後ろの西白君を救いたければ……私を、叩き潰すことね」


 塚町が言い放ち――達樹と舞桜の、戦いが始まった。



 * * *



 舞桜が行動に移すよりも早く、塚町が動き出す。

 両手をかざし、放たれたのは水流。


(圧縮魔法と、水系の魔法が得意だったっけ)


 舞桜は彼女の魔法を思い返しつつ、右腕を振った。

 直後、手先から虚無が壁のように現れる。水流が漆黒に直撃し、やがて飲み込むと同時に漆黒は消える。


「ある意味、魔法使い相手には最強かもしれないわね」


 淡々とした声音で塚町は言う。動揺など負の感情を見せていない。


「そんな魔法を使うなんてデータにはなかったけれど……当然かもしれないわね。誰が見ても、後ずさりするような魔法だし」


 舞桜は何も答えない。無言で手を、塚町へ向ける。


「よって、私の魔法だっておそらく通用しない。圧縮魔法は生物に対し使えないという制約があるし……水だって先ほどのように虚無に飲み込まれておしまい」


 と、塚町は舞桜に敵意の眼差しを向けた。


「けどまあ、それはあなたも同じだし」


(……さすがに、わかるか)


 舞桜は憮然とした面持ちで、塚町を見返す。

 考えてみれば至極当然な話――確かに舞桜は相手の魔法を虚無により全て飲み込むことができる。しかし、相手に向けることはできない。下手をすると、対象を飲み込んでしまうから。


 ここまでの攻防で、塚町は制御に腐心していると把握している。となれば、舞桜の持つ虚無の魔法に関する弱点は、看破していると考えていい。


「と、いうわけでお互いの立場はよくわかっているはず……なら」


 塚町は一歩前に進む。舞桜はそれを止めない――というより、止める手だてがない。

 結界に関する魔法は使用できるので、塚町を阻むことはできる……が、彼女の魔法ならそれを破ることは十分可能。むしろ、舞桜自身結界維持に力を費やすため、付け入る隙を与えかねない。


「さあて、どうする?」


 もう一歩近づく。歩みが遅いのは大なり小なり警戒しているためだろうが……舞桜は、動かない。


(……どうする?)


 自問する舞桜。威嚇のために虚無を放ってもいいが、それで相手が止まるとは思えない。

 そう考えていた時――使用してきた魔法による反動が、じわじわと体の内から湧きあがってくる。多少加減して魔法を使用していた分遅かったが、舞桜自身、思考が少しずつ歪んでいくと自認する。


 塚町はさらに一歩近づく。本当に魔法を使わないのか――強い警戒を眼差しは示していたが、笑みは決して消えない。


(……私は)


 目の前の相手を、どうするべきなのか。


「……あなたは」

「ん?」


 塚町は歩みを止め、首を傾げた。それと同時に、舞桜はゆっくりと手を下げる。


「私を倒したら、どうするつもりなの?」


 特に意識した問い掛けではなかった。虚無に染まり始めた思考は半ばどうでもいいと感じているし、答える可能性も低いだろうと高をくくっていた。


 けれど塚町は肩をすくめ、


「そうねぇ、ひとまずここから脱出しないといけないから、あなたを洗脳する必要があるわね……で、その魔法は今あなたの足元に存在しているわけだけど……」


 言いながら、塚町は舞桜の真正面に立つ。


「ここまで近づいたのなら、絶対に使えないわよね?」


 同時に、塚町は小さく息をつく。


「ま……逃げた後はご想像にお任せするわ。けど私としては、あなたがズタボロになっている姿を見たいから、少々無茶されることは覚悟しておいてね」

「……なぜ?」


 舞桜は問い掛ける――性格が変化しつつある中で感情が渦巻き、激昂しそうな感情を抑えたが故の言葉。


 そしてそれに、塚町は苛立ったように応じた。


「なぜ……ですって? さっき言ったじゃない。あなたが活躍するのを見て苛立ったから」

「……そんな、理由で」

「くだらないと思う? けど、私としては一番重要なことなのよ……あなたがいなければ、私はあなたの位置に立っていてもおかしくなかったのに」


 塚町は腕に魔力を収束。それは、野球ボールくらいの大きさをして回転する、水流。


「あなたの下にある罠と、私の魔法……あなたの魔法を封じた以上、この二つを避けることはできない。だからこれで、ジ・エンドね」


 塚町は勝利の笑みを浮かべ――床から魔法が発動する。白い光に周囲が包まれ、舞桜は相手を正面に見据えながら考える。なぜ、彼女は――


 くだらない理由――けれど、舞桜はどこか理解できた。妬みやそねみを感じる人物だって、数えるほど見てきた。誰もが憧れる立場で、多くの人から信頼を勝ち得た、最高の魔法使い。


 しかし、舞桜自身そうは思っていなかった。ただ人の役目に立ちたくて戦い続けた結果、窮屈なものを手に入れてしまった。

 本当は――本当は、菜々子ときちんと、友人として接したい。そして、達樹と――


 考えた瞬間、舞桜は急速に血が冷えていくのを自覚した。目の前の人間は、ただ欲しいものだけを見て、舞桜を憎んでいる。


 そんな人間に、自分の(さが)を背負わせるなんて考えられなかった。


 刹那、舞桜は小さく笑った。光に包まれながらのその表情に――塚町の顔が、訝しんだ。

 次第に、頭の中が闇に染まっていく。なおかつ様々な感情が押し寄せ、言葉にできない感情が頭の中に濁流となって流れ込んでくる。


「何? 何か言い残すことでもある?」


 塚町が問う――そして、


「……私は、別になりたくてなったわけじゃない」


 舞桜が言う。その言葉に、塚町は眉をひそめた。


「なりたくて……? それは、どういう――」

「話す必要なんてないでしょ?」


 答えた瞬間、塚町は何かを感じ取ったのか真顔になった。今まで見たことの無い舞桜と対峙し、恐怖したのかもしれない。


「簡単なことだった……そうよ、あなたを」


 そして、舞桜は黒く染まった感情の中で結論を導き出す。


「生かす必要なんて無い」


 告げた瞬間――塚町は、本能的な恐怖からか一歩下がった。刹那、舞桜の周囲に虚無の魔法が渦巻く。それは舞桜を飲み込もうとしていた光を平然と食い、さらに廊下に黒が侵食し始めた。


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