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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第2話

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34/106

彼女が今使える魔法は――

 警察からの一報を聞いた時、舞桜は廃校に向かう途中だった。

 そこが『キラービー』の集まっている場所の一つ――そう調べがついていたためとった行動であり、あくまで密かに様子を見て、明日以降どう動くか判断しようとした。しかし、


『――というわけで、現在廃校に笹原君と西白君がいる』


 連絡してきた警官、早河からその事実を聞いた時、舞桜は頭がクラクラした。

 なぜそんなことになったのか――舞桜は尋ねようとしたのだが、相手の声の方が早かった。


『また、他にも同行している者がいるらしい。塚町緑という名だそうだが……聞き覚えがないか?』

「……つか、まち?」


 舞桜はその名前を聞いて、嫌な予感を抱いた。

 親衛隊に所属している、菜々子と並ぶ才女――しかし近くで接している内に、舞桜は彼女に対しあまり良い感情を抱かなくなった。


 なぜか。滲み出る気配というか、雰囲気というか――そうしたものが舞桜に対し明確な敵意を持っていたためだ。


「……わかりました。私もそこに向かいます」

『戦闘を行っているようだから、私達もそこへ急行する。気を付けてくれ』

「はい」


 電話を切り、舞桜は走り出す。身体強化系の魔法を使いつつ、できる限り急ぐ。

 少し前までなら、ここに風の魔法を上乗せして急行していたところなのだが、今は使用できる魔法の属性が変わってしまったため、できない。


 そして、現在使える魔法のことを考えると、少しばかり懸念を抱く。

 舞桜の能力を鑑みれば、増幅器を使う人間が多い『キラービー』相手に後れを取ることはない。しかし、もし集団で攻撃を仕掛けられれば――


「今の魔法、制御が難しいからなぁ……慎重にやらないと甚大な被害を及ぼしてしまうし……」


 けど、菜々子や達樹がいる以上、やるしかない――断じると舞桜は塚町の顔を思い出す。常日頃傍にいながら、どこか他の人達と異なり一枚壁を形成する様な雰囲気をまとった生徒。

 なぜそんな態度をとるのに、親衛隊に入ったのか疑問に思っていた。けれど、もしこの事件が塚町の引き起こしたものだとしたら、彼女は自分を追い落とそうとあえて懐に潜り込んだのではないか――そう舞桜は思った。


「でも、なぜ塚町さんと菜々子たちが……」


 けれど謎は残る――が、舞桜は頭の中で推測を立てた。菜々子と自身の関係性についてバレているかどうかはわからない。けれど二人は『青薔薇応援団』という、ずいぶんな面子を集めた同好会に入っていた。そこから接点を持ち、塚町は二人に接触したのでは――


「塚町さんが菜々子に話を持ちかけたとしたなら、学校の成績とかがその可能性にあたるのかな」


 好戦的であるが故に、塚町は菜々子まで追い落とそうとしていたのでは――そういう推測に行き着いた瞬間、


 舞桜は廃校に辿り着いた。正門に立った瞬間、敷地内から轟音が響いてくる。


「急がないと……」


 舞桜は足を踏み入れ、菜々子たちを探すべく室内に入ろうとした。その時、


「お、来たな」


 背後から声。振り返ると光陣学園の制服とは異なる、数名の男子学生。舞桜はすぐさま指輪や腕輪をはめていることに気付く。増幅器を使用する魔法使いだ。


「麗しの立栄舞桜さんじゃないか」

「……突っかかってくるようなら、相手になりますよ?」


 やや怒気を込め舞桜が言うと、彼らは苦笑した。


「おお、怖い怖い。まあ、そういう気なら話が早い。もしあんたが来たなら、食い止めろと命令されていてなぁ」

「止められると思っているの?」


 舞桜が発すると、男はニヤニヤと笑う。


「そりゃあ俺達はあんたと比べればゴミみたいなもんだ。だが、そのゴミが大量に来たら、どうなると思う?」


 言うや否や、彼の後方からゾロゾロと色んな制服を来た男子が現れる。中には光陣学園の制服を着た人物もおり――


「……上で戦っている人たちは、別働隊?」

「そうだな。あんたが来ることを予想し待ち構えていた組だ」


 男が答えると同時に、さらに校舎からも人がやって来る。舞桜はずいぶんと大袈裟だと思いつつ、自分にとって不都合な状況に追い込まれたのだと悟る。


「あなたたちは、何が目的なの?」

「さあて、な」


 男が笑む。その顔は下種という言葉がお似合いのもので――


(ああ……そういうことか)


 舞桜はなんとなく理解すると同時に、一つ質問を行った。


「……光陣学園の制服を着ている人に質問だけど、もしかして今回の件、以前存在していた後援会と関係していたりする?」


 ――問い質した瞬間、呼ばれた男は肩をすくめた。舞桜はそれだけで理解する。自分の見解で正しいのは間違いなさそうだ。


「そして、この中には『キラービー』以外の面々もいる」

「正解だ」


 隠す気がないのか、最初に声を発した男が答えた。

 それと共に、舞桜はこんな馬鹿な真似をする人物達を、誰がたきつけたのかを思考する。ここまで徒党を組んでいる――目的が一緒だとしても、これだけバラバラの面々を一つにするだけの説得力をもたせるためには、それだけの『何か』がないとあり得ないだろう。


(とはいえ、今は菜々子たちを救い出すのを優先……)


 包囲を形成しつつある男たちを見ながら無感情に舞桜は考え移動しようとする。しかし、


「おっと、逃がすつもりはないぞ。それに――」


 男は笑った。作戦は果たした――そういう顔。


「お前はもう、逃げられない」


 刹那、舞桜の立っている地面が発光した。


「――っ!?」


 呻き地面を見ると魔法陣が形成されていた。途端に周囲の面々から歓声が上がる。これで終わり――そう誰もが確信していた。


 だが、舞桜は極めて冷静だった。そればかりか、余裕すらあった。


(この魔法は……)


 魔力の感触から、一時的に洗脳する魔法だと体が知覚する。確かにこのやり方ならば直接戦わずに済む――


(今私がこの魔法を使えることに……意味があったのかもね)


 周囲で声を上げる男たちを見据えつつ、舞桜は断じ――魔法を発動。そして、

 魔法陣の光を、闇が一瞬で覆い尽くした。


 刹那、声を上げていた男たちの口が止まる。中には呆然と闇を眺める者までいる始末であり――その間に光を闇が、喰った。


「な――?」


 最初に声を上げた男が呆然と呟く。同時に舞桜はゆっくりと彼に顔を向けた。


「戦うとなれば、容赦はしない」


 ――声が硬質になり、さらに鋭い視線のためか男の瞳に恐怖が宿る。


 今使用できるのは闇系統の魔法――学園でさすがに使う気にはなれず、この魔法の時は常に使用できる魔法で実技の試験を受けているような有様。さらに言えば、こうした魔法を使用する場合、魔法の性質に舞桜自身引っ張られ、攻撃的になる。


 だからこそ、この魔法については菜々子にも言っていない。


「嘘だろ、何で魔法陣が……」


 囲んでいる男の一人が声を上げる。それに、舞桜は闇を地面に轟かせながら返答する。


「簡単な話よ。魔法の力を止めるには……陣の力を消せばいい。魔法で描かれた陣は物理的に破壊しても効果を止められないけど……この魔法で魔力ごと虚無に飲み込めば、話は別」


 言いながら舞桜は校舎へ向かって一歩踏み出す。さらに左右には闇が渦巻き形を成し、蛇が獲物を飲み込むような形に変化する。


「これに触れれば、その部位はあっさりと飲み込み、消え失せるわ。もし体を失いたくないなら、下がりなさい」


 舞桜の冷酷な声音に――数名の男たちが恐れを成したか逃げ出す。それが呼び水となり、囲んでいた人間たちは壊乱を始めた。


「おい、待て――!」


 それを留めようと口を開く最初の男性。そこで舞桜は彼に視線を送り、


「あなたが、最初の犠牲者になる?」


 蠱惑的な笑みを伴い、告げた――途端に、男の顔が完全な恐怖に変わる。


「……や、やってられるか!」


 その言葉と共に、男もまた逃げ出した。それから統制を失くした男たちが逃げ惑い――

 やがて、その全てが視界から消えた。


「……ふ」


 途端に、舞桜は自嘲的に笑う。これほどまでに恐怖し、退散してくれるとは思わなかった。


「さすが、闇の力って所か……まあいいわ。さっさと片付けましょう」


 舞桜は悠然と校舎へと歩く。もし敵が来たら闇の力を見せつけ、追い返せばいいだろう。


「それと、達樹や菜々子を助けないと」


 呟きつつ、二人に対し僅かながら怒りのような感情を抱く――が、すぐさま舞桜は自制した。


「……と、危ない」


 闇の力により、怒りや悲しみといった悪い感情が増幅するようになっている。現段階でも口調や性格に相当影響が出ている以上、気を付けないといけない。


(とはいえ、菜々子と遭遇した時のことを考えると……)


 自制できないかもしれない――舞桜としては多大な不安を抱えつつ、校舎の中に足を踏み入れた。


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