表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第2話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/106

廃校の攻防

「くそっ……!」


 悪態をつきながら、塚町は一人室内で携帯電話を操作する。暗い部屋で携帯の画面がひどくチラつくのだが、明かりをつけるのはまずいと判断し、我慢する。


 増援の状況を訊こうと何度も連絡したのだが――最初以外、一度として繋がらない。人を集めているのかと思っていたのだが、やがて塚町も状況を理解し始める。


「裏切った……私を……!」


 携帯を投げ捨てたくなる衝動を抑えながら、塚町は携帯の操作をやめた。


 廃校にこもっている『キラービー』構成員には、いずれ警察の背後から増援が来て混乱させ脱出すると伝えてある。とはいえ戦いが長引けば増援が来ないことに訝しがる人物も出るだろう。そうなればこちらが壊乱するのは目に見えており、内と外――崩壊は時間の問題だった。


 そうして、学校正門付近で戦いが始まった。音が塚町のいる部屋に聞こえ、あまり時間は残されていないと悟る。


「つ、塚町さん……!」


 そんな状況で構成員の男子が一人、部屋に来る。


「戦闘が始まりました……! けれど警察側が押していて、突破されるのも――!」

「わかっているわよ!」


 怒鳴り、男子は狼狽えた。塚町は怒りの眼差しを相手へ向け、


「……残りの戦力を、正面から突破されないように集めなさい」

「い、いいんですか? もし結界が破られれば――」

「敵の魂胆はわかっているわよ。警察だって包囲を行う以上、余剰戦力はそれほどない……おそらく、あの女が結界を破って校舎内に入ってくる」

「そ、そうなったらもう……!」


 男子の顔が不安で満ちる。けれど塚町は一転、笑みを浮かべた。


「だからこそ、私がやるわ……心配しなくてもいい。手はあるから」

「ほ、本当ですか……?」

「ええ。だから警察の動きを食い止めていなさい」


 男子はそれに頷き、部屋を出る。残された塚町は、一人になって舌打ちをした。


「……立栄、舞桜」


 この施設にも、少なからず罠は存在する。けれど彼女の魔法を考えれば、全てを封じられる可能性はある。しかし、


「……あの魔法の特性は、ある程度把握できた。となれば――」


 頭の中で策が浮かび上がる。それが本当に実現可能かどうかを塚町は再検証し、


「やるしかないわね……もし洗脳できたとしたら、増援なんて必要ない」


 操った彼女を想像し、塚町はほくそ笑む。同時にできる、と頭の中で思い、


「……立栄舞桜……思い知らせてやるわ……!」


 呟くと同時に、彼女は部屋を出た。そして、

 結界の一部分が破壊されるのを、塚町はしかと感じ取った。



 * * *



 虚無の魔法により校内へ侵入を果たした瞬間、達樹は肌に張り付くような嫌な空気を感じ取る。


「中に魔力が渦巻いているのか……」

「罠を起動させるために魔力で周囲を満たしておくのは、常套手段だよ」


 舞桜が律儀に応じる。この時点ではまだ、性格は変わっていない。


「正攻法で勝てないのはわかっているだろうけど、私は罠を破壊することもできる……敵としては人海戦術といきたいところだろうけど、あいにくそんな戦力もない」

「……いっそのこと、入口付近で交戦している面々を助けた方がよくないか? 警察の人員と協力した方が良い気も……」

「挟みこむような形で?」

「そうそう」

「……私の虚無魔法は、混戦だと味方を巻き込む可能性があるから」

「あ、そうか……となると、手出ししない方が無難か」

「それより、私が直接塚町さんを倒す方が良いと思う」


 直接――もし一騎打ちで戦うとしても、相手は舞桜に敵わないことはわかっているはず。となれば、搦め手を用いてくるに違いない。


「で、俺はその援護か」

「頼りにしているから」


 舞桜はどこか茶化すように言った。達樹としては不安しかなかったのだが、その心情も先ほどの彼女が言った言葉により、口に出すことはできなかった。


(騎士か……やるしかないな)


 達樹は心の中で改めて決意した時、舞桜がふいに立ち止まる。

 階段手前の廊下。そこから、達樹にわかるレベルで濃い魔力を感知することができた。


「まず、あれを破壊する」


 舞桜は宣言すると、地面に漆黒を出現させる。少しずつ床を侵食していき、やがて魔力の根源に触れる。

 直後、魔力が溶けるように消え失せた――罠が、破壊されたようだ。


「今までは地面に設置してばかりだけど、こちらの手の内を知っている以上、何か別の方策があるかもしれない」


 舞桜は告げると同時に達樹を一瞥。


「先に進むよ」

「……ああ」


 目つきがやや鋭くなっていることに気付きつつも、達樹は無言で従う。

 舞桜は廊下と階段を見回した後、階段へと足を向ける。達樹が追随した時、上からさらなる魔力を感じ取る。


「……来るわね」


 舞桜が告げた――直後魔力が解放され、


「……背後も?」


 達樹は魔力を感じた方向が上からだけでなく、下からもあると悟った。

 振り向くとそこには、人の形をした土人形が二体。


「土に魔力を加え、使役する魔法ね」


 舞桜は端的に告げると、踊り場へと移動し階上を見る。達樹が確認すると、二階にも同様の人形がいた。


「時間稼ぎのつもりか?」

「たぶん、ね。塚町さんだってこの程度でやられてくれるとは思ってないだろうし」


 舞桜は言うと同時に右手を上の人形へとかざした。


「達樹、下の人形達、任せていい?」

「わかった」


 承諾した直後、人形達が一斉に襲い掛かる。達樹はすぐさま構え、増幅器の力を活用し、迎撃を開始する。

 足場が良くないためあまり踏ん張れなかったが――最初に体当たりを仕掛けた人形は横に避けながら左肩に拳を当てた。それによってあっけなく人形は崩れ、動きが大いに鈍る。


 後続のもう一体が躍りかかる前に、達樹は人形の頭部へ拳を叩き込んだ。結果、人形は力を失くし、人の形を維持できず崩れ落ちた。

 次いでもう一体――達樹は放たれた突きをガードすると、反撃。今度は胸部を狙った一撃。それにより人形は大穴があき、動きが止まる。


 そしてとどめに頭部へ手刀を決め、倒す。舞桜を確認すると、虚無の魔法によりあっさりと二体を滅していた。


「よし、このまま――」


 達樹が告げた瞬間、さらにどこからか気配がした。


「まだいるのか……?」

「たぶん、何か罠を準備しているのだと思う」


 舞桜は呟き、階段を進み始める。達樹は追随し二階へと辿り着くと、廊下の左右から気配が。

 暗がりであるためはっきりと見ることはできない。しかし、達樹は肌がチリつくような感覚を抱く。


「結構な数だな……舞桜、魔法で一掃するか?」

「……達樹、どちらが正解だと思う?」


 ここで舞桜から質問。正解、という言葉に達樹は眉をひそめた。


「正解?」

「二択だと思うの。私達をここで足止めして罠を張る。もしくは――」


 と、舞桜は廊下を見回しながら続ける。


「塚町さんの気配が、廊下奥から感じられる……誘っているのだと思うけど、ここで私達が戦っていれば、魔法が完成されるかもしれない」

「となれば、俺が食い止めるか? 人形のレベルはそれほど高くないし、俺でもどうにか――」


 そこまで言った時、達樹は理解した。


「つまり、分断するのが目的なのか、時間稼ぎが目的なのか……ということか?」

「そう」


 舞桜は廊下を睨みながら返答する。


「孤立させるのが目的か、それとも私を来させないようにさせるのが目的か……塚町さんの気配があり誘っているということ自体、怪しいし」

「とはいえ、ここで立ち止まっていてもまずいだろうな……どうする?」


 達樹は舞桜に意見をゆだねることにする。塚町のやり口を少なからず把握しているのは舞桜であるし、何より魔力を読み、判断できるのは彼女だけ――


「……達樹」

「ああ」

「食い止めることは、できる?」


 舞桜の言葉に、達樹はしっかりと頷いた。


「大丈夫だ。倒したら、すぐに援護に行く」

「わかった……それじゃあ」


 舞桜は頷き、階段から見て左方向の廊下を指差す。


「真っ直ぐ行って、塚町さんがいる場所に辿り着いたら、達樹が食い止めて」

「了解」

「それじゃあ――行くよ!」


 頷くと同時に、舞桜は駆ける。達樹は続き、背後から人形の足音が聞こえ始めた。

 追いつかれて背後から殴られるという嫌な想像をしつつ、達樹は走った。少しして今度は左へと続く道へぶち当たり――


「ここ!」


 舞桜は告げると同時に曲がった。達樹はそれに従い、やや遅れて曲がる。

 正面はどうやら渡り廊下らしく、左右には窓という開けた空間があった。そして、


 その中央に、人影が。


「――待っていたわよ」


 塚町の声。達樹が理解した瞬間、

 突如、舞桜と達樹の間に、結界が生じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ