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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第2話

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35/106

主犯者

 転移させられた後、達樹はどうにかこうにか二階まで辿り着く。途中二度ほど戦闘を繰り広げたが、幸い怪我もなく突破することができた。


「問題は、ここからだな……」


 達樹は呼吸を整えながら呟いた。

 下にはかなりの人数がいる――達樹の所持する増幅器は特殊で、他の人間と比べて強い物であるため、真っ向から戦っても後れを取るようなことはない。とはいえ多数で攻め寄られれば間違いなく負ける。


「夜になるのを待って、闇に紛れ脱出するか……? いや、それもまずいな」


 自身の考えに対し、首を振る。もしかすると敵には増援があるかもしれない。これ以上人が増え、夜でも警戒されれば終わりだ。

 どうすることが最良なのか、達樹は考える。だが日暮れまでほとんど時間が無い。決断は手早く行わなければならない。


「……やるしかないか」


 数ある選択の中で、達樹は――強行突破を決める。増幅器などで上手く威嚇できれば、逃げられるのではないかという公算だった。菜々子のことも気になったが――彼女なら、一人で対処できるだろう。むしろ自身が捕まり、人質にされるような真似は避けなければならない。


 ただ仕掛けるにしても、外の状況をある程度把握しないことにはどうにもならない。

 だから達樹は適当な教室に入った。荒廃した部屋なりに、埃の積もった絵なんかが置いてあったため、美術室か何かなのだと見当をつける。


 夕暮れ迫る世界の中で、達樹は下を確認する。やはり不良達がたむろしており、すぐに身を退き見つからないようにした。


「突破するにしても、全部を相手にするのは無理だろうな……」


 考える間に、さらに爆音。隣校舎の上階から。菜々子のはずだが、まだ上にいるということは、苦戦しているのだろうか。


「彼女のことだから心配ないと思うけど……」


 呟きつつ達樹は踵を返し移動しようとした――その時、

 真正面に、人影があるのを目に留めた。反射的に構え、それが見覚えのある女性とだとわかり、口を開いた。


「塚町さん……」

「無事だったみたいね」


 涼しい顔で応じる塚町。けれど達樹は先ほどの推測が頭をよぎり――動けずにいた。


「二人なら互いをフォローできるだろうし、いけそうね……下に行くわよ」


 一方的に告げると塚町は手招きをする。しかし、達樹は動かない。


「……どうしたのよ?」


 小首を傾げ問う塚町。その時、達樹は自分の顔が不審を帯びているのだと気付きつつ、さらに表情が太陽の逆光により彼女に見えていないだと悟った。

 もし顔を直接見ていれば、即座に怪しむはずだ。


「……塚町さん、一つ訊いてもいいかな?」

「ええ、どうぞ?」


 できる限り平静に努めた達樹の言葉に、塚町は大して疑いもなく応じて見せる。


「単刀直入に言うよ……もしかしてここに誘い込んだのは、君の策略か?」


 ――言葉の瞬間、塚町の肩が僅かに跳ねた。微細な動きであったため注意していなければ気付かなかったかもしれないが、達樹は見逃さなかった。


「やはり、そうなんだな」


 達樹は肩を落とし、塚町を睨む。対する彼女は表情が見えていないにしろ、視線に気付いたのか、


「……まさか、あなたに指摘されるとは思わなかったわ」


 不敵な笑みを浮かべ、隠し立てすることなく応じた。


「この調子なら、笹原も気付いているでしょうね」

「……さすがに、ここへ誘い込んでからの手筈が周到過ぎた」

「そうね。まあ、元々無理のあるやり方だと計画段階からわかっていたし、いずれ露見するとは思っていた……けど、あなた達二人なら簡単に潰せると思って楽観的に考えていたんだけど……」


 そこで、塚町は肩をすくめた。


「現状あなた達は健在で、私達が逆に押し返されている。だから私が仕掛けようとしたのだけれど、あっさりと気付かれたわね。戦闘に集中させ、余計なことは考えさせないようにする手筈だったのだけれど」


 ――もし何の疑いもなく近づいたら、彼女の魔法で吹き飛ばされていたに違いない。


「目的は何だ?」


 塚町の動向を窺いながら達樹は尋ねる。彼女は、それに獣のような眼光で応じた。


「愚問ね。なぜあなた達二人を誘い込んだのかわかれば、明瞭でしょう?」


 ――そこで、達樹はなぜ舞桜と自分達の関係を知ったのか気になった。けれど相手が醸し出す雰囲気から、答えそうにないと断じ、


「……人質にでもするつもりか?」


 別のことを尋ねた。塚町は口の端を歪め、笑う。


「ま、それもあるわね……けど、一番の理由はあの女の顔が苦痛に歪む姿が見たいのよ」


 あの女――舞桜のことで間違いないだろう。


「あなた達二人を彼女の目の前に突き出し、片腕でも消し飛ばしましょうか。あなたならどうかわからないけれど……一番の友人がそうなれば、彼女だって取り乱すでしょう?」

「そんなことをして……何になる? それに、そんな馬鹿な真似をする前に、お前達がやられるんじゃないか?」

「だからこそ、彼女用に罠を張っているのよ」

「罠……?」


 聞き返した直後、達樹はどこからか魔力の奔流を感じ取った。


「これは……!?」

「やはり、ここにあの女が来たようね」

「来た……!?」

「立栄舞桜本人が来たということよ。ま、彼女の情報網なら私達の動向を捕捉するなんて朝飯前でしょう。だからこちらの有利なフィールドに持ち込み、罠を張らせてもらったのよ」


 そう言うと、塚町はこれからのことを想像してか――高笑いを上げた。


「しかも、今回利用した罠は後援会が利用しようとしていたものよりもさらに強化されたもの。魔法により身動きが取れなくなったあの女に、ゆっくりと絶望を刻み込んであげるつもり――」


 そこまで言った時だった。

 突如、魔力の奔流が――途切れた。


「――何!?」


 予想外だったのか、塚町の表情が変わる。


「馬鹿な……土地の魔力を消し飛ばしたというの!?」


 動揺する塚町――それを達樹は見逃さなかった。

 ここしかないと悟り、本能的に右腕に魔力を収束させ、光の槍を生み出す。それを素早く投擲しようと構え、


 塚町と目が合った。


「くっ!」


 彼女は即座に形勢不利と悟ったか、踵を返し廊下を駆ける。達樹の視界から彼女が消え、さらに階段を駆け下りる音が聞こえ始めた。


「……舞桜が、来ているのか」


 嘆息しつつ、達樹は光の槍を消した。


 一時、怒髪天を衝く舞桜を想像し、達樹は頬を僅かにひきつらせた――が、恐れていても仕方がないと割り切り、気を取り直し教室の扉に近寄り、廊下を確認する。


 誰もいない。しかし階下から音が聞こえる。


「舞桜が戦闘を始めているということか……?」


 達樹はどう動くか思案する。舞桜に集中さえしてくれれば、この場を脱出する機会はある。


「よし、行くとするか……」


 呟きつつ達樹は行動開始。手早く階段の近くまで移動し再度確認。やはり敵はいない。


「舞桜のことが気掛かりで、引き上げたか……?」


 逃げ出すチャンスである可能性は非常に高い。運が良ければ舞桜と合流することも可能なはず。


「よし、こうなったら一度下へ――」


 呟いた直後、爆音。達樹は動きを止め、音に神経を尖らせた。

 校舎を通じて、こもるような振動が達樹の体にも響く。さらに喚声にも似た声が聞こえ、下で交戦しているのがわかった。


 達樹は無言で決断し階段を下り始めた。けれどその途中で男の無様な悲鳴が耳に入る。それは学校の外へ出たのか段々と小さくなり、達樹は何が起こっているのか不安がよぎる。


「舞桜が……攻撃しているんだよな?」


 達樹はどこか自分に言い聞かせるように階段を下り、下駄箱へ向かう。そして、

 一面に轟く闇に、達樹は慄いた。


「な……!?」


 足は硬直し、夕闇に存在する漆黒を凝視する。よくよく見るとそれは下駄箱近くの廊下を中心にして形成され――そこに、舞桜が立っていた。


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