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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第2話

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魔法使いと騎士

 舞桜は車から降りて目の前の建物を見上げた時、既に相手が準備を整えているということを深く認識した。


 そこもまた廃校なのだが、至る所に明かりが存在している。窓ガラスなどが割られ荒れ放題なのは先ほどの場所と変わりないのだが、学校全体に結界を張り巡らされているのが一目でわかり、籠城する構えなのだと確信する。


「これは……」


 後方から達樹がやって来て呟く。それに舞桜は同意するように頷き、


「やっぱり、投降する気はないみたい」

「彼女は君を罠にはめようとした張本人だ。今更降参なんてできないのだろう」


 これは早河の言。舞桜もそこで諦めたようにため息をつき、


「……警察の魔法使いの方は、周囲を固めてください。それでもし人員が余ったら、戦力を学校内に――」

「その辺りの心配はいらない」


 告げると共に、舞桜達の後方から新たな人員が。その数は優に十を超え、全員が魔力をみなぎらせている。


「厄介な『キラービー』という組織の討滅作戦になったわけだ。既に我らも、包囲する人員と突入する面々は備えている」

「……わかりました。では、分かれましょうか」


 そう告げた舞桜は、正面にある玄関を指差す。


「あの場所だけ、結界によって閉ざされていない……全体を覆っていれば警察は至る所から破壊を始める。だからわざと結界に穴を作り、迎え撃つ体勢を整えているわけです」

「だろうな」

「結界を壊す作業もかなり大変だと思うので、正面突破を仕掛け敵を釘づけにしてください。私の魔法なら、結界を容易に破壊して押し通ることができますから――」

「なるほど、君が別所から潜入し混乱させるわけか……いや、君の知り合いである彼女を捕まえるか、だな。いいだろう。ならば私達が正面突破を行う。立栄君、頼んだ」


 早河は告げると、早速警察の人間を始め正面突破の準備を始める。


「……このくらいの手は、塚町さんなら思い浮かぶだろうけど」


 準備の過程を遠目に見ながら舞桜は言う。


「達樹、建物の中に入ったら、しばらくは私に任せて」

「いいけど……俺は、どうすればいい?」

「私の魔法は敵にバレている……短時間ではあるけれど、何か対策をしていないとも限らない。地面に罠を仕掛けていれば虚無の魔法を使って無理矢理破壊できるけど、それ相応の対応をされた場合はどう転ぶかわからない……難しいかもしれないけど、そうした場合に対し、達樹は動いて欲しい」


 達樹は難しい顔をした。無茶な要求だったか――舞桜は訂正しようとしたが、


「わかった……舞桜に従う」


 達樹は了承。舞桜はそれに対し「お願い」と言った後、校舎へ視線を送った。


「敵は籠城する構えみたいね……背後に気を付けないと」

「背後?」

「ここで時間稼ぎするということは、増援のあてがあるということじゃない?」

「……そうかもしれないな。となると、相手はこちらを食い止めることに専念する……か?」

「結界を張り、一つしか出入り口を作らないというのは、そういう意図もあるのだと思う。警察が包囲している以上、脱出するのも困難……だから、味方が来るまで耐えろ、と塚町さんは指示しているのかもしれない」

「……その口上だと、まるで『キラービー』のトップが塚町さんのように聞こえてくるな」

「その可能性は高いと思う」


 断定の口調。これには達樹も驚いた様子。


「彼女がトップ……なのか?」

「実力から考えれば、トップもしくは組織に関する重要な決定権を与えられている可能性は高い……そういえば『キラービー』は、半年くらい前から行動の仕方が変わっていた。よくよく考えると、その段階で塚町さんが組織に介入したんだと思う」

「そうなのか……で、塚町さんが期待している増援というのは、どこから来るんだ? まさか研究所の人間というわけじゃないだろ」

「破棄された魔法を彼らは使用していたでしょう? となると、何かしら研究機関が一枚噛んでいる可能性は高い……そして、研究に関する資料だって、この廃校にもあるはず」

「ああ、そうか……となると、最悪研究員とかを相手にしないといけないのか」


 そうした人物達が強いというわけではないのだが――敵はできれば少ない方が良い。


「……そもそも、一番気になるのはなぜ敵がこんな不良集団に魔法を渡したのか、だね」


 独り言のように舞桜は呟く。


「後援会の件だってそう……魔法の実験をするならもっと隠れてやるはずだし、そもそも破棄された技術であってもそれは研究した魔法……研究員が、簡単に技術を渡すとは思えない」

「彼らに魔法を渡すということで、相手はメリットを得られるわけだよな……確かに、どういう意図があるのか思いつかないな」


 ――ここに至り、舞桜は改めて今回の事件が異常だと思った。情報が少ないということもあるのだが、不可解な点が多いというのは紛れもない事実。


「なあ舞桜……もしかしなくても、今回『キラービー』を壊滅させたところで終わらないかもしれないな」

「だと思う……次にどう対応するかは、今後早河さんと話すことにするよ」


 舞桜が断じた瞬間、警察の面々が準備完了となった。


「達樹、行こう」

「ああ……建物に入ったら、どうする?」

「今のところは塚町さんを狙うつもり。もし敵が多ければ、それ相応の攻撃はするよ」

「場合によっては、俺が応じようか?」


 提案する達樹だったが、舞桜は首を左右に振った。


「私がやる……達樹は、さっき言ったことに集中して」

「……わかった」


 達樹は承諾。同時に、警察と『キラービー』の交戦が始まった。

 舞桜は即座に移動を開始。達樹はその後方を進み、周囲に視線を送りながらついてくる。


「早河さんたちが敵をギリギリまでひきつけ、私が校舎に入って塚町さんを見つける」

「わかった……けど、捕捉できるのか?」

「私が今使える虚無の魔法は、闇と同化し魔力を掌握することができる……つまり、この暗い校舎で使えば、敵がどんな感じで布陣しているかは、魔力で探知できるよ」


 断言しつつ、舞桜は小さくため息をついた。

 それだけ魔法の範囲を広げれば、必然的にその影響が体に現れるのだが――舞桜はふと達樹へ視線を送った。


「……どうした?」


 気付いた彼が呼び掛ける。舞桜は「何でもない」と誤魔化すように言った時、校舎端へと到達した。


(……彼は事情をすぐに把握してくれたし、大丈夫か)


 ――舞桜自身、この魔法を人目があるところで使用しなかったのは、見た目の問題があることもそうだったが、何より性格が変化してしまう点にあった。

 予め説明しておけば問題ないようなことなのだが――それを話す場合、必然的に特定の魔法しか使えないことを話さなければならなくなるため、話せない。そしてこの魔法は単独で使用し続ければドツボにはまる――だからこそ、達樹を傍に置いたのだが、


(……彼なら)


 そう思った時、ふいに野乃の言葉を思い出す――とうとう男の子に――


(いやいや、それはないから)


 首を小さく振り舞桜は自身の考えを振り払う――が、なんだか変に気に掛かり、あまつさえ顔に出てしまいそうになる。


「……どうした?」


 再度達樹が問い掛ける。首を向けると訝しげな彼の姿。


「……ごめん、少し考え事。急がないとね」


 舞桜は気を取り直し校舎へと手を伸ばす。壁面に触れる寸前、手には鉄でも触れるような冷たい感触が。


「……達樹、今一度確認しておくよ。虚無の魔法を使用し続ければ、その影響で性格も変わってしまう」

「ああ、気にするなってことだろ?」

「うん、それでもし私が暴走し始めたら、できる範囲でいいから止めて」

「……善処する」


 苦笑しつつ語る達樹。おそらく自分の技量でそんなことができるのか――などと思っていることだろう。

 けれど舞桜はそう思っていなかった。むしろ、できるとさえ確信していた。


 舞桜は一呼吸置いて、体の内に眠る魔力を引き出す――魔法を発動する直前、なぜそう思ったのか考え、以前の事件で達樹が放った言葉を思い出す。


(命を助けられて、そして今立栄さんが危機に晒されている。だから助ける。これ以上理由はいらないだろ?)


 そんな言葉――あの事件が終わった後、彼は本心だと言っていた。


(舞桜の指示には従う……けど、俺にも舞桜のことを守らせて欲しい……だから、そんな悲しい顔をしないでくれ――)


 正直に、嬉しかった。


「……達樹」


 作戦開始寸前、舞桜は口を開いた。


「一つだけ、聞かせて」

「何だ?」

「……まだ、私の騎士として戦ってくれる?」


 その言葉で――達樹は、会心の笑みを浮かべた。


「もちろん」

「……うん」


 舞桜は頷き――そして、作戦開始の言葉を告げる。


「行くよ――達樹!」

「ああ!」


 頷いた直後、魔法が起動し――虚無の魔法が、結界に穴を開けた。


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