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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第2話

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選んだ相手

 達樹たちが階段を下りる音を耳にして少し――踊り場に、その姿が現れる。


「あ……」


 菜々子だった。彼女は舞桜を見て、小さく呻く。


「菜々子――」


 それに達樹がすかさず反応。対する舞桜は何も言わず、黙ったまま階段に背を向けた。

 達樹にとっては感情が爆発しそうになって――となんとなく理解したのだが、その反応に菜々子は少しばかり驚き、少し早足で階段を下りた。


「舞桜」


 強い声音。開き直るつもりだろうと思い、達樹はすぐさまフォローに回ろうとする。


「菜々子、実は――」

「達樹、黙って」


 言葉に、達樹は押し黙った。だがここは言わないとまずいと断じ、口を開こうとした。けれど、


「舞桜、わざわざ来てもらって悪いと思っているけど――」

「もういい」


 達樹を他所に会話を始めた二人だが、舞桜が一言呟いたことで止まった――凍りつくような、淡々とした声。


「もういい……何も言わなくてもいい」


 言い捨てて、舞桜は歩き出した――先ほどの言葉はおそらく、怒りを誤魔化すために放たれた言葉なのだろう。

 そうして舞桜は菜々子を一瞥する。彼女達は視線を合わせ、やがて――


「あと少しで警察が来る。それまで二人は待っていなさい」


 強い命令口調で舞桜は告げると、一人で歩き出した。残党を処理する気なのかもしれないが、達樹たち以外に人の気配は喪失していた。

 達樹は激昂するような事態にならなかったことに安堵する。そしてとりあえず舞桜の状況を説明しようと達樹は口を開きかけて、


 絶句する菜々子の姿を目にした。


「……菜々子?」


 迷子になってしまった子供のような眼であったため、達樹は名を呼んだ。けれど反応が無い。舞桜を凝視して、時が止まったかのように反応がない。

 それが舞桜の態度によるものだと達樹はすぐに気付き、慌ててフォローしようとした。


「あ、菜々子。舞桜は不機嫌みたいだけど、それには理由があって――」

「……理由?」

「ああ。なんか闇系統の魔法を今は使うらしくて、その影響によって性格が少し変わっているというか」


 ――その言葉の瞬間、菜々子は目を見開いた。


「……え?」


 そこで驚かれるとは思っていなかったため、達樹もまた驚いた。


「ど、どうした?」


 質問すると、菜々子は即座に我に返り、


「そう……闇、か」


 歩く舞桜の後姿を見て、呟いた。


「初めて聞いたよ、そんな話」

「初めて……今まで舞桜は話していなかったのか?」

「うん……」


 小さな声で菜々子は答えた。そして表情は、ひどく痛切なものへと変わっていた。

 何か言うべきなのだろうかと達樹が思い始めたその時、校舎の外から車の音が。


「警察、かな?」


 達樹は予測しつつ歩き出した。


「とりあえず、舞桜についていこう」

「……そうね」


 菜々子は小さく頷き、足を前に出す。達樹はその隣を歩き、校舎を出た。

 周囲は少しずつ闇に染まり始めていた。日は沈んでしまったらしく、達樹は一日の終わりを自覚すると共に、ひどく疲れたと率直に思う。


 周囲に人影はない。舞桜は校舎を出てから周囲を見回しているが、車の音以外は全てが消え失せていた。

 やがて、車――パトカーが到着し、警官が車から現れる。次いで達樹が注目したのは、スーツ姿の男性。達樹にも見覚えがあった。早河という人物だ。


「……立栄君、大丈夫か?」


 彼は舞桜に近寄ると、開口一番尋ねる。


「ええ、怪我などはありません」


 舞桜は特に感情を込めず返答。しかし先ほどまでの強い硬質な印象は感じられない。闇の力が収まったらしい。


「現在、応援を頼み周囲に人を張り巡らせている。既に幾人か『キラービー』の連中を捕まえたという報告もある」

「そうですか……計らずしも『キラービー』殲滅作戦になってしまいましたね」

「不可抗力とはいえ、私達としては悪くない形だ」


 早河はそう言って肩をすくめる。


「ここからの方針だが……舞桜君もわかっていると思うが、『キラービー』については調査が済んでおり、逃げる場所はわかっている。そこへ私達は向かうことにする。この場所に私が来たのは、現場確認と君を迎えに来ようと思ったからだ。それでもし協力してもらえるなら――」

「大丈夫です。行けます」


 二つ返事で舞桜は同行を了承。それに早河は頷いた。


「では、早速だが向かうとしようか……ところで、二人はどうするんだ?」


 話の矛先が達樹たちへと向く。


「……二人は」


 舞桜は達樹たちを一瞥してから、口を開く。


「……送ってもらえませんか?」

「構わないよ……だが、私としては君の援護が一人くらいは必要だと思うのだが」


 早河は突然、そんなことを言い出す。それに驚いたのは舞桜だった。


「援護……ですか?」

「今回の騒動、どうやら君を狙っているものらしい。現状どうにか敵の攻勢を跳ね除けているが、孤立した時何をされるかわかったものではないだろう? 本来は君の協力を必要しないのが一番なのだが……光陣学園の生徒もいる。私達だけでは難しいため、こういう提案をした」


 ――早河の言葉に、舞桜は口元に手を当て考え込む。その表情を見て、達樹はにわかに悟った。


(以前の事件を思い出しているのかもしれないな)


「……そうですね、確かに一理あります」


 舞桜は同意するように頷いた――以前の事件を思い起こし、単独行動はまずいという意見で一致しているのだろう。


「二人はどうだい?」


 早河が達樹たちに問い掛ける。そこでまず達樹は頷いた。行っても良いという意志表示だ。

 菜々子もまた頷く。そこで早河は、舞桜に話を向ける。


「二人とも、連れて行くかい?」

「いえ……」


 舞桜は首を左右に振った。


「一人だけにします」


 ――それはどういう意図で言ったものだったのか。同行者が複数となれば危険だと判断したのか、それともパートナーとしてどちらを連れていくか決まっているのか。


「良いだろう。それで、どちらを?」


 早河が問う。達樹としては菜々子が表明した以上、出る幕は無いと思っていたのだが――


「達樹」


 舞桜が呼んだのは、他ならぬ達樹だった。


「悪いけど、協力してもらえない?」

「……俺、が?」


 疑わしく達樹は聞き返す。指名されるとは思っていなかった。

 その時、舞桜の瞳が僅かに揺らぐ。それはきっと菜々子や早河に見咎められないような小さな変化。しかし、達樹はその一事で何が言いたいのか理解した。


(あの闇の魔法……あれで性格が変化するから、菜々子を傍に置いておきたくないのか)


 そんな風に想像した――もし菜々子と組んで行動する場合、魔法を使った時点で激昂するのではと、彼女は内心不安を抱えているに違いない。


「菜々子は……申し訳ないけど、私の家で待機して。あと、日町さんを呼んでおいてくれるとありがたい」


 舞桜は続いて菜々子に指示を行う――達樹は戸惑いの中で、反射的に菜々子へと視線を向けた。気落ちし、何かしら考えることがあるのではという推測がそうさせたのだが――


 達樹の目に映ったのは、無表情の彼女。


「……わかった」


 極めて冷静に告げた菜々子は、同意すると速やかに歩き出した。達樹は拍子抜けすると共に、口論になるのではないかと危惧を抱いていたため安堵し、


「……達樹」


 舞桜が口を開いた。


「菜々子のことは……後にしよう。今は、塚町さんを追うのが先決」

「あ、ああ……そうだな」


 達樹は気を取り直し彼女の言葉に同意。


「それで、今からどこへ?」

「早河さんが言った通り、場所はわかっている……『キラービー』にはいくつか拠点がある。その中でも特に利用されている別の廃校……そこが、最後の逃げ場所だと思う」

「わかった。で、俺は何をすれば?」

「達樹の判断でいいから、私の援護をして欲しい」

「……それは」


 達樹としては戸惑い不安げな表情を浮かべたのだが――反面、舞桜は笑った。


「以前の事件と比べれば、ずいぶんと楽な仕事だと思わない?」

「……そう言われてみると、そうかもしれないけど」


 納得しきれるものではなかったのだが、達樹としては頷く他なかった。


「わかった……あの時の戦いを思い出し、援護して欲しいと」

「うん……ごめん」

「謝る必要はないさ」

「では、移動するとしよう」


 締めの言葉を早河が告げる。そして彼は、手で学校正門方向にあるパトカーを指し示した。


「二人とも、とりあえず乗ってくれ……ただ他の者もいるため、申し訳ないが二人は別々の車に乗って欲しい」


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