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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第2話

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33/106

罠と分断

「なるほどな……つまり、何かのきっかけで俺達の悪事を知り、成敗しに来たというわけか」

「悪事という自覚はあるのね。なら、さっさとやられて欲しいのだけど。あまり時間もないし」

「……ふん」


 そこで、男子は表情を変え――笑みを浮かべた。何か策でもありそうな雰囲気。

 直後、彼は踵を返し駆け出した。廊下に靴音が響き、すぐさま塚町が追う。


「お、おい――!」


 達樹はさすがに躊躇い声を上げた。しかし続いて菜々子が走るのを見て、達樹も意を決し後を追う。

 男子はT字路を左へ曲がる。遅れて達樹たちが曲がった時、今度は階段の上がる音が聞こえた。


「上、か」


 塚町は立ち止まり思案する。


「敵の数はわからない……誘い込んでいるとしたら後続からやって来た『キラービー』の面々が階段を塞ぐ、といったところかしら?」

「純粋な魔法使いではない者達の思考ですね」


 ――達樹も彼女たちが何を言いたいのかわかった。退路が断たれたとしても、最悪窓から抜け出せばいいだけの話。


「……唯一の懸念は、そこの人だけど」


 言いつつ、塚町は達樹を一瞥。


「いざとなれば、逃げられるの?」

「……増幅器持ちだからといって、そこまで心配されるのは心外だぞ。着地の衝撃を緩和する風魔法くらいは使える」

「そう。腐っても光陣学園の魔法使いというわけね」

「腐ってもって……」

「まあまあ」


 菜々子は達樹を手で制し、塚町へ告げる。


「先へ進みましょう」

「……わかったわ」


 彼女は答え――一瞬、菜々子のことを見て僅かに目を光らせた、ように感じた。


(……因縁、かな?)


 舞桜のことが絡んでいるとはいえ、色々と因縁があるのは消えない――それがここで表に出ないことを祈りつつ、達樹は二人に続き階段を上り始めた。

 二階へ上がり、廊下を窺う。けれど人の姿は無い。


「……とはいえ、気配はわかり易いわね」


 嘆息する塚町。彼女の顔は左に向いている。


「よし、このまま進む――」


 その直後だった。突如、達樹たちが立つ足元が、


 発光し始めた。


「っ……!?」


 さすがの達樹も動揺する。次の瞬間、起きるのは爆発か、それとも――


「ちっ!」


 舌打ちと同時に、塚町は素早く魔法陣から脱する。その間にさらに光が増し、達樹は全身が強張り――


「達樹!」


 菜々子が告げた直後――視界が暗転した。


「っ!」


 呻き、自分が反射的に目を瞑っていたことを悟り、ゆっくりと開ける。そこは――


「え?」


 学校で使われる机と椅子が少々と、正面にピアノ――音楽室だった。

 廃校にも関わらずピアノや机が存在しているのは奇妙だったが――ピアノについてはあまり埃をかぶっていなかったので、もしかしたら誰かが持ち込んだのかもしれない。もっとも、誰がこんな場所にピアノを設置したのか疑問は残るが――


「今のは……転移魔法?」


 考えながら達樹は呟き、実感の湧かない状況で困惑する。


 ――転移という魔法自体はある程度研究が進み、使用できる者も少なからずいるのだが、前提として先ほどのような魔法陣を利用することが必須となる。理由は、一瞬で物理干渉なしに転移させようとすると、恐ろしい程の魔力を消費してしまう。それは人間一人では賄える量ではないため、ああして土地の魔力を引きだして使用する。

 けれど、それにより転移魔法が使えたとしても、長くとも半径百メートル程度――つまり、現実的に使用できるレベルの魔法では、決してない。


 だが今回の場合は、有効といえるかもしれない。


「……そうか、俺達を分散させたのか」


 数秒の硬直の後、達樹はどういう意図で魔法陣を形成したのか理解した。


「となると、菜々子や塚町さんがどこにいるかだけど――」


 刹那、中庭を挟んで反対側にある校舎から、轟音が。見ると、反対側の建物から閃光のようなものが発生している。

 目を凝らすと、誰かが戦っている――菜々子だ。


「あっち側に転移したのか……となると、塚町さんは?」


 呟きつつ、達樹はまず階下を見回す。するとそこには、どこにいたのかわからない不良らしき人物が、十数名。


「あれだけいるとなると、飛び降りたら下でボコボコにされるだろうな……」


 コメントした時、またも轟音。反対側校舎で菜々子が戦っているのは間違いない。


「俺一人でここから脱出する必要があるのか? 大丈夫かな」


 不安この上ないが、助けが無い以上進むしかない――そう達樹は断じ、廊下に出た。


「しかし、転移魔法を使用した後ああして人が出てきたというのは、迎え撃つ準備でもしていたのか?」


 そう疑問を口にした時、達樹の動きが止まる。


「……おかしくないか?」


 まるで自分たちは誘い出され、分散し、不良達は逃げられないように包囲した――そういう形が、今。

 となると、彼らは達樹たちが来るのを見越していたのでは――そういう結論に至る。


「ちょっと待て、俺達は偶然ここに来たわけだぞ?」


 もしや、クラブハウスの段階で監視されていたのか――だとしても色々と疑問は残る。常識的に考えて、ここで彼らが待ち構えている理由は見当たらない。

 その時、達樹の脳裏に塚町の顔が浮かんだ。


「……まさか」


 そんなこと、あるはずがない――思った時、前方に学ランの男子学生が一人。


「いたぞ!」


 学生が叫ぶと、階段を上る足音が聞こえてくる。


「考えている暇はないか……!」


 達樹は思考を振り払い、今はこの場をどうにかすることを優先させる。

 学生が次第に集まり、現れたのは合計三人。以前不良達と戦った経験はあるし、事件で人形と多対一で戦闘をした経験もあるため、達樹は冷静そのもの。


 しかし、決して油断はできない。


「行くか……!」


 達樹は叫ぶと、学生達へ向け走った。途端に彼らは警戒を示し、その内の一人が手を振り叫ぶと炎を生み出した。

 走りながら達樹は彼らを観察。例外なく腕に指輪や腕輪がついているのを見て取り、全員増幅器使いだと悟る。


(いけるか……?)


 達樹は考えながら右腕を彼らに向け――


「ふっ!」


 光弾を放った。槍状にする手前で出力を止めた結果が、野球ボール大くらいの大きさをした、光弾。


「おらっ!」


 不良の一人が光弾へ向け炎を放つ。それは飛来しながら光弾と同様球体に変貌し、両者の中間地点で衝突した。

 火球が炸裂したことにより、爆発。粉塵が周囲を舞い、達樹は慌てて後退する。


「面倒だな……」


 視界確保できない状況で戦う気はない――思っていると前方から僅かに魔力が発生。どうやら煙に紛れ攻撃しようという魂胆らしい。


「こういう場合は……」


 達樹は呟きながら地面に伏せつつ、横にある教室扉に目を向けた。音楽室の隣にあるその部屋は、課外教室か何かのようで机と椅子と黒板があるだけの場所。

 すぐさまそこへ入る。直後、廊下に火球や雷撃が通り過ぎ――だいぶ後方で爆発が起こる。


「なら……」


 達樹はお返しとばかりに右腕に光弾を発生させ、教室から顔を出しつつ投擲。すぐさま部屋へと戻り、どうなるか事の推移を見守り、


「ぐあっ!」


 風船が割れるような音と共に、苦悶の声が響いた。見事直撃したらしい。


「くっ……風よ!」


 すると男の一人が戦況不利と見て、風の魔法により粉塵を吹き飛ばした。それと同時に達樹は廊下へと出て、


「ふっ!」


 視界に二人を捉えた後、再度光弾を放つ。

 男たちは双方気付いたようだが――片方は風の魔法を使い、もう片方は対応が遅れ、


「あぐっ!」


 一人直撃し、倒れた。


(戦闘経験は、あまりなさそうだな)


 達樹はそういう感想を抱きつつ、倒れた男子二人を見て、残る一人へ尋ねる。


「残るは君ひとりだけど、どうする?」


 それに対する返答は――突撃により返ってきた。


「……やれやれ」


 達樹は歎息しつつ拳に力を込め、相対する。男子が拳を振り上げやぶれかぶれの一撃を放ったが、達樹はそれを目で追いながらかわし、カウンターをお見舞いした。


「ぐっ――!」


 男子は腹部に一撃を受け、倒れ伏す。


「とりあえず、ここは終了か」


 達樹は息をつき、首筋に浮き出ていた汗をぬぐう。体が緊張で強張るようなことにはならなかったが、全身に自然と力が入り疲労が僅かに生まれていた。


「連戦続きだろうから、疲労には十分注意しないといけないな……」


 呟きつつ息を整え――達樹は気絶する面々を放置し、歩き出す。

 そこで、はたと気付く。現在このフロアで立っているのは達樹だけ。


「警察に連絡しておこう」


 すぐさま携帯電話を取り出す。さすがにこうした状況となっては、舞桜に隠れてなどと言っていられない。

 その時、再度塚町の顔が頭をよぎる――達樹はまさか、などと思いつつ、


「……ただの推測だし、ひとまず彼女がいることだけ報告するか」


 そう断じ、携帯の発信ボタンを押した。


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