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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第2話

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闇と怒り

 わだかまる漆黒に加え、舞桜の姿を認め達樹はそちらへ向かおうか一瞬躊躇う。しかし、合流しなければならないと思い、歩き出す。

 周囲に人はいない――いや、闇を見て悲鳴じみた男性の声が聞こえるので、逃げ出しているというのが正解かも知れない。


「……ん?」


 舞桜が気配を感じたらしく、達樹の方へと振り向く。


「ああ、達樹」


 どこか睨みつけるように、舞桜は言った。雰囲気があまりにも違いすぎるため、達樹は一瞬本人なのか迷ったのだが――


「えっと……もしかして、この魔法のせいか?」


 なんとなく推測したことを尋ねてみると、彼女は我に返ったのか目つきを戻し「ごめん」と呟いた。


「魔法の影響で、少し攻撃的な感じになっているの……とりあえず近くに来て。私が指定した存在以外、この闇は何も取り込まないから」


 言われ、達樹は僅かに逡巡し――彼女を信じ、床に存在する闇に足を踏み入れた。それは彼女の言葉通り、達樹を襲うような真似はしなかった。

 周囲からはなお男子の喚声が聞こえる。見ると、闇が中庭や下駄箱を覆い始め、轟いていた。それに触れないように男子たちは逃げ始めており、最早統制がとれているとは言えない状況となっている。


「……ごめん、舞桜」


 ひとまず達樹は舞桜に謝罪する。対する彼女は両の拳を一瞬強く握りしめ、


「……いえ、話は聞いているよ。きっと塚町さんの計略だったんでしょ?」

「ああ……さっき対峙した時、彼女自ら言ったよ」

「そう。なら、仕方ないよ」


 舞桜はゆっくりと息を吐き、なおかつ眉間に皺を寄せ何かを堪えるように告げた。それを見た達樹は、魔法による影響が強いのだと察せられた。


「もしかして、怒りを我慢しているのか?」

「……うん」

「その状態でもし、菜々子と出会ったら……」

「どうなるか、わからない」


 怒りに近い目の奥に、僅かだが不安を覗かせていた。達樹はそれで彼女の真意を汲み取り、提案をする。


「菜々子と再会したら、俺から事情を説明するから」

「……お願い」


 舞桜は懇願するように言うと、一度深呼吸をして闇の侵食をストップさせた。


「ひとまず、これで様子見ね……」

「ほとんどの奴らは逃げたみたいだな。で、肝心の塚町さんは?」

「私は見ていないよ。窓からでも逃げたんでしょう。今は二人を救出することを優先とするから、無視する」


 舞桜は淡々と告げ、歩き出す。方向は、菜々子のいる校舎側。


「そういえば、上から音がしなくなったな」


 ふいに達樹は呟いた。塚町が驚愕した後から、隣の校舎より爆音が聞こえなくなっていた。


「塚町さんが退却指示でも出したんでしょう」


 大して興味も無さそうに舞桜は述べた。達樹はそこで、舞桜が怒りを抑え虚ろな目をしているのに気付いた。


「……怒るのが嫌だから、相当頑張って自制しようとしているらしいな」

「よくわかるね、達樹」

「いや、まあ……」


 なぜこうまで機敏に察するのか――達樹は色々可能性を考えて、結論を導き出すのはやめにした。

 なんだか色々な感情が見え隠れする様な気がしたので、それを表に出すのはまずいと思ったのだ。


 そこでなんとなく、達樹は横顔の彼女を見た。目はどこか焦点があっておらず、攻撃的ではなく退廃的な印象を受ける。

 まったく違う表情に達樹はなんだか心臓の鼓動を速くしつつ、自制に努め誤魔化すように声を上げた。


「塚町さんだけど……どうする?」

「直に警察も来る。ここで一悶着あったことを説明すれば。警察も黙っていないし追跡を始めると思う。もし警察が動くというのなら、私はそれに従うだけ」


 淡々と語る舞桜。けれど声音の奥には、僅かながら怒りが混ざっていると、半ば達樹は確信した。

 そしてふいに立ち止まった。階段手前まで来て――菜々子が正直に階段から降りてくる可能性を吟味している様子。


「……どうして、塚町さんはこんなことをしたと思う?」


 達樹は質問をした。すると舞桜はゆっくりと首を向け、愁いを帯びた視線を伴い返答する。


「きっと私に対する敵愾心だと思う。親衛隊に所属してはいたけど、私に対し敵意を持っていたようだから」

「つまり、舞桜をこうして罠にはめるため、わざわざ親衛隊に……?」

「そう考えるのが妥当だと思う」


 達樹にとっては、ずいぶんと回りくどいやり方だと思い……また、絶対的な力を持つ舞桜の前には、策が必要だったのだろうと思った。


「……彼女は『キラービー』と組んでいるんだろ? こうなったら、学園にもいられなくなるんじゃないか?」

「それを判断するのは私じゃない。まあ、彼女の父親は研究機関の中でも重役の人だから、揉み潰す可能性だってある」

「……それ経由で廃棄された魔法を手に入れたんじゃないのか?」


 達樹がなんとなく言及してみると、舞桜は首を左右に振る。


「父親だって、さすがに危険な魔法を娘に与えるとは思えない……その可能性もゼロではないけれど、私は彼女にこうした策を吹き込んだ人間がいると思う」


 ――そこで達樹は、後援会の日誌から女性に会ったと書いてあったのを思い出した。


「あの、日誌に書いてあった女性か……!」

「そう。その相手が全ての首謀者なのか、他にもいるのかわからないけれど……ともかく、別にそうした存在がいるはず――」


 そこまで語った時、階段を誰かが下りる音が聞こえ始めた。達樹と舞桜は押し黙り、その相手を待ち続けることにした――



 * * *



 空がいよいよ真っ赤に染まりつつある中で、白衣の女性の携帯電話が鳴る。相手は――塚町。


「はい? もしもし?」

『……緊急事態よ。すぐに増援を寄越して』


 電話に出た直後、焦った塚町の声が聞こえてきた。対する彼女は、どこか義務的に応じた。


「どうしたの?」

「どうしたもこうしたもないわよ……!」


 そこから塚町は、策が全て破られたと報告を行う。


『その中で一番の問題は、あの女に魔法陣を破られたこと……! 話を聞いたら、虚無の魔法を使ったっていうじゃない!』

「……へえ?」


 彼女は興味深そうに呟いた。それは彼女にとっても初耳だった。


『あの魔法さえなければ、あいつを完全に操ることができたはずなのに……!』


 悔しそうに言う塚町――だが、彼女の答えは多少異なっていた。


(おそらく、どうにもならなかったでしょうね)


 そんな風に彼女は思う――潜在能力の程はわからないが、彼女はあの魔法陣を見に受けても耐えられたのではないだろうか。

 とはいえ、そうした推測を塚町に述べたりはしない。


「……そうね、それで増援を?」


 そのような見解を話せば、電話の奥にいる人物は激昂するだろう――思いながら彼女は問い掛けた。


『ええ、そうよ』

「……この時間からすると、集めるにも時間が掛かるわね。それに、舞桜が動いているということは、警察が動いている可能性もあるでしょう?」

『警察なんて、その気になればどうとでもなるわよ』


 ――自分には、その力がある。そんな風に思っているのかもしれない。


(これはもう、駄目ね)


 彼女はすぐさま決断する。というより、舞桜に策が通用しなかった時点で頭ではそう決めていた。


「わかったわ。できるだけ急いで増援を呼ぶ……で、場所はどこ?」

『いつも私達が落ち合っていた場所よ』

「別の廃校ね……わかったわ」


 彼女は通話を切った――無論、増援を呼ぶなどという行為を、彼女はするつもりもない。


「もう少し見れると思ったのだけれど……あなたの本気を」


 残念そうに言う視線の先には――写真立てが一つ。

 その中には舞桜が写る写真があり――それを見ながら、彼女は小さく微笑んだ。


「塚町さんとの対決が、最後のチャンスかな……さて、どんな風に立ち回るか見せてもらうわよ」


 どこか嬉しそうに――そして、どこか期待するように、彼女は写真に向かって呟いた。


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