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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第2話

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決然とした事実と彼女の事情

「すまない、警察からの連絡だった」


 日町が戻って来たのはおよそ五分後であり、深刻そうな雰囲気を帯びていた。


「今回破壊された家屋にあった魔法に関する情報だ」

「あ、それじゃあ俺はここで失礼しま――」

「いや、達樹君。君もぜひ話を聞いてくれ。菜々子の抑止には事情把握も必要だろう」


 達樹が出て行こうとした時、日町は声を発した。


「舞桜もそれでいいな?」

「構いません。それで、どのような内容ですか?」

「結論から言えば、当該の魔法は研究時点でとん挫し、破棄されていたはずのものだった」


 ――その言葉で、舞桜の顔が険しくなる。


「破棄……?」

「考えられる可能性は二つ。破棄されていたと思われていたが実は誰かが隠し持っていた。もしくは、残存していた資料を解析したか……どちらにせよこれは、研究の乱用だ。首謀者を逮捕する必要がある」

「となれば、俺達の出番はありませんね」


 達樹はどこか面持ちで日町に応じた。


「お、首を突っ込むかと思ったんだが、違うようだな」

「俺は平穏を望んでいる人間なので」

「そうか……舞桜。詳細については追って連絡を伝えると」

「首謀者についての情報は?」


 舞桜が尋ねる。すると、日町は難しい顔をした。


「それが……顔を知っているはずの副会長は支離滅裂なことを話しているらしい。まあ、接触している間に何かしら魔法を使われたのだろう」

「となると、彼らから調べるのは望み薄でしょうね」

「とはいえ手掛かりは彼らしかない以上、調べる必要はある」


 そう言って日町は達樹へ視線を移した。


「達樹君。舞桜はこれから忙しくなるだろうし、菜々子のことを君に頼むことになりそうだ」

「構いませんよ……早く解決できるといいですね」

「そうだな。舞桜、明日は朝一で警察に行ってくれ。学園にはこちらから連絡しておく」

「わかりました」


 頷く舞桜を見て、達樹はふと考える。応援団の面々に追及されることはないはずだが、念の為何かしら誤魔化す言葉を考えておいた方が良いかもしれない。


「それでは、これで」


 達樹は一度頭を下げ、玄関へ向かおうとする。その時、


「達樹」


 舞桜に呼び止められた。その顔は、ひどく心配そうなもの。


「……ん? 何?」

「菜々子のこと、頼むよ」

「ああ」


 達樹は応じつつ、リビングを後にした。

 彼女の家を出て、達樹は一度深呼吸をする。そして闇に染まった空を一度見上げた後、歩き出した。


「……こういう形で、舞桜に協力することになるとは」


 呟き、菜々子のことを頼むと言った舞桜を思い出す。


「あれだけ気に掛けているということは、よっぽど心配なんだろうな……まあ、あの暴走ぶりを見ていれば自明の理か」


 苦笑いを浮かべつつ、達樹は寮へ向かう。連絡がいっているはずなので心配はいらないはずだが……ほんの少し怒られることを恐怖しつつ、達樹は歩き続けた。






 翌日昼食時、達樹はいつものように優矢と共に食事をする。とはいえ相変わらずの金欠なので、おにぎり二個。


「いい加減この状況から改善しないと……」

「食費を削ると体に響くからな」


 優矢はパスタを口に運びながら言う。達樹はそれを恨めし気に見ながら声を発した。


「そうだな……バイトでもするか」

「校則では禁止だぞ」

「お前の口から校則なんて単語が出てくるとは思わなかった」

「一応真面目で通っている人間だからな。そのくらいの注意はするさ」

「お前が真面目、ねえ……」


 皮肉気に呟くと、達樹は残りのおにぎりを口の中に放り込んだ。


「どの口がそう言うのか」

「心外だな……ところで達樹。昨日の続報なんだが」

「ん、続報?」

「副会長の件だ」


 ――途端に、達樹の鼓動が速くなる。もしや、家屋破壊の件がバレたのか。


「あ、ああ……何かあったのか?」

「どうやら俺達のあずかり知らぬ所で、副会長は警察に捕まったらしい」

「捕まった?」


 事情は無論知っているのだが、達樹は怪しまれないよう聞き返す。


「そうだ。どういった理由なのかわからないが……少なくとも警察に厄介となった以上、ロクなことをしていなかったのは明白だ」

「そうかもな……ちなみに、情報の出どころは?」

「どうやら寮の方にそういった連絡が来たらしい。羽間が寮のおばさんと知り合いだから判明した」


(……気を付けないといけないな)


 新たな情報源を知り改めて誓う達樹。下手をやると彼らに露見する可能性がある。


(隠しながら活動するというのは、優矢達に申し訳ないけど……舞桜にとっては関わって欲しくないだろうからな)


 それに事情を知る人が増えると、舞桜と菜々子の関係など誰かが口を滑らし、バレる可能性が高くなる。舞桜にとって、それは望む展開ではないだろう。


(それに学園関係の話ではなくなってきているしな……ここは警察に任せ、俺達は静観するに限る――)


「すいません」


 達樹が胸中で思考している時、ふいに呼び掛けられた。


「ああ、笹原さん」


 振り返る前に優矢から声が発せられる。遅れて達樹が反応。そこには、


「少し話が」


 どこか険悪な顔つきを伴い、達樹を見据える彼女がいた。

 表情から達樹は何を話したいのか理解しつつ、小さく頷く。


「場所を変える?」

「いえ、ここで構いませんが……」


 菜々子は優矢へ視線を送る。すると彼は意を介し、


「それでは一足先に教室に行く。達樹、遅れるなよ」

「わかっている」


 頷いた後優矢は立ち上がり、あっさりとその場を離れて行った。

 そして彼の座っていた場所に菜々子が座り――片付けと同時に注文をとりに来たウェイトレスに「結構です」と告げる。


「それで、話って?」


 達樹は椅子の背もたれに体を預け、問う。すると、


「達樹、やってくれましたね」


 そういう言葉が飛んできた。


「今朝、警察から連絡が来ましたよ。調査が完全に終わるまで無理な行動は控えてくれと」

「当然じゃないか? 昨日の出来事を考えれば――」

「とぼけないでください」


 声のトーンをやや落とす菜々子。達樹は耳に入れつつ内心ビビる。


「確かに昨日のことはやり過ぎたと、警察から厳重注意を受けました……が、舞桜と喧嘩してすぐに警察からの連絡……達樹、入れ知恵しましたね?」


 完璧に読まれている。達樹はここで誤魔化すのも手かと思ったが――それで通すのは無理だと思い、正直に話した。


「ああ、そうだよ……あのさ、菜々子。独断で突っ走るのは良くないと思うぞ」

「突っ走っていません」

「昨日のアレは突っ走っていないと?」

「私は彼らの所業を見て、確定的であったため行動しただけです」

「……そういう意味じゃなくてさ、あのアパートの時点で報告すべきだったと思うんだよ」

「警察が動くかどうかわかりません。それに、舞桜は危なかった」

「彼女なら乗り切れると思うんだけど……」


 言い掛けて、菜々子の視線が険しくなる。達樹はそれに首をすくめ、今度こそ黙るしかない。


「……ともかく、私は警察から指示を受けた以上動けません。おかげで調べることができなくなりました」


(……それはなにより)


 達樹は表情を変えないままそう思いつつ、菜々子へ口を開く。


「それじゃあ、どうするんだ?」

「調査はしてくれるようですから、私はこれ以上手出しできませんね」


 どうやら指示にはきちんと従うらしい。達樹はひとまず安堵したが、目つきが怖くて乾いた笑い声を上げる。


「まったく……」


 対する菜々子は不満顔を見せたが、それ以上の言及は差し控え息をついた。


「ひとまず、私達は待機ということで。ただ、別口で情報を得た……応援団の方々が無茶な行動をしないよう、観察する必要はありますね」

「そうだな。それじゃあ今後は優矢達の動向を――」


 そこまで言った時、菜々子の視線が揺らぐ。目の先は、達樹の後方。

 反射的に振り返る。そこには親衛隊の姿が。


「……確か今日、舞桜は警察じゃなかったか?」


 呟きつつ目を凝らす。やはり舞桜本人はいない。


「彼女達と行動していない以上、警察にいるのでしょう」


 達樹の呟きに菜々子が反応する。


「なので、今日は舞桜が不在のままああして動き回っていると」

「……固まる必要ないんじゃ?」

「彼女達にとっては、舞桜の脅威を排除するために色々と見回っているつもりなのでしょう」


 嘆息を交え菜々子は呟いた。様子を窺うと、どこか憂鬱な面持ち。


「舞桜にとっては……どちらが良いのでしょうね。単独で行動していても、有名人である以上昨日のようにトラブルがつきまとう。しかし、だからといって親衛隊に囲まれながら生活を送るのも……」

「大変、だな」


 達樹は自然とそうした感想が漏れる。菜々子はそれに小さく微笑む。

 その表情を見て――ふと、達樹は疑問を感じた。


「菜々子……親衛隊に入るという選択肢は無かったのか?」

「ああいう組織に拘束されるのは嫌だったので……それに、ある時提案したら、舞桜に全力で止められました」

「なぜ?」

「私は、あの人達と立ち位置が違いすぎるので」


 そう彼女は言うと、親衛隊から視線を逸らした。


「彼女達は普段から神経を尖らせている。そして立場の異なる人間を目ざとく見つけ、袋叩きにすることでしょう。親衛隊は舞桜に不可侵という暗黙の了解があるようなので、それを完全に逸脱している私の存在は、許さないはずですし」

「もしバレたら、どうなるんだろう?」

「学園における権力者を親に持つ人もいるので、場合によっては学園追放とか」

「……あり得ないって断定できないのが、正直嫌だな」

「そうですね。だから、舞桜は全力で止めたんです。私を守る要因が強いでしょうね」


 寂しく笑う菜々子。それを見て、達樹は舞桜と接するのが大変なのだと改めて感じる。


「けれどそれが力を持つということですからね……仕方、ないのかもしれません」

「そうかもしれないな」


 何か是正する方法はないものか――達樹がふとそんなことを考え始めた時、


「二人して、また作戦会議かしら?」


 横から声が聞こえてきた。

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